裏切り者に花束を。ざまぁ。
教室の窓際、午後の陽射しはやけに優しい。
それが逆に腹立たしかった。
「……あんたさ、私のこと裏で“地雷女”って呼んでたんだってね?」
机の前に立った私に、クラスメイトたちは凍りつくような沈黙を投げてきた。
中でも、佐伯優真——私の“元”彼氏は、目を泳がせて黙りこくったままだ。
「ち、違うって……誰からそんな——」
「証拠、全部ある。LINEも、DMも、通話の録音も。スクショ送った子がいてね。あんた、ぜんぶ晒されてるよ。女子のあいだで」
教室の空気がひときわ重くなる。みんな気づいてたくせに、知らないふりしてたんでしょ? その顔が、何よりの証拠。
あんたが私のこと「メンヘラ」「重い」「ヤれそうだから付き合った」って言いふらしてたことも。
「写真くらい撮っとけ」とか、「ウワサの通り、キツイ性格だった」とか、「バレたら面倒だけど、まあ捨てりゃいい」とか。
私は全部、知ってる。
なのに、優真は涼しい顔して、ずっと“優しい彼氏”を演じてた。
その裏で、私のことを消費して、笑ってた。
——嘘つきね。
——裏切り者ね。
心の奥で、さっきまで自分が書いてた詩のフレーズが何度もリフレインする。
あの詩は、もしかしたら、こんな日のために生まれてきたのかもしれない。
「私、もう学校辞めるから。親に言って、転校する。でもその前に、あんたに“最後のプレゼント”を持ってきたの」
私はカバンから一枚の封筒を取り出した。
中には、優真が別の女の子とキスしてる動画と、匿名のTwitterアカウントが彼の誹謗中傷を拡散している証拠、そして優真の裏アカのログイン情報が収められていた。
「もう拡散済み。あんたの裏アカ、“陰キャ処刑場”だっけ? あれ、晒し上げになってるよ。今頃、学校の女子のLINEグループはお祭り騒ぎだろうね」
「お、お前……っ、なにして——!」
「なにって、“仕返し”だよ。あんたが好き勝手に私を踏みつけにした結果。ざまぁみろ」
佐伯優真の顔が、真っ青になる。
けれど私は、もう何も感じなかった。
——鳥のさえずりさえも今は憎い。
——世界そのものさえも今は憎い。
だけど、これだけは確かに言える。
私は、もう“黙って泣いてるだけの女”じゃない。
「大丈夫。私は地雷女なんかじゃない。“地雷を踏んだのは、あんたの方”だったってだけ」
優真の机に封筒を叩きつけると、そのまま教室を出た。
誰も追ってこなかった。
誰一人、私の名前を呼ばなかった。
それが、なんだかすごく清々しかった。
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数日後。
佐伯優真は“二股バレ&裏アカ炎上”で、学校中の信頼を失った。
部活は退部、内定も白紙。
親が学校に乗り込んできて、謝罪騒ぎになったらしい。
——ざまぁみろ。
私のスマホには、未読の通知が山ほど溜まってる。
「ごめん」「話を聞いて」「誤解なんだ」「戻ってきて」
全部無視した。
あんなもの、ただのノイズ。
だって私は、もう全部吐き出したから。
誰かを信じることが、どれほど愚かで、どれほど苦いものか。
それを思い知らされた私は、ようやく一歩、自由になれた気がする。
——嘘つきな貴方が嫌い。
——信じてしまった私さえも今は憎い。
それでも。
私は、きっと、前に進める。
あの傷を抱えたまま、あの詩を胸に抱えて。