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狙うお宝、始まる修行

「アルトレアス?」

「そう、5つの中心国が代々守り継いできた魔導石全部をまとめてそう呼ぶんだ。」


 アルトレアスがそれぞれ描かれた紙をよく見てみる。

 赤、青、緑、黄、薄紫の5色に分かれていて、どれも形は違うがとても綺麗な宝石だと思った。


「さっき、魔法石じゃなくて魔導石を狙う…みたいな事言ってたけど、何か違うのか?」

「うーん……別の世界から来た君にはまだ難しい気もするけど……まあ今更か。地理と併せて一気に覚えちゃえばいいよね。」


 マジで今更だな。

 初めて聞く言葉ばかり使われて、正直半分も理解できてないかもしれないんだが。

 だが確かに、言葉だけでも一気に覚えておきたい。

 実際魔法石やら魔導石やら、なんとなく…こう……興味惹かれる名前のものについて知りたいし。


――そういえば、どうして俺はこの世界の言葉がわかるんだろう。


 普通に話していたが、この世界の言葉は日本語では絶対にないのに何故か理解し、会話が成り立っていた。意味は理解できずとも、物の名前もわかったし、文字も読むことができた。俺は日本語で話しかけているし、それがノーヴァやノーレンさんにはどう聞こえているのだろうか。

 会話できているということは、俺の言葉が通じているということになるが、果たしてどういうことなのか。


 ……と、悩んでいるうちに気がついたら、ノーヴァはテーブルの上に手のひらサイズの宝石をいくつか並べていた。

 どれも白色だが、とても神秘的な輝きを放っている。

 その中から一つ、特に小さな宝石を手に取ると、ノーヴァは俺にそれを渡してきた。


「それが魔法石。最も身近にある宝石で、空気中の魔素に反応して魔力を増幅させる優れものさ。」

「魔力を増幅って、これを使えばお前も魔法使えるのか?」

「いや、僕の場合そもそも僕自身の魔力がゼロだから意味ないよ。少しでも魔力があれば使えたかもね。」

「ふーん……。」


 本当にノーヴァは魔法に関するものが何もできないのか。

 ノーヴァが使えない分、魔法が必要になる仕事を手伝うためには、コントロールを早く完璧にマスターしなければならないな。

 衣食住で世話になるのだから、約束は果たさないと。

 ……さて、渡されたは渡されたが、これどうするんだ?


「魔法石の力は、魔導石より劣るとはいえ強大だ。君ほどの魔力量なら使わなくてもいいだろうけど、魔法に慣れるまでは魔法石を持ち歩いて、魔力そのものに慣れていくべきだと思う。」

「……これ、盗んだやつなんだろ?受け取れない。」

「魔法に体が慣れるまでは我慢して。」


 正直言うと、マジで受け取りたくない。

 だって、悪い奴から奪ったものとはいえやはり盗品だし、それを持ち歩いていて捕まるとか、凄くダサい。


「魔法石は多少高価とはいえ、一般的に普及しているから疑われる事はないと思うよ。アイツらの購入ルートが黒かっただけだし。心配なら、ポケットに忍ばせておいて、周りに見られないようにしておきな。」


 受け取らないという選択肢は選ばせてもらえないらしい。

 綺麗な白色の魔法石を、渋々胸元のポケットに入れた。

 なんとなくだが、微かに何かの力が、胸の辺りを中心に広がったような、そんな気がした。


「じゃあ、最初の話題に戻るけど……魔法石が何か、とりあえず大まかにはわかったよね。」

「おう。」

「僕は今まで魔法石や、悪事の証拠を盗んできた。ヴィスローニュ伯爵のような奴らはわんさかいるから、そいつらからね。でも……」


「魔導石は、手を出せば最悪死ぬかもしれない。」


 ノーヴァの最後の言葉に、俺はノーヴァの顔を凝視する。

 コイツはそんな危険なものを盗もうとしているのか?


「魔導石自体はそこまで危険じゃないけどね。ただ、世界に5つしかない、この世界の重要な物だから警備が厳重なんだよ。」

「もしかして、見つかったら殺されるとか……」

「場所によってはあるかもね。やってみたことないからわからないけど。」

「やめた方が良くないか!!??」


 命賭けてまで盗む必要あるのかそれ!?

 もし捕まったら、2人揃って死ぬじゃん!?

 俺、この世界では長生きしたいんだけど!?


「今のままでも、マヴロ・フォティアに近づいてきてんだろ!?わざわざ危険に首突っ込む必要ないだろ!!」

「それだといつまでこの追いかけっこが続くかわからない。なにより、そのマヴロ・フォティアが魔導石を狙ってるかもしれないんだよ。」

「っ!?」

「魔導石は尋常じゃない魔力を秘めている。何に使うにせよ、奴らに渡したら碌なことにはならない。狙っている可能性があるなら、先手を打つまで。」

「それじゃあ、先にこっちが手に入れて奴らの目的を阻止するってことか?」

「そういうこと!魔法石とは価値が全く違うから、その分盗みの難易度も上がるんだけど……まあそれは、これからのアカツキの頑張りと、僕の気合いでなんとかするしかないかな。」


 気合いでどうにかなるのか?

 でも俺は確かに頑張らないとならないよな。まずは魔法を使えるようになって、多少の護身術とかもできないと逃げる時とか……。

 ……俺、昨日は追う側だったのに、たった1日で追われる側としての考え方をするようになったよな……。


 それはさておきだ。

 魔導石が魔法石よりも魔力量が多いことは分かったが、疑問がある。


「魔導石は盗めるのか?お前なら。」

「……僕達2人でなら、かな。アルオローラの宝というだけあって警備は言葉通り、死ぬほど厳重だから。」

「俺にそこまで期待してくれるなよ?魔法の使い方もわかっていないし、俺のせいでお前が捕まったら元も子もないだろ。」

「そうならない為にバディになってもらったんじゃないか。言っただろ?僕がなんでも教えてあげるって。僕達なら必ず盗めるさ。捕まりそうになっても、僕が君を逃がす。」


 なぜそう言い切れるんだ。

 あまりにもはっきりと自信を持って断言されるもんだから、呆れた顔をしてしまった。


「まあ、魔導石を盗むにはまだまだ力不足だから、まずは修行あるのみだけどね!」

「う……、修行ってどんな……?」

「そんな嫌そうな顔しないでよ。とりあえず外出てくれる?」


 ノーヴァは俺を外に促し、出していた地図やら他の魔法石やらを棚にしまう。

 俺は言われるがまま扉を開けて外に出て……目を見開いた。


 そこには、昨日の夜には見ることのできなかった美しい自然の景色が、視界いっぱいに広がっていた。

 不自然になりすぎない範囲でそれなりに広い庭があり、周りを囲む木々もよく見れば剪定されているようだった。

 奥に見える細い道は昨日俺達が通ってきた道なのだろう。これもまた自然を壊さないように工夫されており、見れば見るほどにこの場所が自然を大切に作られたことがわかる。


「どうだい、『死の森』の景色は?」

「…………とても綺麗だ。何も、死んでなんかいない。」


 いつの間にか隣に立っていたノーヴァの問いに素直に答え、俺は目の前の景観を1人で作り上げたであろうこの怪盗の凄さを思い知った。


 これを作り上げるまで何年かかったんだろう。

 この場所で、こいつはたった1人で生きてきたのか?

 魔力なしだから……独りを選んだのか?


 次々に浮かぶ疑問は、口に出すことはできなかった。

 それを聞く勇気は出なかった。


 俺が色々と考えていることなんかお構いなしにノーヴァは庭の真ん中へ歩いていき、俺の方へ向いて立つ。

 その顔は満面の笑みを浮かべており、俺はなんとなく次の言葉がわかった。


「今日から、この庭が修行場だよ。」

「やっぱりか……。」


 まあ、わかってはいたよ。

 修行のこと聞いたら外に出るように言われたし。これくらいの広さがあれば、確かに物を壊すことはなさそうだし。

 一つ言うとノーヴァ、お前が今持っているその物騒なものだけが怖いんだが。

 それ、お前がマヴロ・フォティアの奴らと戦った時に使っていた威力のエグそうなステッキじゃねえか?


「これは僕の愛用のステッキでね、せっかくなら僕も技を磨こうかなと。アカツキはこっち。」

「これ……剣か?」

「僕が昔使ってた練習用のやつだよ。練習用とはいえ、本気でやれば人斬れるから気をつけてね。」


 おい、お前それを投げて寄越したのか。

 俺が取れなかったらスパッと切れてたのでは?気が付かないうちに胴体がおさらばとか笑えねぇぞ。


 軽く剣を振ってみる。やはり練習用とはいえそれなりに重さがあるし、これは鍛えないとまともに振ることもできないな。

 試しに何度か素振りをしていると、ノーヴァがその赤い髪をリボンで纏め、ステッキを一振りしたことに気付いた。

 瞬間、鋭い音で周りの空気が本当に斬られたかのように感じ、その動作だけでも、洗練されていることが素人の俺にもわかった。


「……さあ、始めようか。まずは君がどれくらい動けるか…実際に見てあげる。」


 …………ん?聞き間違いかな?聞き間違いだよな?

 俺、今から殺される?素人の俺が勝てるわけないんだが?

 まさか、お前と一対一しろってことか?


「無理無理無理!!勝てるわけない!!!」

「僕も君が勝つとは思ってないけど。」

「酷くね!?少しぐらい俺が勝つ可能性考えてくれてもよくないか!?いや勝てないけど!!」

「どっちだよ。」


 負け試合ってお前もわかってるのに戦わせようとしているのかよ!!

 俺やられ損だよな!?

 しかし、ノーヴァは俺の言葉を聞いちゃくれない。

 一度閉じた目を勢いよく開いたかと思うと、勢いをつけてこちらに突き技を放ってきた。


「うおっ!?っ……ぐぇ!!」


 咄嗟に避けて正面からの直撃を免れた事に安堵した……が、すかさず横腹に一撃をくらい、その場にうずくまる羽目になった。

 ノーヴァは俺の背中をポンポンと叩きながら笑う。


「一撃目を避けたのは中々センスいいじゃん!まだまだだけど!」

「おま……マジ、おぼえてろよ…………。」

「基本は回避だよアカツキ。戦わなくていい、君は傷つく前に逃げればいいんだ。」

「…………ノーヴァ、」

「その為にもどんどん攻撃するからどんどん避けてね!剣は離すなよー!」

「この人でなし!!!」


 あはははは、と笑いながらさらに攻撃を仕掛けてくる。

 こいつ人の心持ってる!?

 こっちまだ横腹痛いし、息も整ってないんだけどわかってるよな!?


「あ、もしできそうだったら、攻撃受け止めてもいいからね!」

「できるかぁぁぁ!!!」


 後ろから満面の笑みで攻撃を仕掛けてくるノーヴァから、死ぬ気で、全力で俺は逃げ回る。

 避けたと思っても先を読まれ攻撃をくらい、いけると思いヤケクソで反撃を試みても、俺の剣が奴に触れる直前で鳩尾を突かれる。

 ビリヤードの球かゴルフボールにでもなった気分だ。


 俺が倒れるたびにケラケラ笑うノーヴァは息も乱さず、汗も流しておらず、持久力の差も思い知ってすごく悔しい。

 どれだけ走り回ったか、ついにノーヴァが動きを止め、ステッキを下ろした。


「結局一撃も当てられなかったねー。」

「無理に……決まってん……だろ…………バカか…?」

「ごめんって。思っていたよりも君が動けるから、僕も楽しくなっちゃって。」


 ドSかな?多分コイツ素質あるわ。


 地面に大の字に倒れ空を見上げる。

 澄んだ青空が広がっていて、雲が流れ…………うわぁ……すごい平和だなぁ……。

 さっきまで生きた心地がしなかったのに……。

 体感的には1時間くらい逃げていた気がする。

 足がガクガクするし、もうこのまま寝てしまいたい。


「お疲れアカツキ、はい、水。」

「……ありがと。」


 俺を真上から見下ろすノーヴァがコップに水を入れて持ってきてくれたらしい。だがこれは言わせろ。

 普通に渡せ。額に置くな。

 しかしキンキンに冷えた水は有り難く飲ませてもらう。

 やはりこの世界の水は美味しいな。自然豊かなこの森だからなのだろうか。

 昨日ノーヴァがくれた水も、本当に美味しかった。


 というか、食後にこんな激しい動きをしたからかすごく腹が痛い。食後の運動にも限度があるだろう。

 ……いや、絶対ノーヴァの攻撃のせいだとは思うけど。

 多少は食後のせいもある気がする。


「これから毎日、こんな感じで修行するのか?」

「うん、そのつもりだよ。」

「次から朝食前にしてくれないか、腹が痛い。」

「それもそうだね。明日からそうしよう。」


 こういうことはちゃんと聞き入れてくれるんだな……。

 ホッと息を吐いたのも束の間、


「じゃあ少し休んだら次のメニュー行くよ。」

「………………ん?」

「え?」

「修行って……さっきのやつだけじゃ…………」

「そんなわけないじゃん。回避はもちろん、体力も作らなきゃだし、剣術も教えなきゃだし、それに魔法の練習もこの森では無理でもそのうち……」

「いやだぁぁぁ!!!!」

「あ、こら逃げるな!!」


 まだ延々と続きそうな、俺がこれから修行で身につけなければならない力の数々に、俺は耐え切れず逃げ出した。

 しかしもちろん、ノーヴァから逃げられるはずもなく、あっという間に連れ戻された。


――ああ、俺、修行で死ぬんじゃねえかな……。


 なんて、連れ戻されながら青い空を見て、俺は遠い目をしたのだった。

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