恐れるもの
金属と金属がぶつかり合う音が響く。
雄叫びをあげて剣を振り翳す騎士を視界に捉え、身を屈めると同時に前に駆け出し、相手の顎に剣の持ち手を勢いよくぶつける。
ご立派な鎧を着ているくせに、頭に被るものはないのだから利用させてもらうしかないよな。
守りの薄い顎に突然強烈な一撃を喰らった相手は、後ろに倒れ気絶した。
すぐさま次の奴が襲ってくるが、こちらも落ち着いて対処して剣を交え、相手が体勢を崩したところに蹴りを入れて倒す。
上手い具合に後ろにいた連中も巻き込まれてくれて、思いの外自分が活躍できていることに、小さくガッツポーズをした。
「ガッツポーズする必要ある?」
「決まったんだからいいだろ?」
フードに隠れながらも、ちょっと見ていたらしいクーシェに正論を言われ、内心見られてたのが恥ずかしかったが、なんてことない顔で言葉を返す。
ふーん、なんて頷きながらニヨニヨ笑っているのを見る限り、表情隠せてないかもだけど。
それにしても、この保管室は本当にすごいな。
とにかく広く、二階部分にはギャラリーもついている。
この広さもあって、ノーヴァは俺達が来るまで逃げ続けられたのかもしれない。
ふと視線をずらせば、丁度ノーヴァが3人の騎士を一度に相手しているところだった。
自身に迫った剣を避け、それどころかそれを踏み台にして跳躍し、攻撃してきた3人の後ろに着地する。
すぐに次の攻撃が迫るが、ノーヴァはステッキでそれを軽くいなし、剣を弾き飛ばした。
武器を無くした騎士が怯んだその隙をついて、鎧越しからお得意の突き技で攻撃を仕掛け、耐えられなかった騎士は吹き飛んだ。
なるほど、さっきもああやって吹っ飛ばしたのか。
っていうか片手でそれできるの、やっぱりおかしいと思う。
鎧へこんでません???
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
「っ!」
残っていた2人が同時にノーヴァの背後から襲いかかる。
俺はすかさず奴の元に駆けつけ、相棒に迫った剣を両方とも、自分の剣で受け止めた。
その間に体勢を整えたノーヴァが俺の後ろから再びステッキを突き出し、1人がノックアウトされる。
それによってバランスを崩した最後の1人は、力が抜けた瞬間に俺が押し返して回し蹴りをくらわせたことで、こちらもノックアウト。
「ナイスアシスト、さすが僕の相棒。」
「よく言うよ。どうせ俺がいなくてもなんとかしてただろ。」
「そんなことないよ。流石に今の僕じゃやられてたかも。」
そう言ってノーヴァが押さえたのは、フェルロスに撃ち抜かれ、まだ完治していない右肩。
そうだ、こいつ人間離れな戦い方しているけど、一番重症負ってるんだった。
「治癒魔法使う?」
「ありがとうクーシェ。でも時間がないから今はいいよ。……まぁ僕のことは心配しないで!さっさと終わらせて早く帰ろう!」
「あ、おい!」
いつも通りの笑みを浮かべ、ノーヴァはまた襲いかかってきた騎士に向かっていった。
本人が大丈夫っていうなら尊重してやるべきだろうけど……本当に大丈夫だろうか。
「クーシェ、もしもの時は頼む。」
「まかせて!怪我の治療は誰にも負けないわ!」
「怪我しないのが一番だけど、な!!」
クーシェと会話しながら、俺は反射で剣を顔の横に持ってきた。
同時に剣にあたったのは銃弾。
ギリギリ攻撃を防ぐことができたが、手がビリビリと痺れる。威力やばいな……。
銃弾が飛んできたということは、それをやったのは1人しかいない。
飛んできた方を見れば、顔を歪め、悔しそうにしているフェルロスがいた。
そんな奴にカイトさんが斬りかかり、銃から剣に持ち替えたフェルロスが応戦する。
まさに互角の戦いが繰り広げられていた。
フェルロスはカイトさんに任せて、俺は周りの騎士達を倒す事を最優先にしよう。
まだ10人以上残っている、裏切り者の騎士達。
俺はもう一度剣を握り直し、ノーヴァと同じように、敵に向かって走り出した。
「そういえばアカツキ、魔法は使わないの?」
暫く戦闘してからクーシェに言われたその言葉に、そういえば使ってなかったなと思い出す。
どうしても魔法を使うことになかなか慣れず、結局物理に頼りがちではあった。なんとかなっていたし。
俺は敵の攻撃を受け流しながら考える。
――今魔法を使うなら、何をどうすれば敵の戦力を奪える?
そして脳裏をよぎったのは、あの森で負傷したノーヴァを連れて逃げるときに使った魔法。
アレなら、無駄に体力を使わずに敵の動きを封じられる!
「クーシェ、ちょっと冷えるけどいいか?」
「冷え……?あ、なるほど!大丈夫よ!」
満面の笑みで頷いたクーシェに頷き返し、俺は辺りを見渡した。
そして少し離れた所で戦っているノーヴァを見つけた。
「ノーヴァ!気を付けろよ!」
「了解!頼むよアカツキ!」
多くを言わなくてもわかってくれたらしい。
戦っていた騎士を踏みつけて、ノーヴァが跳躍したタイミングで俺は魔法を使う。
床に手を当て、そこが中心となって冷気が広がっていく。
俺が何をしようとしているかわかった時にはもう遅い。
彼らの足は、いつぞやのフェルロスと同じように氷に包まれ、その動きを封じられていた。
腕は振れるだろうが、俺達が近付かない限り、その手に持つ剣の間合いに入ることはない。
俺が床から手を離した時には保管室の床全てに氷が張り、スケートができるくらいツルツルになっていた。部屋全体の温度も下がった気がする。
俺の隣に着地して、ノーヴァは笑った。
「君、氷魔法のセンスいいよね。」
「え、まじ?」
「うん。炎魔法なんかよりずっと君と相性いいよ。」
ノーヴァはそう思っているのか……。
自分的にも結構使いやすいと思っていたし、これは極めてみる価値ありかもな。
他の氷魔法も練習してみるか、なんて考えていた時だった。
再び銃の音が響き渡り、俺の足元の氷にヒビが入った。
つまり、そこに銃弾があたった証拠。
そちらを見れば、カイトさんの剣を自分の剣で受け止め、空いている手で銃を持ち、こちらに銃口を向けているフェルロスの姿があった。
俺と目が合うと、奴は舌打ちをしてカイトさんから距離を取る。
どうやら、奴は俺の魔法を逃れていたらしい。
「流石に両方の相手は厳しかったか。」
「舐められたものだ。片手間で俺が倒せると?」
カイトさんの言葉に、フェルロスは吹き出した。
「まさか!お前とは真剣勝負がしたい。だから、邪魔な奴を殺してしまおうと思ったんだけどなぁ。」
そして奴は満面の笑みを浮かべ、くるくると銃を片手で回し、なんの予兆もなく俺に向けて発砲した。
「アカツキ!!」
「うおっ!?」
ノーヴァが俺を呼ぶよりも速く、俺は再び剣で銃弾を防ぎ、間一髪で命を守ることができた。
少しでもタイミングがずれれば、おそらく体には一瞬で穴が開くだろう。
かろうじて防げているが、俺の剣があと何回耐えられるか……。
「アカツキ、怪我は?」
「してない。そっちこそ肩は?」
「至って良好。」
「嘘つけ。」
穴空いてる奴が何言ってんだ。
ノーヴァは苦笑してから、すぐに真剣な顔を見せ、ステッキを構え直した。
「よくやったアカツキ。おかげでアイツだけに集中できる。」
カイトさんも一度退き、俺を真ん中にして隣に立つ。
彼の言う通り、敵はあと一人。
フェルロスの戦う力を無くすことができれば……!
「はぁ…………まさか私以外、皆この氷で動けなくなるとは。」
「フェルロス、降参してくれ。俺とて、仲間だった者とこれ以上争いたくはない。」
「カイト……」
カイトさんの言葉に、何か思うところがあったのだろうか。
フェルロスは神妙な面持ちでカイトさんを見ていた。
ただ静寂の時間が過ぎていく。
その時、鎧が微かに擦れる音が聞こえた。
そちらを見れば、足が俺の氷に包まれたフェルロスの部下の一人が、フェルロスに向かって手を伸ばしていた。
「ふ、副団長、申し訳ございません……油断しました……。今からでも加勢いたします……!なので、氷を……!」
他の騎士達が戦意喪失して項垂れている中、その騎士はまだ加勢しようという気持ちがあるらしい。
一人増えたところで人数的にはこちらが有利だ。
だけど、敵は少ないに越したことはない。
フェルロスがどう動くのか、用心しなければ。
俺は、フェルロスの表情を見る。
しかしすぐに違和感を覚えた。
部下に助けを求められたのに、フェルロスは冷え切った目線だけそちらに向けて見ているだけで、助けようとしているようには思えなかった。
「……そうだね。油断したことは反省してもらわないとだ。まぁ、反省してもらったところで……
君達のような役立たずはもう必要ないけど。」
「えっ…………」
言い終わると同時に銃口を部下であるはずの騎士に向けて発砲するフェルロス。
いち早く反応したのは、最も近くにいたノーヴァだった。
俺がやったのと同じように、ステッキで銃弾を防ぎ、ノーヴァはフェルロスを睨みつける。
突然命を狙われた騎士は目を見開いていて、状況が理解できていないようだった。
しかし、敵であるノーヴァに庇われなければ死んでいたことを理解したのだろう。
その顔を真っ青に染め、信じられないという目でフェルロスを見ていた。
カイトさんも、フェルロスの突然の攻撃に顔を歪ませ、剣を持つ手に力が入っているようだ。
「何故仲間の命を狙った!?彼はお前の部下だろう!?」
「そうだね、さっきまではそうだったよ。でも足手纏いは邪魔でしかない。」
「お前……!!」
再び銃を撃とうとしたフェルロスに、カイトさんが瞬きの間に接近して攻撃を仕掛けた。
ノーヴァもそちらに加勢し、混戦状態になる。
加勢する前、一度こちらに視線をよこしたノーヴァ。
俺はそれを見てハッと思いつき、戦いには参加せず、さっき殺されかけた騎士の元へ向かった。
ノーヴァは騎士達を巻き込まないようにしろという意味で視線をよこしたのだと思う。
フェルロスに殺されかけたということは、奴にとって彼らは用済み。
生きていても死んでいても関係ないのだろう。
なら、せめてその命だけは敵であろうと守るべきだ。
……というか、凍らせて身動き取れなくさせたの俺だし、責任はちゃんと取らないとだよな。
俺は信じていた副団長に殺されかけて茫然自失の騎士の手から剣を放させ、申し訳ないが念のため、攻撃されないように拘束魔法で両手を拘束した。
それから足元の氷を丁寧に溶かす作業に入った。
「クーシェ、手伝えるか?」
「炎魔法は使えないわ。でも、痛みや熱さは和らげられる!」
「じゃあ頼む。」
クーシェの力も借りて溶かす作業を続けていき、やっと一人を氷から出すことができた。
彼を部屋の隅の方に連れていってから、逃げられないよう足にも拘束魔法をかけようと思ったが、最後まで抵抗らしい抵抗もされず、逃げ出されることはないと思ってやめた。
裏切られたことがどれだけショックだったのか察せた。
しかし一々同情はしていられない。
俺は同じ手順で騎士達を次々と拘束して移動させる。
とにかくフェルロスから離し、犠牲者を出さないようにするんだ。
最後の一人を移動させた時、騎士の一人がポツリと呟いた。
「何故、命を狙った我々を助ける……?」
「助けるのに理由がいるか?少なくとも、アンタらの団長は、生きて罪を償わせたいらしいけど?」
「……俺……俺達は、団長……うぅ…………」
ワザとアンタらの団長、という言い方でカイトさんのことを言えば、その騎士は泣き出してしまった。
裏切って、フェルロスについたことを後悔しているのかもしれない。
……後悔しても、もうどうしようもないだろうけど。
なんとも言えない、やるせない気持ちになっていた時だった。
「ノーヴァ!」
「っ!?」
カイトさんの焦り声が聞こえ、俺は嫌な予感がした。
振り向いた俺の目に映ったのは、苦悶の表情をして右肩を押さえて座り込んだノーヴァの姿。
――限界が来たんだ。
完治したわけでもないのに、アイツは多分俺達の中で一番動いていた。
今まで動けていた方がおかしいくらいなんだ。
カイトさんがフェルロスの攻撃を防いでくれているが、危ないことに違いはない。
「ノーヴァっ……!!」
一刻も早く加勢しなければと走り出す。
しかし……
「あっつ!?」
「アカツキ大丈夫!?」
突然、目の前に炎が壁のように燃え上がり、行手を阻まれてしまったのだ。
カイトさんにも炎が襲いかかったらしく、炎を避けた結果、ノーヴァから離れてしまったようだ。
円を描くように燃え上がった炎は、未だ動けないノーヴァに徐々に近づいていく。
そして、疲弊しきった獲物を狙う猛獣は、その口を開き笑った。
「初めからこうすればよかった。この場で一番魔法を扱えるのは私なのだから。」
フェルロスはその手で赤黒い炎を弄りながら、ノーヴァの元へと歩いていく。
火が強すぎて、俺の氷魔法では消せない。
カイトさんでも無理なようだった。
「ノーヴァ!逃げろ、ノーヴァ!!」
聞こえているはずだ。全力で叫んだから。
なのに、ノーヴァにはまるで聞こえていないようで……。
――様子が、おかしい。
遠くだからはっきりとは言えない。
だけどノーヴァの様子は、明らかに普通ではなかった。
自分の肩を強く抱いて、身を守るように震えているその姿に、普段の飄々としたノーヴァの面影はない。
怯えているんだ、炎に。
そういえばアイツは、俺が炎魔法を初めて使った時も、笑顔がぎこちなくなっていた。
もし炎を恐れているなら、今の状況はかなりまずい。
恐怖を抱いているものに囲まれている状態で、平気でいられるはずがない!
浅い呼吸を繰り返すノーヴァの目の前に立って、フェルロスがノーヴァを見下ろす。
「言った通り、死んでもその身体があれば目的は達成できる。……さようなら、愚かな怪盗よ。」
「……ぁ…………」
届かないとわかっていた。
それでも、俺は手を伸ばした。
「ノーヴァぁぁぁぁぁ!!!!!」
耳を劈くような銃声と、
ガラスが割れる音と、
何かがカチリと繋がる音が、聞こえた。
ノーヴァはどうなってしまったのでしょうか?
次回、お楽しみに!




