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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
22/34

大騒ぎな1日

 その日、聖帝国ルネラントは大騒ぎだった。

 なぜなら、今世間を騒がせている怪盗ノーヴァが、ついに世界に5つしかない女神からの贈り物……アルトレアスの一つ、紫石ルネララムを盗むと、予告したから。

 予告状の内容はこうだ。


《聖帝国の偉大なる父、ヴィオ・ルネラント様

 次の満月の夜、女神より賜りし魔導石の一つ、紫石ルネララムを頂戴します。

 そして、ルネラントの抱える巨大な闇に、夜明けを届けることもお約束します。

 それでは、相見えるその日まで。

                 怪盗ノーヴァ》


 盗みがずっと上手くいっていたから調子に乗って無謀な盗みを働こうとしているとか、ルネラントの闇とは何のことだとか、民も冒険者もその話題で尽きなかった。


 皇帝直属の精鋭である帝国騎士団も、ノーヴァを捕まえること、そして威信にかけて、帝国騎士団のみで迎え撃つことを発表した。

 この騎士団の対応にも賛否両論の声が寄せられ、ルネラントの街は連日、いい意味でも悪い意味でも賑わい続けていた。




 ……が、その賑やかさとは程遠い、この世の終わりかというほど空気が重い部屋があった。

 言うまでもなく、俺とノーヴァの部屋。


 ノーレンさんが、「割り切っちゃいるけど、やっぱりノーヴァ追えないの悔しいから仕事!!」と言って暴走。

 ブチギレたアンさんにギルドのスタッフルームに連行されていったため、急遽休みになったのをいいことに俺達は部屋で話し合いをしていた。

 クーシェもメンバーとして参加している。


 ノーヴァはベッドに腰掛け、腕組みをしてこちらを見ている。昨日よりは良さそうだが、まだ顔が赤い。

 俺はその目の前に仁王立ちし、ノーヴァを見下ろし、睨みつけている。

 クーシェはそんな俺達を交互に見ては、気まずい空間で居心地が悪いのか、視線をキョロキョロとさせながら俺のベッドのヘッドボードに腰掛けていた。


 昨日、クーシェから連絡を受け、驚いて操作を誤り水バケツを頭から被り、ノーレンさんに疲れているんだと早退させられてから。

 俺は急いで部屋に戻って、怪我も完治してないんだから考え直せと、ノーヴァに伝えた。

 しかしコイツは首を横に振り、あろうことかもう予告状を出したと言いやがったのだ。

 その結果が、一夜明けた今日の街の騒ぎにも繋がっている。


「いつの間に出したんだよ、予告状。」

「クーシェが来てくれた時に丁度ね。外を見てたら、おそらく伯爵のことでギルドに調査に来たであろう団長さんと騎士数人がいてさ。ここから紙飛行機飛ばして、皇帝陛下へのお使い(・・・)を頼んだってわけ。」

「相変わらずの紙飛行機。」

「ロマンだろ?」


 団長の頭に直撃したけどね、と笑うノーヴァ。

 それをロマンと言っていいのか……?

 普通に子供のいたずらみたいになってないか……?

 やっぱりコイツのロマンはわからないな。


「それよりも、お前自分が怪我人だってわかっているか?無理があることくらい、理解してるよな?」

「もちろん。しかも相手は帝国騎士団。怪我をしてなくても、まともに相手して勝てるわけがない。」

「じゃあどうして……」


 俺の問いに、ノーヴァはイタズラを思いついた子どものような顔で笑う。


「間髪開けずに予告されるとは向こうも考えないと思ってね。まだ伯爵の件でドタバタしているだろうし、ここを狙うのが逆にチャンスだと思うんだ。」

「ある意味奇襲を仕掛けたってこと?」

「その通りだよクーシェ!ドタバタに乗じて、隙を見せてくれる可能性に賭けるってわけ!騎士団の人達には悪いけど、お仕事頑張ってもらわなきゃね!」


 そんな満面の笑みで言うなよ……。

 少しだけ騎士団の人達に同情する。

 このお騒がせな怪盗に振り回されることになるであろう騎士団に、心の中で相棒として謝った。……まぁ、止めるつもりはないけどな。

 それはそれとして。


「クーシェ、悪いんだがノーレンさんがまだ怒られているか見てきてくれるか?」

「別にいいけど、どうして?」

「アンさんにまだ怒られていそうなら、まだ話し合えるだろ?」

「ならほどね。わかったわ!すぐ行ってくる!」


 クーシェはこくりと頷いた後、窓から飛んで出て行った。

 それを見送ってから、俺も自分のベッドに腰掛け、本題を切り出した。


「それで、本当の理由は?」

「……流石にわかっちゃった?」

「嘘ではないんだろうけど、本当の理由でもないだろ。」


 そう。クーシェに言った理由も嘘ではないと思う。しかし、わざわざ怪我の完治を待たずに城に盗みに入る理由は、まだ別にあると思ったのだ。

 ノーヴァは怪我した肩を見る。


「……多分、アカツキと戦ったアイツ(・・・)は、帝国騎士団の奴だ。」

「っ!」


 脳裏をよぎったのはマヴロ・フォティアの仮面の男。

 明らかに剣を極めた者のそれで、全く勝つことができなかった。

 確かに帝国騎士団ならば間違いなく剣のプロだし、強いのも納得いく。


「奴は僕が右肩を負傷していることを知っている。この短期間で行動を起こせば、相手も怪我を狙って動くんじゃないかなって思ったんだ。」

「つまり、お前が怪我をしていることを知っている素振りを見せたら、そいつがあの仮面の男かもってことか……。いや、そんなわかりやすいことする奴いるか?」

「さぁ?でも正直な話、もう誰が奴なのか見当はついてる。だからあとは、そいつが伯爵と共謀した証拠を見つければ……」

「ちょっと待て、見当ついてる!?」


 俺聞いてない!!

 つーか、相手の顔は隠れていたし声も変えていた、しかも自分は撃たれて満身創痍だったあの状況で、よく見当つけられたな!?


「あの時、君が奴と戦ってくれたからこそわかったんだよ。もしかしてと思って、保管室で彼らの剣術を受けた時に覚えた、一人一人の癖と照らし合わせてみたんだ。そしたら同じ癖の奴がいたってわけ。」

「普通にそれ記憶力凄いな!?」

「職業柄得意になったよね!!」


 満面の笑みで言い切りやがった。

 まあ確かに、観察眼やら記憶力やらは鍛えられそうだよな、怪盗って。

 ひとしきり笑ったノーヴァは、ふと真剣な顔になる。


「クーシェには、マヴロ・フォティアの件は隠しておこう。知ってしまったら……」

「……わかってる。これからまた平和に戻るんだ。巻き込むわけにはいかない。」


 盗みに手は貸してもらう。でもそれは誰にも共犯者だとバレないようにこっそりと、内緒で、そして必要最低限で。

 クーシェはこの国の住民であり、平和を愛する妖精なんだ。

 この協力が、俺達と別れた後マヴロ・フォティアに目をつけられる原因になってしまったら、平和とは程遠い、最悪な結末を迎えてしまうかもしれない。

 だからノーヴァも、敢えてマヴロ・フォティアに関係しない、それらしい理由を話したのだろう。クーシェに怪しまれないように。


 それにしても……帝国騎士団に潜んだマヴロ・フォティアか……。

 ノーヴァの言い方からして、妖精の森に魔物を誘き寄せるための魔法薬をランベルト伯爵に作らせた奴と、同じ人物なのだろう。


「ノーヴァ、お前が見当つけている奴って誰なんだ?それに、伯爵と共謀した理由も……」

「ただいま〜!こってりみっちりお叱りコース確定だった!」

「クーシェ!おかえり、ありがとう。」


 ノーヴァの見解を聞いておこうと思ったのだが、ちょうどいいタイミングでクーシェが帰ってきてしまった。

 あとで聞けばいいか。

 少なくとも、ノーヴァはもう個人の癖から犯人をほぼ特定している。

 今日の夜にでも聞いておいて、俺も盗む日当日はそいつに注意するようにしよう。

 

「こってりみっちりって、それ大丈夫なのか?」

「うーん……こっそり見てみたけど、アンさんがかなり怒ってたわ。『暫く受付の仕事手伝ってもらいます!!』って。」

「それは……なんか、うん……。」

「体を動かす依頼が好きなノーレンさんには退屈かもね……。罰としてはちょうどいいってことか……。」


 受付は基本事務仕事だし、外に出ることはないし……。そういうことなのだろう。

 まぁ、ヤケ酒ならぬヤケ仕事(?)をしようとしたノーレンさんの自業自得ってことで。


「大量の書類仕事の手伝いさせられてて、紙に埋もれてたわよ。」

「アンさん鬼?」

「エルフね。」


 そうだけどそうじゃねーよ。

 思っていたよりも鬼畜な罰で、俺もノーヴァも、目を合わせて頷きあうしかなかった。


――絶対、アンさん怒らせないようにしよ……。


「と、とりあえず、暫くはノーレンさんが帰ってこれないことが確定したわけだし、今のうちにできること始めちゃおうか!」

「お、おう!……って、何を?」

「君とクーシェの、リンクの練習。」


 パンッと手を叩いて気を取り直したノーヴァに言われ、首を傾げる。

 そんな俺を見て、ノーレンさんを呼びに行ってもらう前に座っていたベッドのヘッドボードに座り直したクーシェが、くすくすと笑った。


「脳内で会話するのは、アカツキにもセンスがあってすぐできたけど、他のことはわからないでしょ?」

「他?」

「たとえば、こんなこととか。」


 どういうことだと聞こうとしたが、クーシェを映していた俺の視界に、なぜか俺を第三者視点で見た光景が重なって見えた。

 目をゴシゴシと擦っても、ぼんやりとその光景が見えて、なんか気持ち悪い。


「今、私の視覚を共有してるの。貴方が映っているでしょう?私が貴方を見ているからよ。」

「重なって見えて、凄い、なんか、言葉で表しようのない気持ち悪さがあるんだけど!?」

「ふふ、ごめんなさい。ほら、解除したわ。」


 同時に視界が元の状態になり、一気にクリアになった。

 しかし重なっていた時の妙な感覚がまだある気がして、何度か目を閉じたり開いたりして、やっと目が落ち着いた。

 クーシェは俺が落ち着くのを待ってから、再び話し出す。


「他にも匂いとか触り心地とか、練習すれば共有できるものが増えていくの。」

「五感なら共有できるってことか。……マジでなんでもできるな、リンク。」


 そりゃあ使える人……というか種族が少ないわけだ。

 万能すぎて、繋げる感覚とか時間によっては、かなりの量の魔力を使うんじゃないだろうか?

 ノーヴァが前に、魔力が多くないと扱えない……的なこと言っていたけど、多分そういうことも理由の一つなんだろう。


「流石になんでもではないけど、リンクを極めると相手の体を操ることもできるらしいわ。森の妖精でもできない、至難の業だけどね。」

「そこまでいくと怖いな。」

「私達にとってのリンクは、あくまでも他の仲間との連絡手段って程度よ。もし本当にそこまで極めた人がいるなら、会ってみたいくらい!」


 つまり、日常的に使っているクーシェ達妖精ですら、完璧にリンクを使いこなしているわけではないってことか。

 もしかして、脳内で会話できただけでも凄いんじゃ……?


「とりあえず、盗みに入る当日までにアカツキには共有される感覚に慣れてほしいの。だからリンクの練習をしたほうがいいだろうって、昨日ノーヴァと話して。」

「確かにな。慣れてないと視覚を共有された時みたいに気持ち悪くなるかもしれないし……。」

「共有されることに慣れれば情報を伝えやすくなるし、ゆくゆくはアカツキからリンクを使えるようになったら凄いと思わない!?」


 流石に無理だろ。1週間で習得しろってか。

 そんなキラキラした目で見つめられても、応えられねぇよ。

 でも確かに、ちょっとカッコいいかも……。

 とはいえ、優先順位はある。


「とりあえず、リンクで共有される感覚に慣れる。それからだな。」

「いいな〜。僕も脳内会話とかやってみたいよ。僕は受け取ることはできても、送ることはできないからね。」


 それまで俺達の会話を黙って聞いていたノーヴァが、わざとらしくそう言った。

 そうか、魔力なしのノーヴァは共有された物や言葉を受け取ることはできても、自分から共有することはできないもんな……。


「流石にこればっかりは仕方ねぇよ。」

「そうだね。だから僕の分まで楽しく勉強しなよ?アカツキ。」

「……おう。」


 そう言って微笑まれてしまえば、やらないわけにはいかなかった。


 やれるだけやってみよう。

 そんで、自分から使えるようになったら上々じゃねえか。


「……うし!早速練習始めるか!クーシェ、頼んだぜ。」

「任せてよ!頑張りましょうね!」

「頑張れ頑張れ。応援してるよ2人とも。」


 3人で笑い合って、早速練習を開始した。

 こうして、ノーヴァに応援されながら、俺とクーシェは満月の夜その日まで、リンクの練習に励んだのだった。

次回、ルネララムを手に入れるために3人が動き出します!

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