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私には思い出せないことがある。
どうして私はメイを忘れていたのだろう。
メイは幼少期の私にとって、とても大切な子で、唯一心が通じ合っていた子だと言っても過言ではない。そのくらい、私は淋しくてみっともない子供時代を過ごしてきたのだ。
それなのに、私はメイが現れるまで、いや、メイが思い出すように促してくれるまで全て忘れていた。いつの間にか忘れて、これまで、一切、一秒たりとも名前も顔も思い出すことがなかった。
大切な子だったはずなのに、どうして忘れられたのだろう。
そして、メイとはいつ、どうして別れたのだろう。
子ども時代に友達同士が疎遠になるイベントは多々思いつく。進級時のクラス替え、卒業して別々の学校に進学、引っ越しに伴う転校、習い事先で別の仲良しグループを作った、些細な喧嘩からの仲違い。
けれど、その程度のことで私とメイの仲を引き裂くことは出来ないと、当時の私は自負していた。思い出した今なら分かる。
それなのに、私はメイといつ、どのタイミングで別れて――大学は地元から離れた大学に進学したので、この時点では別れていたはず――、どうやって離れ離れになったのか。私とメイは別れ際にどんな顔をして、どんな言葉を掛け合ったのか。何も思い出せない。
それに、私はこうやって時間の流れを受け入れて二十八歳の大人になってしまったのに、どうしてメイは幼い頃のまま姿で私の前に姿を表したのだろう。
何も、分からない。
メイに聞けば教えてくれるだろうか。メイ自身は知っているのだろうか。
メイと一緒に居れば、いつか分かるのだろうか。
それも、週末、私とメイの約束の場所にたどり着くまでだけど。