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学園は、皇城や貴族の屋敷には劣るが、
主に貴族が通う場所だけあって、
綺麗で高級感がある建物となっている。
そんな学園の図書館は、
ひと際歴史が深く、石造りの重厚な建物
となっていた。
壁一面に本棚が備え付けられ、
魔法に関する本を中心として、
歴史ある古い本から、最新の娯楽の本まで、
多種多様な本が揃えられている。
「見つけた」
図書館だからだろう、小声でリュミエール様
に呼ばれ、ビクッとなる。
「リュミエール様、どうしてここに?」
「君と少しでも傍にいたくて」
こんなセリフをさらりと言って、
それでいて自然体で嫌味がないのが、
流石、皇太子だと思う。
「あちらの席に移ろう」
「はい」
示されたのは、図書館の一角にある、
ディベート室。
6人ぐらいが入れる、小さな部屋で、
透明な仕切りで仕切られている。
ここには風魔法が張られており、
中で何を話しても外に音がもれる事がなく、
話がしたい場合、よく使われていた。
そんなディベート室の一つを借り、
リュミエール様と二人で座る、
ここでは有料で食べ物を頼む事もできるので、
スタッフにアップルジュースを頼んだ。
リュミエール様が唐突に切り出した。
「そう言えば、何を読んでいたんだい?」
リュミエール様が私の手元を覗き込む。
「えっと・・・これは・・・・・」
いきなりリュミエール様と会ったため、
返しそびれた本を手元に寄せる。
「見せて」
リュミエール様に笑顔を向けられ、
何とか誤魔化そうとするが、
手を差し伸べられ、観念する。
リュミエール様は本のタイトルを見て、
ぱらぱらと本をめくった。
「確か、騎士が王女と結ばれる話だったね」
「はい」
こんな恋物語を読んでいたなんて、
呆れられるかもしれない、そう思って俯いてしまう。
「今度、劇になるみたいで・・それで・・・・・」
恥ずかしくて、ついつい言い訳めいた事を言ってしまう。
「レイラは、この騎士のような人が好きなのか?」
問われて、素直に答える。
「勇敢なだけではなく、機転も利いて、
素敵な男性だと思います」
王女は貴族のしがらみや陰謀にさらされる、
それを、力だけではなく、駆け引きでも
やり込める騎士に、人気は高い。
「そうか、確か強くて頭のいい人物だったな、
レイラにもっと好きになってもらうには、
まだまだ努力が必要なようだ」
「そんな、リュミエール様は十分素敵です」
「その言葉は嬉しいが、レイラはどんどん
魅力的な女性となっている、
他の男に目移り何かされないように、
私も気を引き締めないと、
この小説の騎士に負けないようにね」
そう言って、残りのコーヒーを飲む
リュミエール様を見つめる。
リュミエール様も不安に思う事などあるのだろうか、
皇太子と言う身分と、優れた容姿、
誰からも認められる、優秀な頭脳。
・・・・もう十分だと思うのだけど。
「リュミエール様が不安になる事などあるのですか?」
リュミエール様がじっと私を見て答える、
「もちろんだよ、
皇太子と言う立場で、君を縛る事はできる、
でも心までは自由にはできない、
どうやって君の心を掴むか、
ずっと悩む1人の男にすぎないよ」
思わぬ告白に、顔が一気にかあっと赤くなる。
「いつか、君の心を独占したい、
私だけを見て欲しい、
その時を待っているから・・・・」
真剣な瞳で、そう告げるリュミエール様に、
私は何とか頷いた。