もう1人の協力者
「じゃあ、伯爵邸のことも妖精の森のことも、全部カイトさんの仕業だったのか!?」
「フェルロスに怪しまれずに行動するにはこうするしかなかったんだ。悪く思うな。」
クーシェからのリンクで、ノーヴァがピンチだということがわかってすぐのこと。
クーシェはかなり焦っているのか、「とにかく急いで合流して!」と叫んで、こちらの呼ぶ声には反応しなくなってしまった。おそらく、焦っていることでリンクの維持ができなくなってしまったのだろう。
詳しい状況も聞けなかったし、早く彼女と合流しようと走る俺。
そんな俺の隣を走り、おそらくノーヴァ達がいるであろう、ルネララムの専用保管室までの近道を案内してくれるという騎士団長のカイトさん。
カイトさんは、さっき俺に言い切れなかった事を、走りながら説明してくれた。
そしてさっきの叫びに繋がるわけだが……。
カイトさんは、フェルさん……いや、フェルロスの動きを怪しいと思っていて、独自に調査を進めていたようだ。
フェルロスは伯爵と共謀して魔法薬を作り、それを妖精の森で実際に使っていた。そもそも、魔法薬の開発を依頼したのもフェルロスだった。
そして騎士団とはまた別の理由で、ノーヴァを捕えようとしていることや、そのために一部の騎士を自分側に引き込んでいたこともわかったらしい。
「フェルロスには、もう一つの顔があった。お前も知っているだろう?」
「……マヴロ・フォティアか。」
「そうだ。しかも奴は……その幹部だ。」
俺達が倒すべき敵、マヴロ・フォティア。
フェルロスがマヴロ・フォティアの一人だろうということはノーヴァの話でわかってはいたが、まさか幹部とは。
「俺一人では、もはやどうにもできない問題だ。……一国の騎士一人が戦うには、あまりにも敵が巨大すぎる。」
まさにルネラントの巨大な闇そのものだと、ノーヴァが予告状に書いた言葉を呟き、カイトさんは眉を顰めた。
「……フェルロスは、マヴロ・フォティアは何を企んでいるんだ?」
俺のその問いに、カイトさんは静かに答えた。
「大戦争の再戦だ。」
「は……!?それって、千年前に起きた多種族間で多くの犠牲が出た戦争のことか……!?」
「その通りだ。妖精を滅ぼせば彼らの祝福がなくなる。それはつまり、国民の心の拠り所が一つなくなるということ。拠り所を失った国民は下手をすれば暴動を起こし、それがいずれ……。」
その先に紡がれなかった言葉は、おそらく、戦争が始まる原因になるということだろう。
ノーヴァも言っていたが、この国は妖精の祝福を重宝している。それこそ、農作物の豊作や健康ですら祝福に頼っているほどに。
……それが突然、妖精が滅んだことで頼れなくなったら?
きっと、恐れるだろう。頼っていたものがなくなり、自分の身がどうなるかもわからなくなれば、どうしたって上に立つ者への不満が溜まる。
そしてその不満が暴動という形になって内乱に繋がり、下手をすれば他の国とも……。
そんなにも上手く戦争に繋がるとは思わないが、最悪の場合、そうなってしまう可能性もあると考えれば、帝国騎士団のトップであるカイトさんがこうして動くのも、わからなくはなかった。
「何としても奴を止めねばならない。しかし、俺一人がフェルロスの逮捕に動いたところで、俺が奴らに葬られて終わる。だから、どうにかして大々的に奴を捕まえられる『舞台』が欲しかった。」
「まさかそのために?」
「あぁ。伯爵邸の警備に冒険者の介入を拒否したし、妖精の森の立ち入りも禁止した。こうすれば騎士団が関与しているとノーヴァが考え、何かしら動いてくれると思ったからな。」
「それで実際、ノーヴァは騎士団に真犯人がいると気付いたし、ルネララムを盗むという予告で乗り込んだから『舞台』が整ったってことか?」
「その通りだ。つまり、やっと帝国騎士団の闇を取り除ける、絶好のチャンスが来たわけだ。」
まんまと俺達はこの人の掌の上で転がされていたんだな。
まさか、この人が出した命令その全てが、ノーヴァを関わらせるためのものだったとは。
確かに、冒険者の介入や妖精の森への立ち入りを禁じたのは、『魔物寄せの魔法薬』の開発に関わっている証拠がバレないようにするためだと思ったし、この人、騙すの上手いな……?
そこでふと、思い至ってしまった一つの考え。
「カイトさん、もしかして伯爵邸の俺達の盗みって……」
「疑われない程度に力は抜いたぞ。盗み出してもらわないと進まないからな。」
「それでいいのかよ騎士団長!?」
「斬りかかる時は本気出したから問題ないだろ。ついでに言うと証拠の資料、あのわかりやすい場所に置いたのも俺。」
「なんなの!?アンタなんなのマジで!?」
次から次へと出てくる、この人の裏での手回しにツッコまずにはいられなかった。
帝国騎士団のトップがこれで本当に大丈夫か!?
「皇帝陛下の許可はいただいている。つまり合法。」
「俺この国が不安になってきた。」
皇帝まで認めてんのかよ。
ならいいのか……いいのか……?
やってること怪盗の手助けですけど……?
「利害が一致していたからとはいえ、巻き込んだ責任は取る。だからフェルロスを……裏切り者達を捕えるまでは、お前達の力を俺に貸してほしい。」
走りながら、カイトさんはそう言った。
騎士団長が味方してくれるというのはかなり心強いし、俺自身、この国を護ろうとしているこの人の助けになりたい。
しかし、聞きたいことももちろんまだある。
「そういえば、カイトさんはどうして俺がノーヴァの仲間だって知ってたんだ?別棟でも、俺が来るのを待っていたって感じだったし……。」
「それは……」
「アカツキー!!」
その時、窓の外から声が聞こえ、猛スピードで飛んでくる「何か」に気付いた。
それは、俺を見つけるとさらにスピードを上げ、両手を広げて……
盛大に俺に頭突きした。
「ゴッフッッッ!?」
「いたぁ!?あ、ごめんなさいアカツキ!大丈夫!?」
「お、おう……なんとかな……。っていうかスピード出しすぎだぞクーシェ!?」
「急いでたから許して!って、騎士団長のカイト・アウフリック!?なんで一緒に行動してるの!?」
俺に頭突きしてきたのは、もちろんクーシェだった。
全力で飛んできたのだろう。まだ肩で息をしているクーシェは息を整えつつも、俺とカイトさんを交互に見比べて、目を丸くしていた。
まあそうだよな、ノーヴァを捕まえようとしている帝国騎士団の、しかも団長と行動してたらそりゃそうなるわ。
「時間がない。走りながら説明しよう。」
カイトさんがそう言って再び走り出す。
「クーシェ、ちゃんと説明するから、一旦俺の肩に乗ってくれ。」
「え、えぇ、わかったわ……。絶対に理由教えてよね。私も詳しいことを話すわ。」
その言葉に俺は頷き、クーシェを右肩に乗せた。疲れているようだし、こちらの方が早いだろう。
しっかりと彼女が座ったことを確認して、俺もカイトさんの後に続いて再び走り始める。
クーシェとも再会できた。あとは、ノーヴァを助けるだけだ。
――無事でいろよ、ノーヴァ……!!
俺は心の中でそう願い、走り続けたのだった。
____________________
ある程度説明が終わった時、俺達は渡り廊下を通って別棟から本城に移動し、廊下を走り抜けていた。
フェルロス側の見張り数人に出会しかけたことも数回あったが、なんとか身を隠して乗り切り、着実に『紫石の間』へと近付いていく。
合流してすぐはカイトさんがいる事に混乱していたクーシェも、ここに来るまでに彼から話を聞いていくうちに落ち着き、状況を理解できたようだ。
クーシェからもノーヴァといた時の事を教えてもらい、想像していた以上にノーヴァがピンチかもしれないと、俺は顔を顰めた。
アイツに限って、捕まったなんてことはないと思うが……。
「なんとなく察してはいたけど、やっぱり私達を滅ぼすことがフェルロスの狙いだったのね……。きっと、あくまでも魔物のせいにして、自分達の仕業だとわからないようにするつもりだったんでしょうね。」
クーシェは俺の肩の上に座りながら、考え込んでいるようだった。そして彼女が言ったその考えは、おそらく当たっている。
カイトさんが何も言わないということは、そういうことなのだろう。
その時、ハッと何かに気が付いたかのように顔を上げ、クーシェが俺を見上げた。
「そういえばフェルロスは、ノーヴァを誰かのところへ連れて行くつもりみたいだったわ。私達を滅ぼそうとしている理由とは関係ない気がするんだけど……アカツキは何か知ってる?」
「それは……。」
多分それは、ノーヴァをマヴロ・フォティアのボスのところへ連れて行く、ということだ。
ボスとやらは、ノーヴァの身体のもう半分を求めていると、アイツ自身から聞いた。
しかし、ノーヴァを狙っている理由を話すにはマヴロ・フォティアについても話さないといけなくなる。
それはノーヴァと決めた、『クーシェにマヴロ・フォティアのことは伝えず、彼女の平和を脅かさない。』という決まりを破ることになる。
どう説明したものか迷っていると、カイトさんが徐に口を開いた。
「……アカツキ、お前達は彼女に奴等のことを伝えていなかったようだが……こうなってしまった以上、彼女にも知っておいてもらうべきだ。」
「カイトさん……でも、それは、」
「確かに奴らはクーシェのことも狙うかもしれない。だがそれ以上に……」
「仲間はずれは許さないんだからね、アカツキ!」
カイトさんの言葉に重ねるようにして、クーシェがそう言った。
「私、なんとなくわかってるわ。これは一部の騎士団員が裏切っただけじゃなくて、もっと大きな……もっと恐ろしいものが後ろにある事件だって。」
「クーシェ……。」
「守られるだけなんて嫌。私はあの夜に、とっくに覚悟できているんだから!」
俺の肩から飛び、目の前でそう告げたクーシェの表情は、その目は、真剣そのものだった。
クーシェは本当に聡明だ。
俺達が、クーシェに隠していることがあるとわかっていた上で、ついてきてくれたんだろう。
……俺もノーヴァも、マヴロ・フォティアとの問題に必要以上に巻き込まない事を考えすぎて、クーシェ自身の気持ちをちゃんと理解してやれていなかった。
そうだ、彼女は自分達の森の平和のために戦うと言っていた。
そして、クーシェに協力してもらおうと、彼女の気持ちを尊重しようと言ったのは、俺だった。
「……ごめん、クーシェ。俺……いや、俺達、お前のこと、わかってやれてなかった。」
「いいの。私を守るためだったってことはわかってるから。でも……ノーヴァがその恐ろしい奴らに狙われているなら、ちゃんと教えてほしい。」
「……わかった。話すよ。奴らについて。カイトさん、保管室まであとどれくらいだ?」
「まだもう少しかかる。だが、見張りもさらに増えるだろう。手短に話せ。」
「わかった、ありがとう。」
ノーヴァを助けに行く前に、ある程度わかっていてもらった方がいい。
そうして俺は、マヴロ・フォティアという組織について、俺が知っている情報を全て伝えた。
闇に潜んできた危ない連中である事、ノーヴァのもう半分の身体を狙っていること、魔導石も狙っているかもしれない事。
そしてさっき知った、フェルロスがマヴロ・フォティアの幹部だという事や、大戦争を復活させようと目論んでいる事。それら全てを。
クーシェは話を聞き終わってから、顔を青くする。
「じゃあノーヴァ、今かなり危険じゃないの!?それに、大戦争の復活とか正気の沙汰じゃないわ!」
「あぁ。だから絶対にフェルロスを止めないとだ。……今更だけど、協力してくれるか、クーシェ?今度は……今度こそ、対等な協力者として。」
俺が手を差し出せば、クーシェは強く頷き、微笑んだ。
「もちろんよ!!ノーヴァを助けて、フェルロス達を捕まえて!絶対にこの国を護りましょう!打倒マヴロ・フォティアよ!!」
手の大きさ的に普通の握手は交わせない。
だから俺の人差し指を両手で持って、クーシェは上下に揺らした。
その勢いからも、意気込んでいることがよくわかる。
あぁ、もっと早く話しておくべきだったな。これは、俺達のミスだ。
本当に嬉しそうに笑うクーシェを見ながら、俺は心の中で苦笑した。
「話は終わったな。もうすぐルネララムの保管室だ。」
話すタイミングを見計らっていたようにカイトさんがそう言い、俺とクーシェは目を合わせて頷く。
ふと耳をすませば、微かに戦う音が聞こえた気がした。
ノーヴァが、まだフェルロス達と戦っている音かもしれない。
「ここからは、より気を引き締めていけ。」
俺はもう何も言わずに、剣にそっと手をかけた。
いつでも戦闘態勢に入れる。
それを確認したカイトさんも無言で頷き、前を向く。
ルネララムの保管室までもう少し。
きっと、そこにノーヴァもフェルロスもいる。
『舞台』は、着実に終わりへと向かっていた。




