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魔力なし

 ドアを開けた先に広がっていたのは、活気に溢れた空間だった。

 カランカランとドアにかけられたベルが鳴り、中にいた冒険者らしき人達の数人はこちらを見たが、すぐに視線を外してそれぞれの作業に戻る。

 まるで待合室のような作りのそこは、カウンター席やテーブル席が多くあり、そこに座って情報を共有しあっているように見えた。

 奥にあるボードに貼られた紙が依頼だろうか?かなり多く貼られている。

 そして軽く食事ができる場所……というかバーと併設されているようで、ギルドとバーを外に出ずとも行き来できる作りだ。


 そして、魔法新聞やノーヴァからの情報で知っていた通り、人間だけでなく、獣人族や鬼人族といった種族もいるようだった。


「アカツキ、奥。あそこのカウンターで登録だと思う。」


 エイルが指差す方には一際目立つカウンターがあり、受付の女性がいた。

 そこに向かって歩き、時々人の視線を感じながら辿り着くと、受付の女性はにっこりと笑って俺達に話しかけてきた。


「冒険者ギルドへようこそ!ギルドは初めてでしょうか?私は案内人のカトレンと申します。ギルドに関することでしたらなんでもお聞きください。本日はご依頼ですか?」

「いや、ギルドに冒険者登録に。ついでに僕ら2人でパーティ登録もお願いしたい。」

「なるほど、冒険者志望の方でしたか。かしこまりました!では、まずはこちらの用紙に必要事項の記入をお願いします!

パーティ登録はまた別の手続きが必要となるので、まずは冒険者登録をさせていただきます。」


 カトレンと名乗った女性からエイルが二枚の紙を受け取り、空いているテーブル席を見つけそこに向かう。

 俺もそれに続き、エイルの正面に座った。


「何を書けばいいんだ?」

「紙に書かれている通りに名前とか年齢とか答えればいいよ。字は読めるよね?」

「おう。とりあえず書くわ。」


 エイルに渡された紙の文字を見て、やはり何故か読めることに疑問を抱きつつ、便利なことだしまあいいかと割り切った。


 さて、最初に書くのはやはり名前か。ここに書く名前で冒険者として登録されるらしい。

 こちらの世界に来て、なんだかんだアカツキと呼ばれることに慣れてしまったし、苗字の欄もなさそうだし、アカツキだけでいいか。

 その後も色々と書くことを記入して、ふと思った。


「なぁエイル……」

「ん?何?」

「お前、年齢いくつなんだ?」

「……それ、今聞く?」

「いや、年齢の欄見つけて、そういや知らなかったなと。」


 一ヶ月一緒にいたが、年齢を聞くことはなかった。

 だから気になってしまうと知りたくなるというか、なんというか……。


 エイルは少し考えるそぶりを見せた後言った。


「27歳だよ。」

「……本当の年齢は?」

「本当の年齢が27ですけど。」

「嘘だろ!?」

「本当。」


 どう見てももっと若いだろ!!

 24歳で同い年か、もしくは年下だと思っていたのにまさかの年上!?

 身長も俺の方が少し高いし、完全に予想してなかった……。


「……もしかしてアカツキ、僕の方が身長低いし童顔だから年下とか思ってた?」

「…………そんな事ないぞ。」

「うん、絶対思ってたよね。」


 悪かった、悪かったからテーブルの下で足蹴るのやめて。


 いじけたエイルに地味な攻撃をされながらも、なんとか記入を終えて受付にもう一度持っていく。

 渡した紙を受け取ったカトレンさんはそれを確認してから俺達に微笑んだ。


「確認しました!それではこれからお二人の魔力量を測り、同時に冒険者として登録します。」

「そんな簡単でいいのか?」

「はい。手続き自体はとても簡単なものですが、昇格はお二人のこれからの活躍次第です。頑張ってくださいね!」


 必要となる魔法道具をカトレンさんが取りに行っている間に、俺はエイルに疑問に思ったことを聞いてみた。


「こんな簡単じゃあ、犯罪者とかが冒険者になったら荒れ放題なんじゃないか?」

「それは大丈夫だよ。『分析魔法』で犯罪歴がないかとか諸々問題がないかとか、確認しているらしいから。」

「なるほどな。……ちょっと待て。お前、犯罪歴とかを確認してるって言ったけど……」


 お前はどうなんだと言いそうになった口は、エイルに勢いよく塞がれたことで無理やり閉じることになった。


「…………別の機会に分析魔法かけられたことあったけど、自分は悪いことをしていないって、必死に思い込めば突破できたよ。この魔法は、魔法を受ける側の精神面に左右されるみたい。つまり罪の意識がなければ『問題なし』って扱いにされてしまうから、この確認システム自体はガバガバ。」

「………………そういうもんなのか…………。」


 なんか、知ってはいけないことを知ってしまった気がする。いいのか、そんな緩くて。

 それにしても……魔法は便利だが、万能ではないんだな。


「お待たせしました!それでは順番にこの水晶に触れてください!」

「この水晶は?」

「魔力測定器です!触れると水晶の中にある魔法石が、触れた人の魔力量に応じて光る仕組みになってます。」

「まずはアカツキからどうぞ。」


 エイルに促され、水晶の前に立たされた。

 水晶をよく見れば、なるほど、魔法石と同じような白色の混じった水晶は、どこか神秘的な力があるように感じた。

 そっと手を伸ばし、水晶に触れる。

 それに呼応するように段々と水晶が光っていき…


「そんな……魔力量、赤……!?」

「多いだろうとは思ってたけど、赤か……。」

「え、何、どういう事!?」


 何故か驚いているカトレンさんと、苦笑いを浮かべているエイルを見て、なんかヤバいのかと冷や汗が伝う。

 赤って危険なやつとかそういう事?

 俺もしかして、危険人物認定されたとかある!?


「水晶による魔力測定では、色ごとに段階が決まっているんです。緑が一番少なくて、桃、黄、紫、青、赤という順に魔力量が多くなります。つまりアカツキさんは最も多いことを示す赤なので、とてもすごいことなんですよ!」

「魔力量の赤判定は滅多にいないから、カトレンさんみたいな反応になるのも無理はないってこと。」

「そうだったのか……。ってか、俺そんなに魔力多いのかよ……。」

「知らなかったなんてもったいないです!是非、冒険者ギルドでたくさん任務をこなして、魔法を磨いてくださいね!」


 カトレンさんが興奮気味にそう言い、俺は頷くしかなかった。

 まあ、魔法はこれからどんどん練習して、新しい魔法も習得していきたいと思っていたから、魔力が多いのはいいことだよな。

 ノーヴァは魔法を使えない。そのサポートをするには魔力はいくらあってもいいだろうし、魔法もバリエーションがあったほうがいい。


 ……そういえば、魔力なしのノー……エイルが水晶に触れたら、何色になるんだろう?

 一番下が緑と言っていたし、魔力なしも緑色とかに変わるのかな。

 だとしたらエイルが魔力なしっていうのもバレなくて、あいつも安心なのかもしれないが……。


「魔力反応、なし…………。まさか、魔力なし……ですか……!?」

「………………。」


 そう上手くはいかなかったか……。

 水晶を見れば最初の色と何も変わらず、少し後ろにいる俺からはエイルの顔は見えない。

 声をかけるべき……なのだろうか。


 ふと、周りの音が静かになっていることに気付く。

 見回せば、ほとんどの冒険者がエイルを見ていた。

 俺達のやりとりは聞かれていたのか。

 そして彼らの目には嘲笑や侮蔑といった感情が含まれていることが、ありありとわかった。


「……やっぱり、魔力なしは変わらない、か。」

「えっと…その…、では、お二人の情報が正しく反映されているか確認してきます。少々お待ちください。」


 そそくさとカウンターの奥へと向かってしまったカトレンさん。

 残されたエイルと俺は、併設されているバーのカウンター席に座り、彼女を待つことにした。


 魔力なしというだけで、こんなにも空気が変わるのか?


「……エイル、」

「何か、飲み物でも頼むかい?」

「っ……。」


 明らかに話をはぐらかされた。

 エイルは店主らしき男に飲み物を頼み、顔を俯かせる。

 いつも飄々としていたエイルの見た事のない姿に、俺はどうしたらいいかわからなくなる。

 とても気まずい。


 その時、後ろから笑い声が聞こえた。


「なぁ、アイツ魔力なしらしいぞ。」

「マジ!?奴隷以下じゃん!!魔力なしとか本当に存在してたのかよ!」

「うっわ、俺なら生きてられないね。」


 冒険者なのだろうか。

 男3人が酒を飲みながら、エイルを見て下卑た笑いをあげていた。

 エイルは、何も反応しない。


「可哀想にな〜、魔力なしとパーティ組むとか、せっかく魔力量赤判定でも、アイツもランク上げられねぇよ。」

「俺達のパーティに誘うか?喜んでこっち来るんじゃね!?」

「傑作すぎんだろ!!魔力にも仲間にも見放されるってことじゃん!!」


 あまりにも人の気持ちを何も考えていない男達の言葉に、俺は席を立つ。

 一発、殴ってやらないと気が済まなかった。

 だが男達の方へ向かう前に腕を掴み俺を止めたのは、他でもないエイルだった。


「アカツキ、いいよ。相手にしないで。」

「でも……!!」

「この世界では、これが当たり前。……もう慣れてる。」


 なんで、そんなに落ち着いていられるんだよ。

 どうして笑っていられるんだよ。


「お前は……それでいいのかよ……!?」


 俺の言葉には何も言わず微笑むエイルを見て、コイツの事が俺はわからなくなった。

 俺は何もこの世界について知らない。だけどこれが、明らかにおかしい事だというのはわかる。

 ただ、適当に生きてきた俺でも、許せないものは許せないんだ。


 聞いていた話よりもずっと酷い、魔力なしへの差別。

 これに慣れてしまうほど、コイツは今まで嘲笑われてきたのか?


「おい兄ちゃん!そんな魔力なしよりこっちと組まねぇか?」

「アンタだって足手まといと組むより出世したいだろ?」


 ギャハハハという笑い声が再び聞こえ、限界だった。

 俺はエイルの手を振り解き、奴らのところへ向かう。


「お?こっちと組む気になったか?」

「賢明な判断だぜ兄ちゃん!」

「アイツ可哀想になぁ!」

「……黙れよ、部外者。」

「…………あ?」


 3人の中で一番デカい男が俺を睨みつける。

 そいつを睨み返し、もう一度口を開いた。


「黙れっつってんだよ。何も知らないお前らが、アイツを馬鹿にするな。」

「テメェッ……!」


 俺の言葉に、デカい男が怒り、殴りかかってくる。

 しかし俺は真正面に迫った拳を避け、逆に一発、男の顔面に拳を食らわせることができた。


――動ける。


 ノーヴァと毎日のように重ねた修行は、確かに形になっていた。

 逆上している奴ほど動きがわかりやすいのは本当の事だったんだな。

 案の定俺に殴られた事で更に怒った男と他2人も加わり、ギルド内で喧嘩騒ぎになる。

 周りは野次馬となり俺達を囃し立てる。

 ちょうど良い。どれくらい動けるのかコイツらで試すか。


 右に左に飛んでくる拳を軽々と避ける。思ったよりコイツら、弱いんじゃないだろうか?

 それか、ノーヴァに鍛えられた俺が強くなりすぎた?

 ……いや、それはないな。たった一ヶ月だ。しかも実戦は初めてなんだし、コイツらがイキっていただけ……


「っ!」


 死角になる後ろからの攻撃にも蹴りで対応することができた。つーか、後ろから攻撃とか卑怯だな。

 ……やっぱ俺強くなったかも。負ける気がしない。

 ついでになんか、怪我しない程度の簡単な魔法でも試してみようか……


「オラァァ!!」

「はっ!?」


 そんな悠長なことを考えていたからよくなかったのだろう。

 あの一番最初に俺がぶん殴ったデカい男が、その手に持つ武器を……鉄でできているハンマーを振り上げた。

 おい、いきなり武器持ち出すのは流石に卑怯すぎるだろ。殺す気か。

 突然の卑怯な手に怯み、避けるタイミングを失う。


――ヤベェ、避けられな……


 目を閉じて衝撃に備えたその時だった。


ガシャンッッッ


 派手な音が響き、デカい男がハンマーを落とし、その場に仰向けに倒れた。

 何が起きたのかわからず、目を丸くしていたが、男の周りに陶器の破片が散らばっており、そしてまた何かの液体が顔にかかっている事で、俺は少しだけ察することができた。


 これを起こした本人であろう人物の方を向けば、確かにそいつは投げのフォームで静止していて。


「……あ、ごめんなさ〜い!手が滑っちゃった!」


 心底反省していますと言わんばかりに大袈裟に謝り、エイルが困ったように笑った。

 絶対ワザとだ……。


「テメェふざけんな!!絶対ぇ確信犯だろうが!!」

「しかもこれ紅茶じゃねぇか!?おい火傷してないか!?」

「淹れたてで熱くてビックリしたんだよね〜。あ、店主、カップは弁償するね。」

「そうじゃねぇだろ!コイツの火傷どうしてくれんだよ!?」


 呑気に店主にカップの事を謝るエイルに倒れた男の仲間2人が怒鳴り散らすが、エイル自身は微塵も気にしていないようだった。

 そしてエイルは目を細め、この一ヶ月で見ることのなかった悪どい笑みを浮かべ言った。


「それこそ、魔法でどうにかしたらどうだい?君達は魔力があるんだろ?『魔力なし』の僕にはできない、治癒魔法を使ってあげれば良いじゃないか。」

「うっ……それは…………」

「あれ?それとも使えない?『黄星(ジアラ)』ランクのパーティなのに、治癒魔法の一つも使えないの?」


 黄星(ジアラ)?何の話をしているのだろう。

 だが、男達がエイルのその言葉に明らかに動揺したのだけはわかった。

 何も言えず視線を彷徨わせる彼らに、エイルは追い打ちをかけた。


「……なぁんだ、あんなに大口叩いてたから君達、相当すごい冒険者達なのかと思ったけど……」

「っ……」

「大したことのない、魔力も少ない冒険者の寄せ集めで魔力なし()とそんなに変わらないじゃないか。」


 その言葉に野次馬となっていた観衆達も吹き出す者がいたり、エイルの自虐ネタに複雑そうな顔で目を逸らす者がいたりした。

 だがまあ、大半はクスクスと笑い、男達について小声で近くの仲間と話しているようだ。

 その空間に耐えられなくなったのか、顔を真っ赤にした男達は未だ気絶したままの仲間を2人で肩に腕を回して起き上がらせ、そそくさと店を後にしようとした。


 だが、彼らがドアを開ける前に外からドアが開かれ、俺はドアを開けた人物を見て、あっ、と声をあげた。


「おっと悪ぃな。……って、なんだ?なんかいつもより静かだな?」

「ノーレンさん!?」

「ん?おぉ!?アカツキ?アカツキじゃねぇか!!」


 そう、ドアを開けギルドに入ってきたのは、一ヶ月前、俺が最初にこの世界で出会い、短時間とはいえ一緒に行動した人。


 ノーレンさんだった。

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