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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
32/34

カイト・アウフリック

「『コネクト』ねぇ……。」

「あの魔法、そんな名前だったのね。しかも、それをアカツキ以外にも使える人がいるなんて……。」

「俺も正直半信半疑というか、そもそも『リンク』の進化形なら妖精だって使えるんじゃないかって思うんだけど……あの夢を信じていいのかわかんないんだよな……。」


 俺達は一度宿を出て、街の噴水広場に来ていた。

 噴水のそばにあるベンチの一つに座り、今後のことについて話し合っている最中だった。

 その流れで、俺は夢で女神アリオラから教えてもらった、例の魔法のことや、それを使える奴がエリュオトリムにいることなどを話した。

 鮮明に覚えちゃいるが、夢だし信じていいのか微妙なんだよな……。


「アリオラが夢に出てきたなら信じていいと思うよ。」

「どうして?」

「女神様はついこの間……と言っても十数年前までは、人の夢に出てきてはアドバイスをしていらした方なの。だから多分、それ。」

「僕も何年か前に実際会ったことあるんだけど……あの迷惑女神ならアカツキに会いに来るとは思ったよ。」

「お前もあるのかよ!?」


 まさかエイルも会ったことがあるとは……。

 そういえばアリオラもこいつの事、「あの子」って親しげに呼んでいたな。

 俺が思っていたより、この世界は女神が近しい存在なのかもしれない。

 ……それにしたって、エイルの女神に対する態度は信仰対象への態度ではないけど。


「アイツのことは心の底から大嫌いだし許せないけど、アイツの教えてくる話は信用できる。だから……アカツキが夢で聞いたことは本当だろうし、エリュオトリムに向かうのは賛成だよ。」


 はっきりと嫌いだと言いながら、アリオラの話は信用できると言って、エイルは遠くを見た。

 一体過去に、何があったのだろう。

 エイルにとって、アリオラは一体……


「まぁ、この世界の女神を『嫌い』だなんて、君達くらいにしか愚痴れないから内緒ね?」

「それはもちろんよ。でも意外。貴方でも、そんな風に思うことあるのね?」

「僕だって人間だからね。まぁ、深い話は追々しようかな。」


 クスクスと笑って、人差し指を唇に当てて、内緒だとジェスチャーを見せる。

 そしてその次の瞬間には、エイルはクーシェの方へ体の向きを変えた。


「さて!それで、クーシェはこれからどうするの?」

「え?」

「君は妖精の森を守るために、僕達はアルトレアスを手に入れるために。利害の一致から始まった協力関係だったけど、目的をすでに果たされた。」


 ……あぁ、そっか。

 妖精を狙っていたフェルロスが捕まった今、この協力関係を続ける必要はない。

 なんだかんだ言って、精神的にも救われたことがあったし、これでお別れになるのは、はっきり言うと寂しいな……。


「それ、なんだけどね。……私も、貴方達の仲間になるのは、ダメ?」

「えっ?」

「……それはまた、どうして?」

「私、やっぱり他の国を見てみたい。それに、貴方達と一緒に行けば、『リンク』と『コネクト』についてもきっと知れる。」


 クーシェは胸の前に手を当て、ぎゅっと硬く握った。


「貴方達のそばにいて、『コネクト』について知っていけば、『リンク』をもっと使いこなせるようになるかもしれない。そうすれば、もっと他の妖精達と意思疎通が上手くできるようになるし、それに何より……」

「妖精の森をもっと護れるようになる、か?」


 クーシェの言葉を遮るようにして、突如聞こえた聞き覚えのありすぎる声。

 その声は俺達の後ろから聞こえ、エイルと同時にベンチから立ち上がって振り向けば、そこにいたのは見目麗しいエルフ。


「カイトさん!!??」

「昨日ぶりだな三人とも。あと昇格おめでとうアカツキ。」


 にっこりと微笑む、騎士の鎧ではなくラフな私服のカイトさん。

 太陽の光を受けて銀髪が煌めき、私服だからかいつもよりも穏やかそうに感じるのは気のせいだろうか。


「どうやら無事に推薦が通ったようで何よりだ。これからも仕事に励むといい。表でも、裏でもな。」


 表、裏……というのは、冒険者としてのことと、怪盗の相棒としてのことだろう。

 俺はカイトさんを半目で睨む。


「騎士団長がそんなこと言っていいのかよ?俺達のこと、捕まえるんじゃなかったのか?」

「……ん?なんだ、まだ言ってなかったのか、ノーヴァ?」

「今はエイルだよ。っていうか、こんな所で油を売っていていいのかい?今、大変なんじゃない?」

「本格的に動けなくなるのは明日だな。どうせ取材やら事実確認やらで城から出られなくなる。今日は嵐の前の静けさってやつだな。」


 俺が煽ってみれば、なぜかエイルとカイトさんとで話が進む。

 俺とクーシェは顔を見合わせて首を傾げた。

 コホン、と咳払いをして、ベンチに座り直したエイルは俺達を見る。


「えーっと……。うん、まずはこれだけ。私服の時のカイトは警戒しなくていい。僕達を捕まえる気がないってことだから。」

「なる、ほど?なんで?」

「理由は話せば長くなっちゃうんだけど……結論だけ先に言うとすれば……」

「俺が怪盗ノーヴァの協力者だからだな。」

「「………………はぁ!!??」」


 カイトさんの発言に、俺とクーシェは同時に叫ぶ。

 いや、本当に何?協力者!?どういうことだよ!?

 説明を求めてエイルを見れば、ため息を吐いてから話し出した。


「ノーレンさんの話覚えてる?ノーバート男爵の話。」

「カイトさんと初めて会った時にちょっと話してたやつか?」

「そう、それ。盗み成功からの逃走大成功まではよかったんだけどね……。コイツ、僕がその時使っていた宿、自力で見つけ出しやがったんだよ。しかも単身で乗り込んできた。」

「早くしないと逃げられると思ったからな。実際、宿を出る準備していただろう、ノーヴァ?」

「だからエイルだっての。あと髪弄るのやめてもらっていい!?」


 げんなりとした様子で教えてくれるエイルは、一つに結んだ髪を後ろから指で弄るカイトさんの手を、バシッといういい音を立てて払い除ける。


「なんか……カイトさん性格違くね?」

「お堅いイメージが強かったけど、今はなんというか……親しみやすいというか感情豊かというか……」

「猫被りって言うんだよこれは。」

「公私は分けるタイプなんだ。団長としては冷酷でなければ部下に示しがつかない。俺だってプライベートでくらい、ハメは外したいさ。」

「君のハメの外し方は犯罪に加担してますけど??」

「正義の怪盗の味方だ。俺の正義は、これを犯罪とは認識していない。」

「屁理屈じゃん!?」


 愉快そうにクツクツと笑うカイトさんと、終始不機嫌なエイル。

 なんとなくわかった。

 これ、カイトさんが無理矢理ノーヴァの協力者になったやつだ。


「大体わかったでしょ?話を聞かない騎士団長サマに押し負けて、僕は仕方なくコイツを協力者にするしかなかったわけ。お陰で城内の地図とか手に入れられたのはデカいけどさ……。」

「あぁ、あの地図……。っていうか、協力者いるんだったら、なんで教えてくれなかったんだよ?」


 その情報を先に知っていれば、会ってすぐに協力することもできたんじゃないか?


「コイツ、変なこだわりがあってさ。『ただのカイト・アウフリック』としては僕に協力してくれるけど、『騎士団長カイト・アウフリック』としては全力で捕まえにくるんだよ……。」

「何をするにしても、手は抜かない主義なんだ。だから今回手を組んだのも、フェルロスを捕まえるまでの一時的(・・・)なものという形で、俺的にはグレーゾーンだ。」

「そこまでして協力者になりたかったのかよ……。」

「盗みの手口も、悪事の証拠を見つける手腕も、その全てが完璧で美しかった。そんなものを目の前で見せられたら、協力もしたくなるものだ。」

「やっぱりおかしいよお前。……まぁそんなわけで、下手に教えて混乱させちゃ悪いから、とりあえず黙ってたんだ。ごめんね。」


 なんか、ノーヴァも苦労してたんだな……。

 色々と考えてくれていたことはわかった。

 あと、思っていた以上にカイトさんが面倒くさいタイプの人だということも。


「それにしても……まさかあのノーヴァに相棒(バディ)ができるなんて想像もしていなかった。ほんの数ヶ月前まで、現地の協力者すら作らないように頑なに拒んでいて、俺も強行手段を取ったくらいなのに……」

「え、そうなんですか!?」

「その話はやめてくれないかな!?僕にも色々事情があるの!!それはいいから、君に邪魔されたクーシェの話に戻ってもいい!?」


 あのエイルが、焦りながらカイトさんの口を塞ごうとしている。

 その様子を見てクスクスと笑ったカイトさんは、仕方ないと言うように肩をすくめ、クーシェを見た。


「あぁ、そうだったな。クーシェ、お前は彼らについて行くのか?」

「え!?ぁ、えぇ、できるなら、そうしたいと思ってる。怪盗のお仕事も、手伝いたい。」


 突然話を振られたクーシェが、驚きつつもそう答えれば、カイトさんは小さく頷いた。


「ノーヴァ、お前の意見は?」

「だから名前……っ、もういいや……。僕としては大歓迎。元々、誘うつもりで今後のことを聞いたんだ。クーシェにもその気があるなら、これからも協力してほしい。」

「エイル……。ありがとう、すごく嬉しい。……でも、一つだけ問題があるの。」

「問題?」


 俺が首を傾げれば、神妙な顔をしてクーシェが頷いた。

 問題とはなんだろうか?

 その疑問に答えるように、カイトさんが口を開いた。


「クーシェは、自分がいなくなった後の妖精の森のことを心配しているのだろう?」

「……ええ。ランベルト伯爵やフェルロスが捕まったから、きっと妖精の森に手を出す奴はいなくなると思う。でも、もし今後そういう奴が現れた時、私が他の国にいる時にそんなことが起こったら、他の妖精達で対処できるのか不安で……。」


 そういえば、クーシェは妖精の森で頼られている存在だったな。

 リーダーではないと言われていたが、他の妖精達はクーシェの判断を信じて行動しているようだったし、不安になるのもわからなくはない。

 その言葉を聞いて、カイトさんが呟く。


「……今後、ルネラントは暫くの間混乱に陥る。そしてその混乱の中心とも言える帝国騎士団は、失った信頼を取り戻すために奔走しなければならない。」

「……?」

「これは俺達騎士団の身勝手な考えではあるが、我々が信頼を取り戻すためには、国民の心の拠り所たる妖精を、妖精の森ごと完璧に護り続け、地道に取り戻していくしかないのだが……。」

「っ!それって……」


 その言葉に、俺達も、そしてクーシェもカイトさんを見る。

 ニヤリと笑ったカイトさんは続ける。


「妖精達は、俺達に任せてくれないか?護るだけじゃない。お前がいなくても、彼ら自身で自分の身を守れるよう、最低限の護身術も教えるつもりだ。

 そうすれば、少なくともお前の抱えている不安は解消されるだろう?」

「……どうして、そこまでしてくれるの?」

「……これは、ただのエルフ(・・・・・・)としての考えだ。

 もしも妖精のことをもっと理解し、協力して国を護れていたなら……。妖精だけじゃない、エルフ以外の他の種族と、もっと対等に協力し、理解を得られていたなら……友が闇に堕ちることはなかったのではないか……と、今さらどうしようもないことを思うんだ。

 そのためには、暫くはアイツが嫌う状況が続くことになったとしても、長い目で見ればいつか妖精達が自立できるように、体制を整えていく必要があると考えている。これが、最初の一歩になれば、とな。

 ……ここまでダラダラと言ってきたが、結局は個人のわがままだよ。」


 そう言って、寂しそうに笑って、カイトさんは遠くに見える城を見上げた。

 

「まぁそういうわけだ。正直言えば俺の自己満足のためだが、妖精達の大切にしている『平和』は、必ず護るさ。」

「……貴方って、とっても変わっているけど、とっても優しいエルフなのね。ありがとう、カイトさん。」

「……っ、そう、か?……はは、君にそう言ってもらえるなら、たとえ全国民に非難されようとも、きっと俺は耐えられるな。……こちらこそありがとう、クーシェ。」


 カイトさんは、クーシェの小さな手をそっと手のひらに乗せて顔を近づけ、手の甲にキスを送った。

 その姿は本当に、民への『慈愛』に満ちた騎士の姿だった。

 そこで、タイミングを見計らっていたエイルが咳払いをして話し出す。


「それじゃあ、今後の方針は決まったみたいだね?」

「……ええ!改めて、これからもよろしくお願いします、エイル、アカツキ!!」

「あぁ、よろしくな、クーシェ!!」

「公務内容に当てはまらないなら、俺もこれからもできる範囲でサポートをするつもりだ。何かあれば頼ってくれよ、ノーヴァ。」

「ほんっとブレないな君は……。でも、まぁよろしくね、カイト。」


 俺とクーシェはハイタッチをして喜び、エイルとカイトさんは握手を交わした。

 昨日の夜のように、強く握られることはなく離された右手を一瞥し、エイルが俺達に言った。


「それじゃあ、クーシェの旅の準備もしなきゃね!早速買い出しに行こう!!」

「じゃあ私は森のみんなにも教えなくっちゃ!!ちょっと忙しくなりそうね!!」

「では、俺もそろそろ戻るとしよう。やることは山積みだから、な。」

「ありがとうございました、カイトさん。それと……これからもよろしくお願いします。ノーヴァの仲間同士ってことで。」

「あぁ、もちろんだ。……あのノーヴァが相棒(バディ)に選んだお前が、これからどれだけ強くなっていくのか、楽しみにしているぞ。」


 俺達三人は城の方へ歩いて帰っていくカイトさんに別れを告げ、噴水広場を後にした。


 こうして、クーシェが正式に加わり、俺達は三人組の冒険者兼怪盗とその仲間達になったのだった。

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