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冒険者ランク

「久しぶりだなぁアカツキ!!元気にやってたか?」

「はい、おかげさまで……。」


 あの後、男3人を捕まえなくていいのかとエイルに聞いたが「放っておけばいい。」と言われ、そのまま逃がした。

 そして、入れ違いに入ってきたノーレンさんとの再会を果たした俺は、彼からの誘いでエイルと2人、バーでご馳走になっている最中である。

 さっき乱闘騒ぎで迷惑をかけたから店主に謝ったが、ニコリと微笑まれるだけだった。


「私も彼らには困っていたので、寧ろお礼を言わせてもらいたい。なかなか痛快だったよ。」


 あ、お役に立てたならよかったです……。

 弁償もしなくていいって言ってくれたし、店主すごく気前良くないか?


 ふと、隣の席を見る。

 カウンター席に並んで座っている俺達は、左からエイル、俺、ノーレンさんの順で座っているのだが、エイルは何か考え事をしているらしく、奢ってもらったジョッキを片手に俯いていた。

 ちなみに中身は果実100%ベリージュースらしい。


「エイル、どうしたんだ?」

「あ、いやね。彼……ノーレンさんなんだけどさ、『僕』にとっては結構トラウマ級の冒険者でさ……。」

「えっ、それってどういう……」


 苦笑いを浮かべ、そっとノーレンさんの方を見るエイルは、俺にそっと耳打ちした。


「あの人……どこの国のどこの街にいても、絶対『僕』を捕まえにくるんだよ……。予告状、盗み先には出しているけど、彼個人宛には出してないし、そもそも国転々としてるのに100%現れるし……。だから正直顔馴染みと言っても、もういいんじゃないかな……。」

「……はっ!?」


 なんかサラッと怖いこと言いませんでした?

 どこにいても現れるって何?お前ノーレンさんになんかした?

 それよりもノーレンさん、アンタもどうしてノーヴァにこだわってんだ。他の依頼も受けてるんですよね!?出現率100%って何!?怖っ!!??


 っていうか!!

 顔馴染みってまずくないか……!?

 ノーレンさんにもしエイルがノーヴァだと少しでも疑われたら……!


「2人で何コソコソ話しているんだ?」

「なんでもないです!!すいません!!」


 肩を軽く叩かれただけなのに、エイルの言った言葉があまりにも恐ろしくて、大げさに跳ねてしまった。

 快活に笑うノーレンさんは、エイルを見ても表情は変わってないし、まだエイル=ノーヴァということには気付いていないと思う。

 ひとまず安心した。


「そういや聞き忘れていたが……アカツキ、お前さんあの後大丈夫だったか?」

「え?」

「ほら、俺がノーヴァを追わせたばっかりに、お前がそのままいなくなったから……俺のせいで何か危険な目に遭ってしまったんじゃないかと、気が気じゃなかったんだ。」


 思いっきり危険な目に遭ってました。

 なんなら、命落としかけました。隣のコイツに巻き込まれて。

 おいエイル、顔逸らすな。気まずいのは俺も同じなんだよ。


 心配してくれていたノーレンさんに本当のことを伝えたいが、それはエイルの正体をバラすことにも繋がってしまう。

 そこで俺は、申し訳なく思いながらも嘘をつくことにした。


「あの後、恥ずかしながらまた路地裏で迷ってしまって……たまたま通りかかったエイルが助けてくれたんです。それで行く宛がなければと、居候させてもらっているんです。」

「ほ〜!よかった。この一ヶ月、お前の安否が本当に心配でな。いい仲間と出会えたのなら俺も安心だ。」

「あはは……ありがとうございます。連絡もせず、すみませんでした。」

「いいっていいって!無事だったことが分かれば、それで十分さ。」


 ノーレンさんは本当に良い人なんだな。たった数時間しか一緒にいなかった俺のことを覚えていてくれ、心配してくれた。

 この人の人柄の良さは、これだけで十分なほど知ることができる気がする。

 ……ノーヴァの――語弊はあるが――ストーカーだけど。


「そうするとやっぱりあれか?お前さん達、冒険者に?」

「はい。今はカトレンさん待ちです。情報の反映がされているか確認に行ってくれてて……」

「それじゃあ今日から後輩ってことか!アカツキ、エイル、2人とも頑張れよ!狙うなら俺と同じ紫星(ヴィオラ)まで来いよ!」

「……?紫星(ヴィオラ)?」


 エイルの答えを聞いて俺達を応援してくれたノーレンさんだが、最後に聞き馴染みのない言葉を聞き、俺は首を傾げた。


「ノーレンさん、気になってたんですけど、紫星(ヴィオラ)とか黄星(ジアラ)って……?」

「なんだ、アカツキは知らないでここに来たのか?」

「エイルに流れで連れてこられたんで全然知らないんですよ……。」


 俺がジトッとエイルを睨むと、エイルはジュースに口をつけて「僕知らない」とでも言わんばかりのすました態度をとった。この野郎。


「よっし!それなら先輩として、ここは俺が……」

「お待たせしました!!無事反映されてましたよアカツキさん、エイルさん!」


 何かを言いかけたノーレンさんを遮り、俺達の所にやってきたのはカトレンさんだった。

 その手には何やら書類を持っている。


「あ、ノーレンさんも一緒にいたんですね!新しい依頼来ていますがどうします?」

「いや、そろそろ別の国に移動しようと思っているからやめておくよ。それより、この2人に用があってきたんだろ?」

「そうでした!アカツキさん、エイルさん、こちらをどうぞ!」


 カトレンさんから渡されたのは彼女の持っていた書類と星形のバッジだった。色は緑。

 エイルも俺と同じセットが渡されており、違うのは星の色だけのようだ。

 ふと、カトレンさんがエイルの方を見て頭を下げた。


「エイルさん……さっきはごめんなさい。私、完全な魔力なしの方にお会いしたの初めてで、驚いてしまって……。でも、貴方からしたら酷い態度でしたよね、本当にごめんなさい……。受付として最低な態度をとってしまいました……。」

「謝らないで。滅多に魔力なしになんか会うものじゃないし、君の反応は当たり前だよ。それに、覚悟してた事だからね。」

「エイルさん……」

「ところで、この書類とバッジは?」

「あっ、そうでしたね。そちらの書類は最終誓約書です。えっと……簡単に言ってしまえば、冒険者ギルドの一員として頑張ることを誓います……というものです!」

「ざっくりしすぎじゃねぇか?」

「うぅ……説明苦手なんです……。」


 本当に簡単にざっくりと説明されたな……。

 とりあえず内容に目を通したが、確かにカトレンさんの説明と同じような内容だったから、要点は押さえて説明してくれたのだろう。

 ギルドの一員としての自覚を持って、ギルドの名誉を汚さないように行動しろ、という事でもあるようだ。

 なんか、大学とかでも入ったばかりの時にこういうの書いた気がする。懐かしいな。


 この誓約書は自分の名前を書くだけのようだが、問題はこっちのバッジだ。


「俺は緑で、エイルは白……?」

「そして、俺は紫だ。」


 水晶の色……というわけではなさそうだ。どういう分け方なんだろう、このバッジは?


「こちらは冒険者ランク……通称(ステラ)を視覚化したバッジです。水晶と同じで緑星(ベーデ)から始まって桃星(ペスカ)黄星(ジアラ)紫星(ヴィオラ)青星(ブル)、そして最高ランク赤星(ロッサ)となっています。ランク昇格は、任務の積み重ねとか、他者に推薦され、それが本部に認められた場合に昇格する仕組みです!」

「じゃあ、俺はまだ初心者マークみたいなもんか。」

「そのどれでもない僕の白はつまり、魔力なし専用のやつ、だね?」

「……はい。ランクも何もない、流星(メテオラ)という位置付けになります……。ランクが上がらない代わりに、ランクによる制約が緩和されてはいますが……、ごめんなさい、既定なので私にはどうすることも……。あ!嫌なら外していてもらっても構いません!強要するものではないし、ただの記念品みたいなものと思っていただければ……!」

「はは、大丈夫だよ。ありがとう、カトレンさん。」

「さん付けはやめてください……恥ずかしいので……。どうか呼び捨てでお願いします……。」


 縮こまりながらカトレンさ……カトレンはそう言った。

 エイルは白のバッジを手に持ち、にっこりと笑う。


「僕は白色好きだし、気にしなくて平気。まあ、まずアカツキは早く桃星(ペスカ)になれるよう頑張りなよ?僕もサポートするから。」

「……そうだな。なら、どんどん依頼受けて早くランクを上げ……」

「……言っておくが、緑星(ベーデ)のみのパーティは桃星(ペスカ)より上の冒険者に1人参加してもらってパーティ組まないと依頼受けられないからな?」

「「は!!??」」


 ノーレンさんそれどういう事ですか、俺初耳。

 ってかなんでエイルも驚いてんだよ、お前は知ってろよ。

 冒険者になれたというのに、これでは何もできない。


「どうするんだよ?依頼も受けられなければ、報酬ももらえない。つまり生活費ゼロじゃねぇか!?」

「仕方ないでしょ!僕だってなんでも知ってるわけじゃないんだよ。背に腹は変えられない、君が緑星(ベーデ)卒業するまで、他のパーティに混ぜてもらうしか……」


 エイルはそこで言葉を詰まらせた。


――あぁ、そっか。


 さっきの、エイルに対しての周りの反応を思い出す。

 魔力なしは、魔法が使えず価値がない。

 その考え方が根強く浸透しているなら、エイルを受け入れてくれるパーティなど、指で数えられる程度の可能性だって……。


「わ、私協力します!元々ギルドの受付としての役割ですし、先程のお詫びもしたいですし!お二人を受け入れてくれるパーティの募集を……」

「いや、大丈夫だよ。……どちらにせよ僕がいなければ、アカツキはどのパーティから見ても喉から手が出るほど欲しい人材だ。」

「おい、お前何言って……」

「幸いにも流星(メテオラ)は最初から単独で任務を受けられるみたいだし、初めのうちはパーティは組まずに個人で、」

「はい、そこまで。」

「っ!?」


 エイルの言葉を遮り、その頭に軽くチョップを食らわせたのはノーレンさんだった。

 その顔はどこか怒っているように見える。どうしてこの人が怒っているのか、エイルは本気でわかってないようで、訝しげな顔でノーレンさんを見ていた。


「エイル、お前さんアカツキとパーティを組んで冒険者になるためにここに来たんだろ?なのに個人で動くってのは……矛盾しちゃいねぇか?」

「でもそれじゃあ、アカツキがいつまでもパーティに入れてもらえない。僕達2人でパーティを組むにしても、アカツキのランクが上がらないと話にもならないんだ。問題は僕だけなんだし、桃星(ペスカ)になるまでくらい……」

「それをアカツキは望んじゃいないみたいだぞ。」


 そこで目を見開いて俺を見てきた。

 だからなんで驚いてんだよ。


「勝手に決めんなよ。」

「アカツキ……でも、」

「でももだっても、よく考えてみろ。俺達はバディ(・・・)じゃないのかよ?」

「…………。」

「バディ結成して一ヶ月で個別で行動は、流石に早すぎないか?解散一直線だろ、そんなの。……それになぁ、何も知らない俺を1人でベテラン冒険者の中に放り込むなよ。」

「君、それが本音だろう。」


 まあ本音ですけど。

 全然知らない奴と一緒に行動とか普通に無理。元の世界での商談の時とかならともかく、アルオローラという異世界で、そんなにも長い間親しくない奴と一緒にいるとか神経削れる。


 それに何より……絶対にないとは思うが、もし別行動で任務に当たっている時にエイルが事故とかでいなくなるようなことがあれば、今度こそ俺はこの世界での生き方を見失う。

 ノーレンさんには俺が別の世界から来たことは教えていないし、これから教えるつもりもない。

 この1ヶ月で、随分と俺はエイルに……ノーヴァに絆されたと自分でも思うが、本当に全てを知っている相棒(バディ)を失いたくなかった。


「時間がかかってもいいじゃねえか。2人一緒(・・・・)に受け入れてくれるパーティか、先輩冒険者の人探そうぜ?」

「………………はぁぁぁぁ……君って奴は……。わかった、降参。僕が悪かった。……それじゃあ探さなきゃね、魔力なしも受け入れてくれる、お人好しをさ。」

「……おう!」


 やっと吹っ切れたらしい。ここに来るまでに散々見ていた、エイルらしい笑顔を浮かべ、まだ残っていたらしいジュースを一気に飲み干した。

 俺も笑顔で頷く。


 ふと、後ろからノーレンさんに2人して腕を回され、大口を開けて笑う彼の顔を見た。


「一件落着だなぁ!!」

「よかった!仲直りですね!」

「仲直りというか、喧嘩はしてなかった気が……」

「いーや?俺達から見たら立派な喧嘩だ。エイル、お前さんは頭の回転が速いんだな。だからすぐに最適解を出せるんだろうが……、お前の最適解はお前自身を犠牲にするようだ。だから、まずはその考え、捨てちまえ。」

「……善処は、します。」


 エイルはノーレンさんから顔を逸らして、小さな声でそう言った。

 忘れてたけど、お前ノーヴァとしてはノーレンさん天敵だもんな。天敵に諭されて、バツが悪いのかもしれない。

 視界の端ではカトレンも大きく頷いている。

 受付の仕事サボってていいのか?と、かなり今更な疑問を抱いたがまあいいか。


「さて!それじゃあカトレン、手続きは頼むぞ。」

「はい、お任せください!すぐ申請してきます!」

「え?なんの話ですか?」

「決まってんだろアカツキ。」


 ノーレンさんは親指をグッと決め、俺達に告げた。


「俺が先輩として、お前達とパーティを組んでやるって話さ!!」

「「………………はぁぁぁ!!??」」


 散々悩んだ俺達のさっきまでの会話はなんだったのか。

 そう思わざるを得ない先輩冒険者(ノーレンさん)からの言葉に、俺もエイルも、店の中とか関係なく大声で叫んでしまったのだった。

またしてもややこしい設定を増やしてしまいました……。

説明パートが長くなり申し訳ないです……。

ご要望がありましたら、用語をできる限り簡単に説明する回を作ろうと思います。

よろしくお願いします。

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