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「本当に、メイなの?」
「ほんとにわたしだよ」
「え、だって、子どものまま」
「そりゃあ、幽霊ですから」
「幽霊ってことは死んでるの?」
「うん。当然、死んでるねえ」
「えっと、いつ死んだの?」
「もー、それも覚えてないの? それなら、約束のことも?」
わたしはコクコクと首を縦に振ると、メイは呆れた表情で一つ大きく息を吐いて肩を竦めた。
「待ち合わせしてたでしょ?」
「いつ、どこで?」
「放課後。いつもの公園。もしかして、あの公園のことも忘れちゃった?」
メイが不安そうに顔を覗き込んでくる。私は無意識のうちに奥歯を噛んで目を逸らした。
覚えてる。忘れられるものか。
私の生まれ育った町は山に囲まれていた。けれども、大型スーパーはあるし、新幹線の駅もある。山を貫いているトンネルを通れば都会にも出れる。田舎というほど田舎でもない――と個人的には思っている――いってしまえば郊外のベッドタウン。
そんな街にある、私の家の裏の山裾にあった公園。滑り台と砂場、ブランコがあるだけの小さな公園。正式名称はあったんだろうけど、誰も呼んでいなかったから知らない。わたしとメイの間ではいつもの公園で通じていた。小学校からも住宅街からも少し離れていたし、遊具も少ないし、ボール遊びができる広さもない公園だったから、子供たちからの人気もなくて、その公園でわたしたち以外の子を見かけるのは稀だった。
ちょうど私とメイの家の間にあったから、小学校の頃の私たちはどちらかの家以外で遊ぶ時は、一度家にランドセルを置いて、よくその公園で待ち合わせをしていた。
私とメイの思い出の公園。
一つ頭の中で思い出が浮かぶと、それを寄せ水にしてぶわっと大量の思い出が濁流のように湧き上がってきた。
楽しかったこと、嬉しかったこと。
そして、それを押し流してしまうほどの、忘れたいのに意識してしまうせいで全く記憶から消えてくれない、大量の思い出したくもない暗い思い出。暴君だった頃の幼い私。
「行きたくない」
「どうして?」
「どうしてって……」
メイは覚えていないのだろうか? 消してしまいたい人生の汚点である私の幼い頃の姿を。誰からも嫌われるであろう要素を煮詰めたような嫌な子どもを。
私の過去を知る人に会いたくないから、誰にも過去を掘り起こされたくないから、こうやって新幹線で何時間もかかる遠い土地に移り住んで、二度と地元に寄り付かないようにしているというのに。
「わたしはフミちゃんと一緒にあの街に帰りたいよ」
「……」
メイが餌を待つ子犬のような顔をぐっと近づけてくる。その目は狡い。見た目の年齢差もあって小さな子を虐めているような罪悪感に襲われてしまう。
故郷に帰るまいと意地を張っている私の心が傾きかけている。
「もしかして、未練が無くならないと成仏できないとか言わないわよね?」
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