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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
16/34

推測と作戦

 想像していた以上に時間が経っていたらしく、俺とエイルが街に戻った時には、夕方になろうとしている頃だった。


「そういえば、僕達一度もこの国のギルド行ってなかったね。寄ってく?」


 エイルのその一言で、そういえばと思い、頷く。

 所属している、いわば会社の支部みたいなものだ。挨拶とかもしておいたほうがいいだろうし……何より、妖精の森でのことを話しておくべきだろう。



 ……という話をしたのが、ついさっきのこと。

 俺達は何故か、冒険者ギルドでノーレンさんに肩を組まれ、あの豪快な笑い声を間近で食らっている。

 なにこれ罰ゲーム?

 エイルの顔も死んでるんですけど??

 しかしそんなことお構いなく、ノーレンさんは満面の笑みで言った。


「凄いじゃないかお前達!!まさか初日から手柄を上げちまうとはなぁ!!」

「もしかして、もう話回ってる感じですか?」

「あぁ、妖精の嬢ちゃん経由で、パーティ代表の俺に話が来たぞ!

 先輩として、とても誇らしいぞお前達!!」


 妖精の嬢ちゃん……ってことは、クーシェは無事につけたのか。よかった。

 さりげなく肩を組んでいる状態から抜け出し、壁の方に移動する。

 流石にギルド入り口付近の通行の妨げになってる状態と、注目の的になっている状態が耐えられなかった。

 ついでに耳も耐えられなかった。

 ふと、エイルが思い出したようにノーレンさんを見上げた。


「そういえば、ノーレンさんがここにいるってことは、依頼終わったんですか?」

「ああ。今ちょうど、今日の依頼全部の報酬もらったところだぜ。あとでちゃんと分けてやるから楽しみにしてろよ!あ、妖精の森の調査分は、嬢ちゃんから明日以降に報酬もらえるらしいから、届き次第お前たち二人に渡すからな。」

「はい!!」

「わかりました。」


 この世界に来て初めての、自分の給料みたいなものだ。

 正直すごく嬉しいし、すごくワクワクしている。

 つい、少し大きな声で返事してしまった。

 ワクワクしていたが、同時に俺はとあることが気になり、ノーレンさんに聞いてみた。


「クーシェ……ここに来た妖精の子って、今どこに?」

「あの嬢ちゃんなら、お前達のことを報告したあと、持っていた瓶をアンに預けて、もう帰ったぞ?」


 アンというのは、ルネラントでの受付の人らしい。

 それはいいとして。そっか、クーシェは帰ったのか。


「少し残念だな。」

「そのうちまた会えるよ。少なくとも妖精の森に行けば会えるでしょ、きっと。」

「あ、エイル、その事だが……」


 俺を励ましてくれたエイルの言葉に、ノーレンさんは少し困ったように言葉を続けようとして、やめた。

 どうしたんだろう?何か言いづらいことなのだろうか?


 しかし、ノーレンさんはそれ以上続けることはなく、いつもの笑みを浮かべた。


「いや、また今度話そう。今はこれだ!」


 そう言って俺に手渡されたのは、茶色のウエストバッグだった。ベルト部分には、武器のホルダーもある。

 これは一体……?

 俺が、目を丸くしていたからだろう。

 エイルにも同じ物を渡した後、笑いながらノーレンさんは説明してくれた。


「ほら、あれだ。就職祝いみたいなもんだよ。」

「え?」

「今日から2人は本格的に冒険者として働き出しただろ?なら、祝ってやるのが先輩ってもんだ。」


 その言葉に、胸がポカポカと温かくなった。

 俺もエイルも突然のことに固まっていたが、ノーレンさんに促され、早速バッグを身につけてみる。


「思ったとおり、お前達に似合っているな。」

「ノーレンさん、これ……もしかして。」

「お、エイルは気付いたか。

 魔法道具だぞ、そのバッグ。流石に限界はあるが、バッグに入れば重さを感じない優れ物だ。」

「ですよね!?いいんですか!?これ結構高い魔法道具……!」


 …………はい!!??魔法道具!!??

 あのエイルでさえ狼狽え、身につけたばかりのバッグとノーレンさんとを、目を丸くして交互に見ている。

 もしや、とんでもなく高価な物をもらってしまった……?

 そういえば魔法道具って、超高額って言ってた気が……。


「俺受け取れないですよ!!??こんなに色々してもらうのは流石に……!!」

「俺の気持ちだと思って受け取っとけ!!返品不可だ!!おっと、稼いで金返すもなしだからな?」


 そう言われてしまえば、受け取らなければ逆に失礼だろう。


「ノーレンさん……。……わかりました。バッグ、大切に使わせてもらいます。本当にありがとうございます!」

「……僕からもお礼を言わせてください。本当に……本当にありがとう。」

「おう、期待してるぜ!!お前達が冒険者として励んで、そんで元気でいてくれれば、それが1番の恩返しだ!!」


 結局ノーレンさんに言いくるめられてしまった。

 貰ったバッグの高額さを知って、未だに狼狽えている俺達の頭を撫でるその手が大きく、どこまでも温かく……それが先輩というより父親のように感じて、少しくすぐったい気持ちになった。

 撫でる手が少し雑なのもこの人らしいなと、気がつけば俺とエイルは顔を見合わせて笑った。


 そしてその後、ここがギルドであることを思い出し、周りの微笑ましそうな視線に気付いたエイルが、顔を真っ赤にして逃走した。

 妖精の森の調査報告は、俺1人でやることになったのだった。



____________________



 そしてその夜。

 ノーレンさんから報酬を受け取り、あとは寝るだけだったが、俺達は寝ずにいた。

 それぞれのベッドに腰掛け、俺達は向かい合っている。

 今から始まるのは、「作戦会議」。


「とりあえず、初日お疲れ様。」

「お疲れ。初日から色々起こりすぎだよな。……そうだよ俺達初めての仕事だったのに、なんで妖精の森で戦って、魔物おびき寄せている犯人探しやってんだよ。いきなりハードすぎね?」

「流れに任せたら、こうなってたねぇ……。」


 赤い髪をおろしたノーヴァは、俺と同じく今日1日の出来事を振り返ったのだろう、眉尻を下げて苦笑した。


「つーか!!さっきのギルドでのアレ、逃げなくてもいいだろ。ノーレンさんも笑ってたぞ。」

「あはは、注目されすぎて恥ずかしくなっちゃった。ごめんごめん。」

「怪盗とかいう、注目される仕事している奴が何言ってんの?」

「『エイル』は『ノーヴァ』じゃないからね。」


 なんという屁理屈。同一人物だろうが。

 いちいちツッコミを入れるのも面倒くさいし、触れなくていいか……。


 ふと、部屋に入ってから取り外したウエストバッグを見つめ、ノーヴァが小さくため息を吐く。


「……ノーレンには、いつか恩を返さないとね。」

「そうだな……。

 あ、恩返しでお前がノーヴァだって教えるとか。」

「捕まれって言ってる??

 この世界に僕の安寧の場所がなくなるけど??」


 本気で嫌そうな顔をして身震いをしていて、笑ってしまった。どんだけ嫌なんだ、コイツ。

 まあ、流石に冗談だけども。


「それはそうと、この後の流れ、確認しようぜ。」


 俺の言葉に頷き、ノーヴァは口を開く。


「この国での最終目標は『紫石ルネララム』を手に入れること。でも、その前にやらないといけないのは……」



※※※



 それはまだ、妖精の森にいた時のこと。


「どうやら、()の出番のようだ。」


 そう言って微笑んだエイルは、妖精達の方へ体を向けた。


「案内ありがとう。おかげで謎が解けそうだよ。」

「褒められたー!!」

「お安い御用だよー!!」


 妖精達はエイルの周りを飛び回り、キャッキャっと笑う。

 そして、これで案内はおしまいだと言い出した。


「もう行くのか?」

「クーシェのおつかい、これでおしまい。」

「つまり僕達、お仕事終わり!」

「お昼寝する時間だから帰る!」

「そっか……。ありがとな、2人とも。」


 俺が礼を言うと、こくりと頷いた妖精達は高く飛び上がった。


「またね!アカツキ、エイル!」

「おう、またな!」


 どこまでも自由で元気な妖精に手を振って、彼らを見送る。

 あまりの速さで飛んでいくものだから、妖精ってあんなに速いのかと面食らった。


 さて、と気を取り直す。

 エイルの様子を見ると、どこか機嫌良さそうに、あの隠し扉を見ていた。とりあえず何かわかったのか聞いてみるか。


「それで、何がわかったんだ?……ノーヴァ。」


 俺がノーヴァと呼ぶと、奴はイタズラっぽく笑って、見つけた魔法薬を、チャプリと揺らした。かなり入ってる。

 ……気付いたんだが、お前、いつ手袋したん?

 また顔に出ていたのか、苦笑したノーヴァが手をヒラヒラさせながら答える。


「せっかくの証拠に、自分の痕跡残すバカがいるかい?」

「確かに。」

「それでだけど。」


 急に真面目な顔になった奴は、俺にしか聞こえないよう、至近距離で囁いた。


「妖精の森に魔法薬を塗って、魔物を引き寄せている奴、貴族(・・)だ。」

「……根拠は?」

「それなりにお金がかかるのに、ここにある魔法薬の瓶は全部特注。そんなことができるお金を持ってるのは貴族かそれ以上の位の人くらいだ。それに妖精の森を抜けた先に、ランベルト伯爵の屋敷がある。」

「ランベルト伯爵?」

「この辺りを治めている貴族だよ。伯爵は昔から、より広い領地を治める事が目的だと豪語していて、妖精の森に目をつけているのは一般市民もよく知る話だ。それに、彼は開発した魔法薬を領地で売買している。」

「つまり、ランベルト伯爵が魔法薬で魔物を妖精の森に呼び寄せて、妖精を森から追いやって、森そのものを自分の領地にしようとしているってことか?」

「あくまで推測だ。真には受けないで。」


 だけど、確かに話を聞くと可能性はある。

 そうすると、一つ疑問が残る。


「なんでわざわざ、土掘って隠し扉つけてまで森に証拠隠したんだ?自分の屋敷に持って帰ればいいのに。」

「魔法薬を持って森と屋敷とを行き来していれば、そのうち目撃者が出るかもしれない。それを防ぐためだろう。」


 魔法薬が入っていた収納スペースの暗闇を見つめ、ノーヴァは呟く。


「森の中に隠しておけば、運ぶ手間も省けるし、仮に扉が見つかっても、暗闇を怖がる習性の妖精は、魔法薬を見つけられない。わざわざ落ち葉を掻き分けて扉を見つける通行人も、いるはずないしね。」

「見られるにしても森に入るところだけだし、近道だからって言えば、誤魔化せるのか……。」

「そういうこと。」


 許せない。そこまでして領地を広げたいのだろうか。

 クーシェは魔物の対処に困っていた。囲まれて、襲われそうになって、もし俺達が間に合わなければ、彼女は死んでいたかもしれない。

 命を奪ってまで領地を広げる意味が……


――領地を広げる以外の、目的があるとしたら?


 一つの可能性に辿り着き、ハッとした。

 ノーヴァを見れば、やっとわかったかと肩をすくめ、また微笑んでいた。


「本命前の肩慣らし。僕達バディの、初仕事。」


 ノーヴァは唇に人差し指を当て、囁くように言った。


「虚飾の光に隠された(秘密)を、見つけてやろうじゃないか。」



※※※



「ランベルト伯爵が魔法薬で何を企んでいるか、領地を広げてどうするつもりか、その秘密を暴く。」

「実行は?」

「1週間後。予告状はこの後投げ入れてくる。」

「ロマンの欠片もない予告状の出し方だな。」

「紙飛行機だぞ。ロマンの塊だろ。」

「お前のロマン、紙飛行機なの?」


 ノーヴァは、作戦会議前に書き終わっていたらしい予告状を紙飛行機に折りながら、なぜか自信満々でそう言ってきた。

 そういえば、ヴィスローニュ伯爵の時も紙飛行機飛ばしてたし、なんかこだわりでもあるのだろうか。


 そんなことを考えていると、ノーヴァは折り終わった紙飛行機をテーブルに置き、真面目な顔でこちらを見た。


「アカツキ。僕は慣れているけど、君は初めての盗みだ。もし本当に嫌ならば、今なら断ってくれて構わない。僕のことを秘密にしていてくれるだけでいい。盗みに行くのは僕だけでも……」

「今更だろ。お前に出会ったあの1ヶ月前の夜、バディになるって決めた時から、俺は覚悟決めてる。」


 俺が間髪入れず答えれば、ノーヴァは笑った。


「……君とバディを組めて、よかった。

 やっぱり君は、最高の相棒だ。」


 本当に今更だな。もしここで俺が行かないなんて言ったら、俺の1ヶ月の修行の意味よ。

 何やら小っ恥ずかしい言葉を呟いたバディの足を、自身の足で小突き、早く本題に入れと視線で促す。

 苦笑したノーヴァは口を開いた。


「じゃあ、改めて作戦についてだけど。至って単純。僕が囮になっている間に、君は伯爵が魔法薬を森に塗った証拠、例えば魔法薬の成分表なんかを探してほしい。」

「そんな都合のいいもの、あるのか?」

「確実にある。だから、頼むよ。」

「……了解。」


 俺の返事に、ノーヴァは安心したように微笑んだ。


「この作戦の要は君だ。成功すれば、伯爵の罪を暴くことができる。……頼んだよ、バディ?」

「期待し過ぎんなよ。俺、初めてだし。」

「もちろん。無理せずできる範囲で、が第一だ。まあ安心しなよ。伯爵はご自慢の魔法薬を守るために、僕の方に追手を送るさ。それにバディの存在は、誰も知らないんだから。落ち着いて探しな。」


 俺が要、か。上手くできるだろうか。

 いや、やるんだ。

 バディとしての初仕事。成功させてやろうじゃねえか。


「……よし。それじゃあ僕は、このまま伯爵の屋敷に予告状投げ入れてくるね!」

「あ、このまま行く感じなんだ!?」

「今日のうちに出しておかなきゃ、向こうも心の準備できないでしょ?先寝てていいよ、おやすみ!」


 言いたいことは全部言ったとばかりに、ノーヴァは窓を開け、そこから身を乗り出し姿を消してしまった。

 せっかくなら俺も連れて行ってくれればいいのに。

 っていうか、ここ2階なんだけど。

 まあ仕方ない。明日も任務はあるんだし、お言葉に甘えて先に寝ていよう。

 今日みたいに遅いんじゃ、ノーレンさんに悪い……


 ふと、気がついてしまった。


「……ノーヴァ絶対確保マンのノーレンさん、どうしよう。」


 気がついてしまった難敵の存在に、答えてくれる相棒の姿はもうなく。

 俺は1人、ベッドで悩む羽目になったのだった。

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