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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
26/34

帝国騎士団副団長フェルロス・エッセン

 辿り着いた、『紫石の間』がある廊下。

 全力で走って少し息があがりながらも、なんとかここまで来ることができた。


「ノーヴァは無事かしら……?」

「アイツなら、きっと大丈夫だ。」


 自分にも言い聞かせるようにそう言う。


――ここに来るまでに、フェルロス側の騎士はほとんどいなかった。


 とはいえ、襲撃が全くなかったわけではなく、5人の騎士に襲われたが俺とカイトさんですぐに倒せたし、それだけだった。

 おそらく、俺達を足止めさせるためだったのだろうけど……うん……。

 ちなみに襲ってきた5人は気絶させ、カイトさんが『リンク』で味方の騎士に報告し、捕縛命令を出していた。

 味方の騎士達には、自分が単独で行動しやすいように、皇帝の護衛や別所の警備に当たってもらっているらしい。

 これが職権濫用ってやつか……。


「皇帝からの命に従った上での行動だから、濫用ではないな。」

「そっすか……。」


 もうツッコむのも疲れた。

 皇帝の許可があればいいのね……そうですか……。


 まあとにかくだ。5人倒したところで、クーシェからの情報からしてまだ25人はいる。つまり、その25人はみんな、ノーヴァを捕まえるためにこの中にいるということでもある。

 ……きっと今までよりも激しい戦いになる。

 俺は一度深呼吸をして、辿り着いた保管室の入り口の扉に手をかけた。

 低姿勢になり、扉を開こうとしたまさにその時だった。


 ガァンッッという重い音が廊下にまで響き渡り、俺達は動きを止めた。

 聞き覚えのある、耳障りな騒音。


「……今の、まさか……!」


 それは、あの仮面の男が……フェルロスがノーヴァを撃ち抜いた時の銃声。

 俺の脳裏に最悪な光景が思い浮かぶ。


 あの時と同じようにノーヴァが倒れ、真っ赤に染まりながら命が失われていく。

 そんな光景を想像したら、もう耐えられなかった。


「ノーヴァ!!」


 相棒の無事をすぐにでも確認したくて、俺は何も考えずに、扉を開け放ってしまったのだ。


「おいこらバカ!!」

「開けるなアカツキ!!」


 焦ったように叫んだカイトさんの声と、俺を制止するノーヴァの声が同時に聞こえた。

 そして、少し遅れて耳を強く引っ張られた。

 あまりの痛みにそちらに体ごと引っ張られれば、再びの重い音が響き、俺のすぐ横を何かが横切った。

 ……いや、何かじゃないな。銃弾しかあり得ない。

 最初の銃声は、俺を嵌めるための罠だったと気付く。

 耳を強く引っ張ったのは俺の肩にいたクーシェで、咄嗟の判断で俺を守ってくれたのだろう。

 おかげで命拾いした。もし、あのまま扉を開けた場所に突っ立っていたら……考えるだけでゾッとする。

 俺は心臓がバクバクとやかましく鼓動するのを落ち着かせ、クーシェに礼を言う。

 俺と同じことを考えて顔を青ざめさせたらしいクーシェを落ち着かせてから、銃弾が飛んできた方を見た。


 一つの宝を守るには広すぎる、広大な保管室。

 ふと部屋の中心を見れば、ガラスケースの中に飾られた物を見つけた。

 花の蕾のような形で、左右対称に蔦がうねっているような装飾が施された薄紫色の宝石。大きさは片手で握れるくらいだろうか。

 保管室の二階にある窓から差し込む月明かりで、神秘的に輝いている。

 これが、聖帝国ルネラントの保有する魔導石、紫石ルネララムだと、すぐにわかった。


 そしてそのさらに奥、ちょうど月明かりが当たらない陰から、こちらに向かって微笑む人物。


「フェルロス・エッセン……。」

「やぁ、アカツキ君。あの森(・・・)以来だね。」


 俺はその人物の名を口にした。

 名を呼ばれた奴はさらに笑みを深め、こちらにまた銃を向ける。

 俺は身構えたがしかし、フェルロスの横から突然騎士の1人が吹っ飛んできたことで、奴は後ろに飛び退ける他なくなった。

 俺と奴が騎士が飛んできた方を見れば、そこには赤い髪を揺らした、夜空色の相棒がいた。

 前に突き出したステッキを見るに、さっきの騎士は、あれの餌食になったんだろう。


 ステッキをコツンと床につけ、ノーヴァはフェルロスを睨みつける。


「アカツキを狙うとは卑怯だな、フェルロス・エッセン。正々堂々、騎士らしく戦ったらどうだ?」

「それを言ったらお前も、ちょこまかと逃げず戦えばいいものを。」

「お生憎様。僕は騎士じゃないからね。」


 ノーヴァはフェルロスへの警戒を解くことなく歩いてきて、入り口に立つ俺の隣に立った。

 一度こちらを見て、俺を安心させようとしたのか、いつもの笑みを浮かべてから、フェルロスへ鋭い視線を向けた。

 怪我もないようで、俺はほっと息を吐く。


 とりあえず、相棒は無事だった。

 ならあとは、フェルロスを止め、ルネララムを手に入れるだけ。


 その時、ノーヴァがポツリと呟いた。


「まさか助けに来てくれるとは。」

「クーシェが急いで連絡してくれたんだ。おかげでこうして、ここまで辿り着けた。」

「クーシェも戻ってきたんだね。逃げてくれてよかったのに。」

「協力するって言ったんだから、仲間を見捨てるわけないでしょ!あんな勝手なことまたしたら、絶対許さないんだから!」

「……ごめんね、ありがとう。」


 ノーヴァは嬉しそうに笑って、ステッキを構え直した。

 俺も剣を手に持ち、奴を睨む。

 フェルロスはクーシェの姿を見ると、先ほどまでの笑みが嘘のように顔を歪ませた。


「あぁ……お前達を助けていたのはその妖精か。ただでさえ存在そのものが鬱陶しいのに、こうも我々の邪魔をするとは……忌々しい限りだよ。」

「お前のその妖精嫌いは昔からだな、フェルロス。いや……さらに悪化しているか。」

「……カイト。」


 扉の陰に隠れ、様子を窺っていたカイトさんも俺達のそばに歩み寄り、フェルロスを見据えた。

 ノーヴァはカイトさんがいることがわかっていたのか、それほど驚いていなかったが、フェルロスや奴側の騎士達は動揺しているようだった。

 そんな周りには目もくれず、カイトさんはただ、フェルロスを見続けて言葉を続ける。


「嫌いなものを好きになれとは言わない。だが、それだけの理由で今お前がしようとしていることは、断じて許せない。」

「君は何もわかっていないな、カイト。」


 フェルロスは笑みを浮かべた。

 それはギルドで会った時の親しみやすさのある笑みではなく、人を嘲笑う、邪悪な笑みだった。


「私はただ、あの方(・・・)のために行動しているに過ぎない。たまたま私の『願い』と、あの方の目的のための『手段の一つ』が同じだったというだけ。殺したいから殺すんじゃない。殺す必要があるから殺すだけだ。」

「……妖精を滅ぼすことで平穏を失わせ、国内からの崩壊を望むのか、お前は。」

「あぁ、その通りさ。その崩壊が各国を巻き込む戦争になれば……あの方の悲願は叶う。」


 奴のその言葉に反応したのはノーヴァだった。


「アイツは何を考えている?僕を狙うことと何か関係があるのか?」

「ハハハ!!これから死ぬ()が知る必要はないさ。まぁ一つ言えるのは、大戦争が再び始まれば……我々騎士団の願いも叶うということか。」

「っ、フェルロス、まさか貴様……!」

「そうだよカイト!!私の部下達はそのためにこちら側についた!!みんな戦争で活躍の場を得たい奴らさ!!たった千年前は、嫌でも戦争で手柄を上げることができた。なのに今はどうだ!?戦いなど、望んでも絶対に起こらない。普段の仕事といえば皇帝の護衛か国の警備、そして飽きるような書類仕事!!騎士であるにも関わらず、腰の剣は肉を斬ることすら知らない!!平和を愛し、それを護る?反吐が出る!!」


 感情を爆発させ、捲し立てるように吐き捨て、フェルロスはカイトさんを指差す。


「カイト。お前は戦いを望まず、妖精どもと同じように『平和』を愛している。その考えを持つ者は邪魔でしかないんだよ。」

「だからこの場で殺す、か。」

「お前さえいなくなれば、皇帝なんぞどうにでもできるからな。侵入者共々、ここで死ぬがいいさ。」


 フェルロスの合図と同時に、彼側の騎士が一斉に武器を構え、俺達を囲む。

 戦う力を持たないクーシェにフードの中に隠れるように言って、改めて武器を構え直す。


「……お前達は、エルフの誇りも捨てたのだな。」


 小さな声で呟き、カイトさんは鞘から剣を抜く。

 月明かりが反射して、銀色の剣が煌めいた。


「……いいだろう。帝国騎士団団長として裏切り者を処罰し、1人のエルフとして同胞の過ちを正そう。エルフの誇り……『慈愛』の下に、お前達を止めよう。」


 どこまでも真っ直ぐな強い声と青い瞳が敵を見据え、その姿を見た何人かが一瞬怯んだ。


「そういうわけだ。少々付き合ってくれるか、アルオローラ一の怪盗殿?」

「僕達は体よく巻き込まれたってわけね。いいよ、興が乗った。予告状に書いた通り、ルネラントの巨大な闇……裏切り者達には、夜明けという名の終わりを届けようじゃないか。」


 ノーヴァも星の瞳を煌めかせ、そう宣言した。

 目だけこちらに向けて、相棒は微笑む。


「アカツキ、準備はいい?ルネララムを盗むための下準備。裏切り者達に、痛い目見てもらうよ。」

「あぁ、まかせろ。クーシェ、しっかり掴まってろよ。」

「わかったわ!3人とも頑張って!」

「おい待て、ルネララムをすんなり盗ませるかどうかは別問題だからな?」

「えぇ!?僕達は君を手伝っているのに!?」

「それとこれとは話が別だ。……というか、命を狙われている状況なのに、俺を含め随分と呑気なことだ。」


 カイトさんが呆れ気味に呟いた言葉に4人揃って笑ってしまう。

 確かに、命を狙われているこの状況で笑う余裕すらあるのは、危機感がなさすぎるかもしれない。


――だけど、負ける気がしない。


 絶対に騎士達に……フェルロスに、勝てる。

 俺はそう確信していた。

 だから俺も、俺達を囲む騎士を見据え、笑みを浮かべた。


 俺達が笑っていることが気に食わなかったのか、フェルロスはこれ以上ないというほど表情を歪ませ、片手を横に振った。

 それは合図。

 一斉に、騎士達が襲いかかってくる。


「いくぞ!」


 俺の言葉にノーヴァ達も頷き、武器を構えた。


 ルネララムを手に入れる為に。

 裏切り者を正す為に。

 妖精達を護る為に。


 俺達は、戦いの一歩を踏み出した。

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