一夜明けて
「エイル、大丈夫か?」
「はい……ご迷惑おかけします……。」
次の日、昨日の無理が祟ったのかノーヴァは高熱を出してしまい、俺は急いで相棒の髪色を変えてからノーレンさんを呼んだ。
ノーレンさんを連れて部屋に戻ると、エイルは昨日の怪我がバレないように布団に深く潜り、頭だけが見える状態になっていた。
熱が出ていても流石だなとしか言いようがないな……。
しかし、受け答えはできるようだが、いつものハキハキした声ではない。結構弱っているようだ。
「俺は治癒魔法はからっきしだし……仮に無理矢理魔法で治すにしても、魔力なしで、しかも弱っているお前には相当な負担になるだろうしなぁ……。今日はエイルは休んどけ。依頼の方は俺とアカツキに任せて、ゆっくり眠ってろ、な?」
「ありがとうございます……。」
「つーわけだ。アカツキ、今日は2人でやるぞ。」
「わかりました。エイル、お大事にな。」
「うん、ごめんよ……。頑張ってね……。」
随分と辛そうなエイルを部屋に残し、俺とノーレンさんはギルドに向かう。
まぁ、肩を貫通するような大怪我を負ったんだ。暫くはアイツは休養を取る必要があるだろう。
それまでは俺とノーレンさんの2人で、依頼をこなしていくしかないよな!
元々の目標も、冒険者のランクを表す星を桃星に上げることだったし、俺がいればなんとかなるだろ。
俺はポケットにしまったままだったバッジを取り出し、緑星の証を見る。
「あれ……?」
なんか前より、緑が薄くなっている気がする。
俺の様子を見て、ノーレンさんが笑った。
「依頼をこなせば勝手に上がっていくもんだからな。色が薄くなり始めてんなら、もうすぐ桃星になれるんじゃねぇか?」
「早くないですか!?まだ1週間くらいですよ!?」
思っていた以上に早くに目標に届きそうで、つい叫んでしまった。
いや、だって早い。
まだノーレンさんとパーティを組んでから、本当に1週間とちょっとだし、毎日街の人の手伝いをしているくらいなんですけど!?
「ほら、あれだ。お前らが妖精の嬢ちゃん助けた時あっただろ?あれもカウントされてるだろうし、魔物退治自体が結構評価高いんだ。」
「あぁ、あの時の。」
「あと、俺がヤケクソで入れまくった依頼が塵も積もればってやつで……。」
「あぁ、あの時の……。」
そう言われれば納得する。
ちょっとバツが悪そうに頭を掻くノーレンさんと、2人で苦笑してしまった。
怪盗ノーヴァ逮捕に参加できないとわかって、ノーレンさんは荒れに荒れて、結局依頼をほぼ独占したのだ。
それに付き合わされ、俺もエイルも右に左にあっちこっち走り回ったのは、まだ記憶に新しい。
「まぁなんだ、形はどうあれ、努力は実を結ぶってことだな。」
そう言って俺の頭をポンポンと叩き、ノーレンさんはまた、いつものように豪快に笑った。
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「やっっっっと来やがりましたねノーヴァストーカーのノーレン!!!」
「ちょっと待てなんだその不名誉なあだ名。」
「あ、ストーカーって共通認識なんだ。」
「アカツキ!?」
ギルドに入った瞬間、待ち構えていたアンさんがビシッとノーレンさんを指差した。
人に指差しちゃいけませんとか、通行の邪魔ではとか言うより前に、ノーヴァのストーカーと堂々とノーレンさんのことを呼んでいて、笑うのを堪えるのに必死になった。
もしかして、本人以外みんなストーカーだと思っているんじゃ……やめとこう、この話。
アンさんはそのまま、俺達を受付カウンターまで連れてきて、早速用件を切り出した。
「昨日、ノーヴァが盗みに入った話は聞いてますね?」
「あぁ、結局行けなかったからな。くそ……騎士団の奴らめ……。」
「愚痴はあとで聞きますから。それより今は、それで暴かれた、ランベルト伯爵の罪についてです。」
「やっぱり今回も、盗みに入られた側がなんかやらかしてたか。」
真剣な顔になったノーレンさんの言葉にアンさんは頷き、俺にとっては見覚えのある……昨日ノーヴァと盗み出した、成分表をカウンターに置いた。
俺がこっそり忍び込み、昨日ここに置いたものだった。
「いつの間にかギルドに置かれていました。魔法薬は彼の手元にあるのでしょう。それで、こちらの成分表ですが……」
アンさんはそこで言葉を区切り、これまた見覚えのある瓶を出した。
「1週間ほど前、妖精のクーシェさんが置いていった魔物寄せの魔法薬と成分が一致しました。黒です。」
「…………マジか。」
よし、これでランベルト伯爵を逮捕できる証拠ができたことを確認した。
妖精の森に魔物を誘き寄せ、妖精に危害を加えようとした。
おそらく、妖精という存在を特別視しているこの国では、最も許されないこと。
伯爵は必ず逮捕されるだろう。
「こうしちゃいられねぇな。早速伯爵の逮捕に……」
「ランベルト伯爵の逮捕は、やはり帝国騎士団が担当するようです。冒険者は手を出すなと。」
「だからなんでだよ!!また依頼根こそぎやるぞ!?」
「絶対にやめろください。次やったら出禁。」
「すんませんっした。」
1週間前と同じことを繰り返そうとしたノーレンさんに、ドスの聞いた声でアンさんが牽制する。いや、怖。どこから声出してんだ。
ノーレンさんもそんな流れるように謝るか普通!?
この人達の力関係というかがわかりやすすぎて、思わず乾いた笑いがこぼれてしまった。
「まぁいいか。この国じゃ妖精の森関連は重罪だろうから騎士団が担当するのが当たり前だし、俺達が捕まえようと最終的には騎士団に渡されただろうし、他の犯罪者はノーヴァ捕まえるついでだし……」
「やっぱりストーカーですね。」
「断じて違う。」
この2人の会話面白いな……?
それはそれとして、やっぱりノーレンさんストーカーですよ。その発言は。
心ではそう思ったが、口にはしないように頑張った。
「うしっ!そんじゃま、気合い入れ直して頑張るとするか!アン、依頼持ってきてくれ!」
「もう用意済みです。暑苦しいんでさっさと行きやがれです。」
依頼の書類を受け取り、ノーレンさんと共にカウンターを離れた。
一度、空いてる席に座って今日受けた依頼を確認したが、大して難しいものはなく、街の人の手伝い程度だった。
しかし早く終わらせて、今日はエイルの看病をしようということで、俺達は早速、最初の依頼に向かったのだった。
そうして俺とノーレンさんは、依頼人の元へと向かっていたのだが、その道中、どうしても気になって、俺はあることをノーレンさんに聞いてみた。
「ノーレンさん、前々から聞きたかったんですけど……」
「お?なんだ、どうした?」
「ノーレンさんはどうして、ノーヴァを追いかけ続けているんですか?国を超えてまで。」
そう、これは単純な疑問。
ノーヴァはどこの国で予告状を出しても必ずノーレンさんがいると言っていたし、アンさんもストーカーと言っていた。つまりそれは、ある意味周知の事実として、ノーレンさんがノーヴァをずっと追いかけているということだ。
しかし何故そこまでしてノーヴァを追い続けるのか、俺には理由がわからなかった。
ノーレンさんは顎に手を当て、少し考えた後に俺の方に視線を向けた。
「……昔、アイツに助けられたことがあるんだよ。」
「えっ?」
「たまたま、怪盗ノーヴァを捕まえてみようと思って依頼を受けた時に、ノーヴァに罪を暴かれたその時の依頼主が逆上して、奴の罪を知った俺を殺そうとしてきてな。奴が持っていた刃物をステッキで弾き飛ばして助けてくれたのが、ノーヴァだったんだよ。」
そんなことがあったのか。
おそらくノーヴァは、アイツの性格からして当たり前の事としてやったんだろうが、それでノーレンさんが助けられたのは確かだ。
「まさか敵に助けられるとは……って思ったが、その時初めて、あの怪盗がかなり若い青年だと気付いたんだ。驚いたよ、熟練の冒険者も捕まえられない指名手配犯が、俺の息子と同じくらいの年齢だったんだからな。」
そうか、アイツ、ノーレンさんと初めて会った時にはもう指名手配されていたのか。
……ってちょっと待て。息子?
「ノーレンさん、息子さんいたんですか!?」
「おう、自慢の息子がな!…………まぁ、もういないけどな。」
「えっ……」
「……そんなわけで、救われた恩もあるしそのお礼を言うついでに、もし可能なら盗みをやめさせたい。まだ若いんだから、他の道を示してやるのが大人の役目ってもんだろ。」
そう言って少し寂しそうな顔をしたノーレンさんを見て、この人の過去に何があったのか聞きたいと思った。
だけど多分、それは聞いちゃいけない話だ。
ノーレンさんの、触れちゃいけない柔らかい部分な気がして、俺は口を噤んだ。
「暫くルネラントではノーヴァを捕まえにいけないが、諦めはしないさ。いつか必ず、俺が捕まえる。」
「ノーレンさん……。」
「これで質問の答えにはなったか?」
「……はい!ありがとうございます。」
「こんくらいの話はお安い御用だ。よし、それじゃあ依頼、頑張るとしようぜ!」
そして今日もまた、依頼をこなす1日が始まった。
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エイルがいない中、ノーレンさんと2人で依頼を次々にこなしていき、午後に差し当たった頃のこと。
窓拭きの依頼を受けていたので、依頼者の家の窓を、魔法で水バケツを上に浮かせ、風魔法の応用で布で拭いて手伝っていると、とある声が頭の中で響いた。
『……ツキ……アカツキ、聞こえる?』
「えっ?」
その声は、昨日仲間になったばかりのクーシェのものだったが、周りを見渡してもどこにも彼女の姿はない。
隣のノーレンさんにも聞こえていないのか、彼は鼻歌を歌いながら窓を魔法で拭いている。
『今、リンクで話しかけてるわ。まだこちらから一方的に言葉を届けているだけだから、貴方も体に魔力を回してみてほしい。多分上手くいけば、こちらに貴方の声が聞こえるようになる。』
『回すって言ったってどうやって……』
『あら、成功してるわよ?貴方センスあるわね!』
『マジで??』
思ったより簡単に出来たんですけど。
リンクって、難しいんじゃなかったのか?
『会話だけならね。私が先に繋げたリンクだからってことも関係してるかも。貴方からリンクを使うのは無理じゃないかしら?』
確かに。
多分、俺から使おうとすればまた、あの時のように触れてはいけない部分を覗き見るような大惨事になる。
『それよりどうしたんだ?何か問題か?』
『ノーヴァのお見舞いに来たの。そのついでにリンクをうまく繋げて、連絡取り合えるか確認。』
『今ノーヴァと一緒か?』
『ええ。まぁ、ノーヴァじゃなくてエイルのようだけど。』
宿に来てたのか。
くすくすとリンク中でも楽しそうに笑っている声が頭の中で聞こえ、なんとなく微笑ましい気分になった。
それにしても、耳を通すわけでもなく頭の中で声が響くというのは不思議な感覚だ。
これを妖精達は連絡手段にしているのか。
『エイルの怪我にも治癒魔法掛け直しておいたわ!徐々にやっていけば、魔力なしの彼でも後遺症も心配しなくていいはずよ。』
『ありがとな、クーシェ。助かるよ。』
『いいのよ。私達は仲間になったんだからね!』
向こう側でにっこり笑っているような声。
まだ会って日は短いが、それでも信用できる、頼りになる存在だと思える。
それはこの、裏表のない少女の性格ゆえなのだろう。
『それで、ついでにエイルから伝言なんだけど……』
『伝言?どうした?』
『えっと、それがね……その……驚かないでね?』
『おう、わかったよ。』
リンクで話しているのは俺の脳内だし、仮に驚いたら、ノーレンさんに変な目で見られること間違いなしだ。
……ん?いや、初対面の時に壁に頭ぶつけて夢か確認していたし、今更か……?
……関係ないことは今はいいか。
とりあえず、伝言とやらを聞こう。
『それで伝言って?』
『……えっと、ね。…………次の満月の夜、つまり約1週間後……お城に忍び込んで、ルネララム盗むって……。』
そのあと、あまりにも急な話に驚いて手元が狂い、水の入ったバケツを頭から被って気絶したのだが、最後まで叫ばなかった俺を褒めてほしい、マジで。




