1.夜
終わりがあるから頑張れるのだと誰かが言った。
それが世界の終わりか、人生の終わりか、はたまた映画の終演か。それがどんな終わりかは誰も知らない。平等に与えられているらしい日常は平等なんかではなくて、僕なんかを忘れて通り過ぎていく。そうしてやって来る今日を、諦めることから僕が始まる。
「今日の部活まじだるいわ」
「うわ、しかも今日顧問いんじゃん」
部活動中心の彼らを鼻で笑う。
部活動だって受験勉強だって時間の浪費でしかない。だいたい学校生活はそういうものだ。この中にいるだけで吐き気がする。僕はリュックを背負って颯爽と教室を出た。
教室を出たら出たでグラウンドからは部活動に励む声が、新校舎の最上階からは吹奏楽部の高らかな音色が聞こえてくる。どれも青春という感じがうざったい。僕は速足で校門を抜け、家路についた。
帰宅すると、母は淡々と家事をこなし、父は書斎で嘆いていた。僕の父親は天才小説家・石戸普段である。"普段"は医師をしながら作家業を兼任。ラブコメの創作を得意としている。今日は病院が休診日で、この声は朝僕が家を出るときから聞こえていた。ということは朝から創作に励み続けていることになる。それもそのはず、もう父には、“石戸普段”にはそうするしか道が残されていないのだ。
"普段"は5年もの間1度も作品を世に送り出せていない。5年前は重版だけに留まらず映像や漫画でも展開されたが、ちやほやされていた“普段”だったが一発屋としてすっかり世間から忘れ去られてしまったのだ。
書斎を通り過ぎ、部屋に戻ると殺風景な部屋が僕を迎え入れる。ノートパソコンが置かれただけの学習机とベッドがあるのみ。生活感を全く感じられない部屋だと我ながら思った。
リュックを部屋の中央に置き、真っ先にPCを立ち上げる。真っ白なWordソフトに、ひたすら文字を打ち込んでいく。事務作業のように、淡々と文字が流れていく。タイプ音だけが響く部屋で僕はひたすら文章と向き合い続ける。これが僕の日課であり、これこそが僕の生きる意味になった。