悪役令嬢を溺愛しない義母と自分の母親が転生で入れ替わった話
「これ、タケシよ。我家は貧乏じゃ。国立一発合格、塾は模試だけ受けるのじゃ。ほら、勉強は動画を活用するのじゃ」
「はい、クラウゼア母さん」
「うむ。宜しい」
僕は山家武、実の母ちゃんとマダムが入れ替わった。
まるで、中世ラブロマンスで出てくる意地悪そうな義母だ。
髪は金髪で、何かカールしている。ドレスはバラのように赤色の目立つものだ。瞳は紫、まるで外人だ。
皆は普通に接している。
どういう理屈か分からない。
あ、父さんが帰って来た。
「ただいま、あ~、腹減った」
「うむ。イサオ殿、今夜はオデンじゃ」
「そいつはありがたい・・しかし、家事をするとは・・・」
「夫人は家の事をするものじゃ」
父さんも普通に接している。夜とかどうなっているかは分からない。
でも・・・これで、良かった・・いや、言ってはいけない。
クラウゼア母さんは、厳しい。高校生なのに、門限とかある。
日曜日、遊びに夢中で遅くなった。
友達と釣りに行っていたのだ。
「おい、お前の母ちゃん。門の前に立っているぞ!!派手なドレスで、扇で口元を隠しているぞ!」
「クラウゼア母さん。ごめんなさい・・」
「ふむ。心配したぞ。遅れたら拙速で良いから連絡を寄越せ」
「はい、すみません」
「我は連絡がないことを怒っているぞ!心配したのじゃ。今日の浴室掃除はそなたがやれ」
「はい」
「良い母ちゃんだな」
「ふむ。そなたは友達か?タケシをよろしくお願いするぞ」
「はい!」
前の母さんは一日中スマホを弄っていたな。いいや。思い出したらいけない。
僕を生んだときは母さんは苦労したのだ。
それから、トンデモない事が分かった。
母さんが入れ替わって一月、借金の督促状が来たのだ。
「ほお、翠殿は、借金を・・・クレカというものか。イサオ殿に相談しよう」
異世界に行った者は、当然に入れ替わった者の役割を引き継ぐ。
だから、この借金も当然にクラウゼア母さんが引き継いだ。
「イサオ殿、申し訳ない」
「いや、最近、何か変わって来たと思ったら・・そういう事か」
「父さん!違うよ!母さんは入れ替わったんだ!今ごろ、母さんは異世界に行って、義子である悪役令嬢を溺愛しているよ!」
「お前、何を言っている・・いくらだ?」
「170万円、月五万近い返済じゃ・・」
「何に使った?」
「どうやら、課金というものらしい」
「まあ、いい。最近はスマホを弄ってないしな」
結局、父さんが会社から低利で金を借りて返済する事になった。
クラウゼア母さんは、前向きだ。
「まあ、良い。世の中こんなものじゃ。我がパートとやらに行ってもろくに稼げない。なら・・・」
と刺繍をしている。ハンカチだ。
「これを売るのじゃ。いくらになるかはわからんがのう。それでイサオ殿に返す」
「母さん。どうして、そんな落ち着いているの?母さんの借金ではないでしょう?」
「貴族社会はだまし合いだじゃ。平気で嘘をつく人物が社交界ではダースでいるのう。だから、我はエリザベートの敵になったのじゃ・・・我を乗り越えてこそ、王宮では楽になるからのう。とはいえ、これは報いじゃな。PCとやらで売れる魔道売り場を調べてくれんかのう」
「はい、母さん」
前の母さんのPCを起動したままになっていた。パスワードは何とか再登録したけど人の物なので中味を見ていなかった。
PCを調べたら・・・・「えっ」
思えず声が出た。
サイトが立ち上がったままになっている。
旦那を〇す方法・・・我が儘な子供と低スペックの旦那を捨てて異世界でロマンス・・・公爵に溺愛されるネット小説。この小説は見覚えがある・・・・僕が関わっている小説だ。
「どうしたタケシ」
「いえ、クラウゼア母さん何でもないよ」
俺は腹を決めた。
クラウゼア母さんがどこから来たか分かった。
学校の文芸部で共同で作った小説だ。
放課後、部室に行くと。
部長の山本さんが既にいた。PCを立ち上げている。三年生の先輩の女子だ。
実は、この物語は、文芸部共同で書いている作品だ。
「あら、山家君、早いわね」
「こんにちわ。山本さん。溺愛公爵どうなっていますか?」
「う~ん。困った事に評価高いのよ・・・」
まず、文芸部でのアプローチの仕方は、各ジャンルの上位から数作読み。すぐに対象が分かった。
ニートと恵まれていないおっさん。自己承認欲求が強いマダム。
就職氷河期で割を食い。理不尽な待遇を受けた方々だ。
ニートの心理について学んだりもした。
ピンクブロンド=陽キャ
馬鹿王子=権威・上司
悪役令嬢=自分
悪役令嬢は美貌と能力の高さを持ち合わせているが孤高でもある。
自分に重ね合わせやすい。
もっとも。
「ここまで、なろうに寄り添うと、当然、反感・・も来るわ。それが希望かも。でも、アンチコメも脊髄だけで書いている方が多いわね・・やる気をなくすのが目的ね・・・」
「そうですか。部長、この話の結末に提案があります。クラウゼアに転生した主婦は悪役令嬢を溺愛し。その結果公爵に溺愛されるようになります。
しかし・・・ビィクトリア朝の事件をネタにしましょう・・・・」
「母親からの溺愛という名の監視に嫌気がさした王太女ビィクトリアね。それがいいかもね・・・最後は貴方に任せるわ。正直、ネット小説よりも、読まなければならない本が沢山あるわ。ここで打ち切りにしましょう。これ、文化祭で公表出来ないわね。
顧問には、ネット小説は、明治、大正時代に大流行した立川文庫と比較してレポートを書くわ」
立川文庫、簡単に言うと、猿飛佐助を生み出したレーベルだ。
文学的価値は全く無いが、以降に忍者物というジャンルを生み出した。
ネット小説も悪役令嬢を生み出した・・・そんな感じか。
「あの、もし、自分の母親と悪役令嬢の義母が入れ替わったと言ったら、部長は変だと思いますか?」
「う~ん。ネット小説の起源は、自分のプログに小説を書いたのが元で、人気だった形式は夢小説でしょう?なら、原点回帰かもね。山家君、面白い発想ね」
最後のプロットを書いた。徐々に暗雲が立ちこめる内容だ。
それから、一月後、クラウゼア母さんのハンカチがネットで売れた。
8000円らしい。
「家事の合間に一月かけて8000円じゃのう。ところで今日はごちそうじゃ。イサオが帰って来たら、重大発表があるぞ」
「はい、母さん」
・・・・・
「武、実は、母さん妊娠した・・・お前は兄になる」
「はい?母さん何歳?」
「37歳だ。自分の母親の年齢くらい掌握をしなさい!高齢出産になるが、生みたいと言ってくれた・・」
「うむ。さすがに我はきつくなる。タケシよ。手伝い頼むぞ」
「はい、母さん」
もう、元の母さんの帰る場所はない。プロットで止めを刺そうと決意した。
その日、最終話を更新した。
過干渉に嫌気がさしたエリザベートが成人した後、義母クラウゼアを塔に閉じ込めるのだ。
「更新と・・」
もし、小説で、母とクラウゼアが再び転生して入れ替わると書けば、どうなるか分からない。多分、帰ってくるのだろうが、捨てたのは向こうだ。
弟か妹か分からないが・・・世話をしよう。とだけは決意した。
最後までお読み頂き有難うございました。