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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
33/34

出発

 あれから三日。

 俺達は各々準備を進め、エリュオトリムに旅立つ用意を済ませた。


 別の国に行くことをアンさんに伝えれば、


「またいつでも、この国に来てくださいね。任務たくさん用意してお待ちしてます!……っていうのは形式として……。怪我だけは!気をつけるんですよ!!ランク上がったからって油断しやがりましたら許さないですから!!」


 と、全力で注意してくれながら、笑っていた。

 なんだかんだ、本当にお世話になったな。

 ノーレンさんとアンさんのやりとりを見るの、意外と楽しかったんだよなぁ。


※※※


「遂に出発だね〜。忘れ物は?」

「ない。全部バッグに入れた。」

「私も大丈夫よ!」


 場所は港。

 一ヶ月前と変わらず人混みがすごく、油断したらすぐに逸れてしまいそうだった。

 人混みから少し離れ壁に寄りかかって、人の邪魔にならないように三人で荷物確認をする。

 小さなショルダーバッグを肩にかけたクーシェは、両手をぐっと握ってみせ、気合い十分なようだった。


「森の仲間にも話したのかい?」

「ええ。『やっぱりクーシェは変わってるね。』って言われたわ。でもいいの。あの子達も、魔物に狙われたことで思うところがあったのか、騎士団の話をしたら、自立することに関して結構前向きに考えているみたいだったし……いつか本当に、協力してこの国を守れる日が来るかもって、そう思えたから。」

「……そっか。今後が楽しみだな。」

「そうね、とっても!」


 花が綻ぶような笑みを浮かべるクーシェにつられ、俺も笑みを浮かべた。

 いつか本当に。

 この国が本当の意味で『慈愛』と『平和』を誇れる国になった時、その姿をまた見てみたいな。


 ふと、人混みの奥から、見慣れた人物が手を振りながら近寄ってくるのが見えた。

 ノーレンさんだ。


「アカツキー!エイルー!よかった、まだ出発していなかったか!」

「ノーレンさん、どうしたんですか?」

「どうしたって……見送りだ見送り。可愛い後輩達の新たな旅立ちを見届けたくてな。お、あの時の妖精の嬢ちゃんじゃねえか!お前さんも一緒に行くのか?」

「ええ、そうなんです。二人が了承してくれて。あ、ご挨拶遅れました、クーシェです!」

「そうかそうか。じゃあ、お前さんも俺の後輩だな。よろしくな、クーシェ。俺はノーレンだ。」


 今更の挨拶になってしまったが、と笑いながら言って、ノーレンさんはクーシェと握手を交わした。


「このあとお前達はエリュオトリムに行くんだったか?」

「その予定です。」

「そうか……。エリュオトリムは鉱山の国だからな。ルネラントとは完全に環境が変わるし、体調に気をつけろよ。」

「ありがとうございます!」


 鉱山の国……か。

 前にノーヴァに軽く教えてもらった時に、エリュオトリムは魔法石が取れる国で、貿易の中心は大体魔法石だと聞いた。あとお酒。


 ……そういえば、この世界に来てから飲んだことなかったな。

 向こうだと付き合いとかで飲むこともあったし、俺も意外といけた方だった。

 久々に飲みたいし、こっちのお酒がどんな味なのか気になるし、機会があれば飲みたいな。


「そうだ、エイル。最後に少しだけいいか?話したいことがあるんだが。」

「え?えーっと……まだ出港まで時間がありますし大丈夫ですよ。」

「悪いな。アカツキ、クーシェ。ちょっとエイル借りるぞ。」

「わかりました!」


 ノーレンさんがエイルを連れて、人混みの中に消えていった。

 多分、出港までには帰ってくるだろうし、ここで待つか。


「あ、そうだ!折角なら途中で食べられるお菓子とか買ってくるわね。」

「じゃあ俺も一緒に行こうか?」

「んー……エイル達が帰ってきた時、誰もいなかったらびっくりしちゃうだろうし、ここにいてもらってもいい?」

「わかった。気をつけて行ってこいよ。」


 すぐに戻るね!と手を振ってクーシェも近くの売店の方に行き、一人で待つことになった。

 とはいえ、特に一人でやることもなく、忘れ物がないことは確認済みなのに、もう一度確認してみたり、ノーヴァに言われてからずっと入れるようにしている、胸ポケットの魔法石を取り出して、手で転がしたりして時間を潰す。


 真っ白な石。

 俺の魔力を魔法石に通せば、白く温かな光が石に灯る。

 逆に、魔法石の中の魔力を俺の身体に取り込めば、色はくすみ、その美しさを失う。

 なんの変哲もない、それなりの人生を送っていた俺に魔力があって、こんな風に操れるようになるなんて、こっちに来る前は考えたこともなかった。

 思えば、随分とこちらの生活にも慣れてしまったと思う。

 陽介や両親は元気にしているだろうか。

 そもそも、俺は死んだのか、それとも身体ごと転移したのか……そこも謎のままだ。

 狭間の世界……というなら、アリオラは向こうのこともわかるのだろうか?

 だったら、次にあの世界に行ったら、聞いてみてもいいかもしれない。


 色々なことを、ぐるぐるとずっと考えていた。

 そろそろ帰ってくるだろうと思い、少しだけ魔力を石に戻して、白くほんのり輝いた石を再びポケットに入れる。

 その時だった。


「あぁ……愚かだ。愚かで滑稽だ。危険を顧みず、運命すら受け入れずに闇で踠き苦しむアイツも、何もわからないままアイツに手を貸すお前も。

 ……見ていて、随分愉快だなぁ?」

「っ!?」


 バッと右に振り向けば、ノーヴァの横顔。

 しかしウルフカットの赤い髪は相棒のものよりもずっと黒に近い。

 口元まで隠れそうなほど襟の長い、闇を凝縮したような色の現代的……というか、俺のいた世界で見るようなロングコートに身を包み、腕を組んで港を見ていた。

 その瞳の色も、見慣れた星の煌めきのような色ではなく、月のない夜、星すら見えない空のようにどこまでも暗い、濃藍色だった。


 相棒の横顔なのに、全くの別人のようなその人物に、俺はとてつもない違和感を覚え、身構える。

 ふと思い出したのは、ノーヴァの言葉。


『アイツらのボスに、僕の身体を奪われたんだ。』

『半分は10年前に為す術もなく奪われた。まあ、色々なことが重なって、なんとかもう半分は……』


 そして、隣に立つ人物は俺の右に立っている。

 俺から見える左半身は、ノーヴァの……本来の姿。


「っ!!」


 思い至った答えに、俺はすぐさま剣に手を伸ばした。

 しかしそれよりも速く、ノーヴァの顔を持つその男に首にナイフを押し当てられ、剣に伸ばした手も押さえ込まれた。

 あまりの速さに、何が起こったのか一瞬理解できなかった。

 ノーヴァが浮かべることのない、邪悪な笑みを張り付けたそいつ。

 もう半分の体は男のものらしく、外にはねた長髪と憎いくらいに整っている顔を見て、そいつの正体が、やはり想像した通りだったと確信した。


――マヴロ・フォティアのボス……!!


 俺が奴を睨みつければ、藍色の瞳を細め、笑みをもっと深くした。


「余計なことはしてくれるなよ。ここで騒ぎは起こしたくないだろう?」

「…………何が、目的だ?」

「身構えるな。今日はたまたまあの器を見かけたから、アレが大事にしているお仲間とやらにゴアイサツしようと思っただけだ。」


 器……。アレ…………。

 目の前のコイツは、ノーヴァのことを人間と思っていないのか?


「お前のことは知っているぞ、暁晴斗。別の世界からの迷い人。」

「っ!?なんで……」

「何故お前がこの世界の者ではないと知っているか、か?何故だろうな?」


 不適な笑みを浮かべる奴。

 俺が別の世界から来たことを知っているのは、今のところノーヴァと、狭間の世界にいるアリオラだけのはずなのに。

 どうしてコイツが知っているんだ?


「次に会う時……いや、いつか答えがわかった時。俺にお前の答えを教えてもらおうか。」


 貼り付けた笑みをそのままにそう囁いて、奴は俺から身を離した。

 ふと、思い出したように言う。


「ああ、そうそう。俺はエクリプス。『フォルモンテス・エクリプス』。……月をも喰らう侵食者にして、闇に潜む『黒き火』そのものだ。」

「っ……!」

「ではそろそろ。どこかでまた、必ず出会うだろう。その時は……俺自らの手で殺してやろう。」


 俺の肩に手を軽くポンッと叩き、奴は……エクリプスは去っていった。

 人の波へと歩いていく奴を止めることもできず、俺は、その背中を見つめていた。

 足がすくみ、動けなかったのだ。

 圧倒的な威圧感。少しでも動けば殺すと言わんばかりの殺意。

 追いかけなければ。

 アイツは、ノーヴァの仇なのに……!


「アカツキただいま!」

「っ!!」


 聞こえたその声にハッと振り向く。

 少し離れたところに、手を振りながら歩み寄ってくるエイルがいた。ノーレンさんも一緒に。

 エクリプスが歩いていった方に向き直っても、もうそこにはあの暗い赤髪はどこにも見当たらなかった。


「…………。」

「ん?どうしたの、アカツキ?」

「……いや、なんでもない。おかえり、話は終わったのか?」


 ……今はまだ、言わないほうがいいだろう。

 今話せば、ノーレンさんにもバレるし、何よりエイルが一人で追いかけかねない。

 だから、敢えて俺は先ほどの出来事を言わないことにした。


「悪かったな、一人にしちまったか。」

「大丈夫です。それに、そろそろクーシェも戻ってくると……」

「ただいまー!飲み物も買ってきたの!みんなの分もあるわよ!」

「あ、おかえり。僕達にも買ってきてくれたの?ありがとうクーシェ。」


 袋いっぱいにジュースとお菓子を買って、クーシェが帰ってきた。

 彼女は一本ずつジュースを配り、お菓子が入った袋は俺に手渡す。

 小さな身体では持ち続けるのは辛いかららしい。


「……それじゃあ、そろそろ船に乗ってみます。本当にお世話になりました、ノーレンさん。」

「あぁ。寂しくなるが……また会おう。達者でな、お前達!」

「本当にありがとうございました!ノーレンさんもお元気で!」


 ノーレンさんに別れを告げる。

 それぞれが握手を彼と交わし、それからエリュオトリム行きの船に乗った。

 動き出した船の甲板から港を見れば、ノーレンさんは俺達に手を振ってくれていた。

 それに手を振り返しながら、俺はエイルに聞く。


「……ノーレンさん、また仕事で会えると思うか?」

「さあ?あの人次第じゃない?……まぁ、間違いなく追いかけてくるだろうけど。」

「でも、そっちのがいいんだろ?」

「……まあね。」


 そしてエイルはクスッと笑った。


「それにしても、これからが楽しみだなぁ。」

「ん?何が?」

「アカツキとクーシェと三人になってさ。一気に賑やかになったなって。……ちょっと前までは考えられなかったから、すごく楽しみだなって。」


 そうか、ノーヴァは今までずっと一人で活動していたから。


「私も楽しみよ!初めての国、初めての景色!それを貴方達と見れるの、とてもワクワクするわ!」

「……俺もだ。向こうに着いたら、三人で最初に観光地とか行くのも楽しそうだな。」

「賛成賛成!せっかくなら、三人で全力で楽しんでからお仕事しなくちゃね。」

「お前もそう思うだろ、相棒(バディ)?」


 俺が問い掛ければ、きょとんとした顔を見せたあと、エイルは笑った。


「……大賛成だよ。あぁ、本当に楽しみだとも。これからもよろしくね、アカツキ、クーシェ!」


 エイルはそう言って、広い広い海を見た。

 見慣れた、彼の明るい笑みを浮かべていた。

 ふと思い出した、エクリプスの言葉。


『いつか答えがわかった時。俺にお前の答えを教えてもらおうか。』


――きっと、俺が知らないことがまだたくさんある。


「……知らないなら、知るまでだ。」


 二人に聞こえないくらい小さな声で呟く。

 これはある意味、俺の決意だ。


 俺が死んだのかもわからないし、なぜこの世界に来たのかもわからない。

 『コネクト』も謎のままだし、その使い方も理解しちゃいない。

 エクリプスが俺のことを知っていた理由も、なぜノーヴァの身体を狙っているのかも、俺は本当に何も知らない。


 ……いつか、全部知ろう。

 ノーヴァの目的を果たす。その手伝いをしていれば、きっとわかることもあるはずだ。

 だから、そのためにもまずは……


「いざ、鉱国エリュオトリムへ!!」


 もう一人の『コネクト』の使い手に会いに。









 こうして俺達の聖帝国ルネラントでの仕事は幕を閉じ、舞台は鉱国エリュオトリムへと移るのだった。

 太陽の光を浴びて輝く海は、どこまでも、どこまでも美しかった。

これで、聖帝国ルネラント編は終わりです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


実はこの後の話なのですが、まだ一つもできておらず、幕間の物語を一つ投稿しましたら、暫く投稿が途絶えると思います。

元々、このルネラント編を書き終わるまでにも2年ほどかかっており、その続きとなると暫くは空いてしまうと思います……。


約1ヶ月間の投稿でしたが、読んでくださる方がいたということがとても励みでした。

本当にありがとうございました!!

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