1-1 いきなりのキス
デュラデイン皇国
かつて軍事国家であり、その名残は残るものの、
現在では平和な国家運営をしており、
現皇帝は名君と称えられている。
春、秋、冬と三つの気候があり、
長い冬が終わると、領地で過ごしていた貴族も、
春の社交シーズンに合わせ、
皇都のテラスハウスに戻る者がほとんどだった。
そんな春のある日、皇太子の14歳の誕生日会
が開かれた2日後、王宮の裏側の整理された森の
大きな木の下で、1人の少女が資料を眺めていた。
「ここにいたのかい」
「リュミエール様!」
ひょいと現れた男性に、少女が顔を上げる。
リュミエールと呼ばれた男性は、
少女の手元の資料に目を向ける。
「貴族の資料かい」
「ええ、2日前に開かれた、貴方の
誕生日パーティで、貴族の力関係で
変化があった所をチェックしていたの、
交流関係も結構変わっていて、
ブライト伯爵が新たに力を持ちそうね」
そう言って、リュミエール様を見る。
「我が婚約者殿は頼もしいね」
そう言われて、少女、レイラはふふふと笑う。
「もう9年も婚約者をしているのですもの、
慣れたものですわ」
「そうだね、婚約したのはお互い5歳の時だから、
もうそんなになるんだね」
そう言って、リュミエールはレイラの横に座る。
リュミエール様の肩にはピーちゃんと呼ばれる
(私が命名した)光の精霊が、ちょんと止まっている。
魔法は貴族と才能がある平民が使えるが、
精霊と契約する事で、さらに力を増幅させる事ができる。
リュミエール様は光の魔法が使え、
そして、光の精霊であるピーちゃんとも契約し、
その能力は高く評価されている。
「それにしても、誕生日パーティは疲れたかい、
終わり次第寝てしまったけど」
「終わり次第ではございませんわ!
ちゃんとメイドがメイクを落としてくれるまでは
我慢しましたもの!」
すねてみせる私に、リュミエール様は楽しそうに笑う。
「私が部屋にいるのに、すやすや寝てしまうからね、
少しは警戒して欲しいものだけど・・・」
「?なぜ、リュミエール様を警戒しないといけない
のですか?」
「私は安全だと?」
私は迷う事なく、こくんとうなずく。
リュミエール様はずっと優しかった、
大声を上げる事もなく、手を上げる事もなく、
権力を振りかざして、無理を言う事もない。
真綿で包むように、私を大事に大事にしてくれている、
それが分かるからこそ、警戒など考えた事もない。
「私の事は好き?」
「もちろんです」
リュミエール様の質問に迷う事なく答える。
好きだと言ったのに、リュミエール様は
少し悲しそうな顔をした。
「5歳の頃からずっと一緒だったから、
その好きも、兄弟のような、家族の好き
なのだろう」
どうして、リュミエール様が突然こんな事を
言い出したのか分からなくて、私は戸惑う。
【名前の由来】
リュミエール・ディス・デュラデイン
(リュミエールはフランス語で日光)