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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
14/34

妖精の少女、クーシェ

「声のした方、こっちだったよな!?」

「多分ね!……っ、あそこ!」


 エイルの指差した先を見る。

 そこには見たこともないドロドロとした生き物……ゲームで言うスライムと、ゴブリンみたいな奴に囲まれている、妖精の少女がいた。何か荷物を持っているようで、高く飛べずに逃げられなくなったみたいだ。

 しかもあの少女、昨日俺がぶつかった妖精の子では?


「アカツキ、初の実践だ。……いける?」

「頑張る。」

「よし。じゃあ、スライムお願い。僕はゴブリンをやる。」


 やっぱりあれ、スライムとゴブリンなんだ。

 数で言えば、スライムもゴブリンも5匹ずつだな。

 さっさと倒して、俺もゴブリン倒す方に加勢できるようにしよう。

 ゲームと同じなら、スライムは雑魚キャラだろうし。


「それじゃあいくよ!!」


 エイルが目の前にいたゴブリンの胴体を刺したのが合図となり、俺達の初戦闘が始まった。


 突然の奇襲にゴブリン達は、襲いかかってきたエイルに雄叫びを上げて一斉攻撃を仕掛ける。

 それを難なく躱しながら的確に攻撃を加えて、傷を負わせていくエイル。

 ゴブリン達の傷からは、俺達と同じ赤い血が流れていて、俺は一瞬動揺してしまった。


 そりゃ、当たり前だよな。

 RPGとかのゲームの画面で、何度も倒してきたスライムやゴブリン、魔王に至るまで、全て生き物なんだよな。

 そしてこの世界はゲームではない。


 俺は自分の剣を、強く握り直した。

 この世界で冒険者として生きることを決めたのは俺だ。

 ならば、やるしかない!

 俺は飛びかかってきたスライムに向かって、剣を横に振る。

 だが、まるで水を斬るような感覚で、手応えを感じなかった。


「あ!!アカツキバカ!!」

「突然の罵倒!?」

「スライムを剣で斬ったら……!!」


 ゴブリンと応戦しながらエイルがそう叫び、俺は自分が何かやらかしたことを察した。

 嫌な予感に後ろを振り向くと……


「ふ、増えてる!?」


 斬ったスライムの個体が、二体に増えていたのだ。

 何これ。もしかしてスライム、雑魚ではないのでは?


「スライムは魔法じゃないと倒せないんだよ!物理攻撃じゃ増えるだけ!!」

「それ先に言えよ!!」


 教えてくれるのがワンテンポ遅いんだよ!!

 つまり、斬り続けるだけじゃ増える一方ってことじゃねーか!

 一気にズバズバいかなくてよかったと、心の底から思う。


 …とはいえ、魔法で倒すって言ったってどうやればいいんだ。

 攻撃魔法とかは、全然練習できていない。

 今まで魔素の存在しない死の森にいたし、エイルは魔法を使えないから、魔法の練習は二の次に回していたが……少しは自力で勉強しておけばよかった。

 こういう時に使うんだな、魔法。


 ……って、そうじゃねえ!!

 今はこの状況をどう脱するかだ。

 最近使い慣れてきた髪染めの魔法は攻撃魔法じゃない。

 すぐに思いついた炎魔法……は森の中だから危険な気がするが、それしか思いつかない。威力抑えて、もし燃えてしまったら速攻水をかけよう。

 使ったことはないけど、ノリで何とかなってくれ!!


 手を前にかざし、魔力を込め始めた時だった。


「そのまま魔法を撃つより、剣に込めたらどうかしら?」

「えっ。」


 俺の肩にいつの間にか、ちょん、と座りながら、あの妖精の少女が言った。

 荷物はどうしたんだろうと見てみれば、一本の木の根元にまとめて置かれている。

 わざわざ戦っている俺の肩に乗りに来るなんて、危険すぎないか?

 絶えず襲いかかってくるスライムを避けながら、少女の話に耳を傾ける。


「そのまま撃ったら、あなたが消費する魔力量が多いでしょ?」

「剣に込めれば、少しは抑えられるってことか?」

「そういうこと!魔力も抑えられるし、森が燃える危険性も抑えられるんじゃない?」


 大きく頷く少女はにっこりと笑った。夕陽のようなオレンジの瞳がキラキラと輝いていて、まるで俺が魔法を使う瞬間を楽しみにしているような……。

 いや、今は考えるよりも動くほうが先だ。

 俺は魔力を左手に集中させる。無事に魔法で炎を生み出し、その炎で剣の刃を熱する。


「そのまま循環させるイメージ!そしたらきっと……」

「うおっ!?」

「わぁ、成功ね!」


 言われた通りにイメージすれば、店で普通に買った、ただの剣が炎に包まれ、文字通り『火炎剣』になった。

 喜びの声を上げる少女をよそに、突然の変化に呆然とする。

 そんな絶好のチャンスを、スライムが見逃すわけもなく。


「アカツキ、来てる!!」

「っ!」


 エイルの声にハッとし、咄嗟に剣を振ってしまった。

 やばい、剣で斬ったら!


 また分裂したのではないかと、スライムの方を見る。

 しかしそこには、トロトロとただの液体のようになって溶けていく、スライムだったものの姿があった。


「え、なんか溶けた……?これ、倒せたってことでいいのか……?」

「そういうこと。スライムは元々、多過ぎる魔素から自然発生した生き物だからね。君が魔法で倒したから、スライムは森に還ったんだよ。」

「……解説始まったけど、エイル。お前ゴブリンの方は?」

「とっくに終わってるけど。」


 そちらを見れば確かに。ゴブリンは皆うつ伏せに倒れていた。

 生きてはいるが、戦意は失っているゴブリン達と対照的に、全く息を乱さず、怪我の一つもない俺のバディなんなの?

 もしかして人間やめてる?

 修行の時から思ってたけど、コイツやっぱり普通じゃねぇよ。

 俺がそんなことを考えていると、エイルはポツリと呟いた。


「君、炎も使えるようになったんだ。」

「まぁ、ノリで使ってみたら意外とな。」

「……そっか。さすがだね、アカツキ。」


 エイルは笑顔を浮かべていたが、どこかぎこちなく感じた。

 怪我でもしたのだろうか?


「ノーヴァ、大丈夫か?怪我とか……」

「大丈夫だよ。ただちょっと……君の成長の速さに驚いてただけ。」

「そ、そうかよ……。」

「魔法じゃないとスライムは倒せないからね。僕は魔力なしだから、魔法が使える君がいるのはとても心強いよ。」


 そういえば、魔法で倒さないとダメとか言っていたな。

 だから俺にスライムを任せて、自分はゴブリンに斬りかかったのか。

 率直に成長を褒められて、少しむず痒い気持ちになったが、エイルは俺のそんな様子には気付かず、ゴブリン達を見て言った。


「ところでアカツキ、包帯とか持ってきてる?」

「え?あぁ、ちょっとなら。」

「もらって平気?」

「別にいいけど……。ほらよ。」


 持ってきていたバッグの中から包帯を取り出し、それをエイルに投げ渡す。

 それをキャッチしたエイルは、それを倒れているゴブリンのうち、1番近くにいた奴のそばに置いた。

 それに気付いたゴブリンは、警戒しつつも包帯を手に取り、まじまじと観察する。

 エイルは自身のバッグから薬草を取り出し、それもゴブリンに手渡す。


「君達なら、使い方はわかるよね?」

『…………。』

「この薬草はよく効くやつだから、しばらく安静にしていれば、元通りの生活ができると思う。刺し傷も塞がるはず。」

『…………。』

「いきなり襲ってごめんね。最初に攻撃した自分を正当化するつもりはないけど、君達ももう、誰かを襲うのはやめてほしい。お互いに傷つくだけだから。……いい?」

『……ギィ。』


 言葉が通じているのかわからないが、しばらく目を見つめ合った後、ゴブリンは小さく鳴き声――鳴き声でいいんだよな?――を発し、立ち上がった。

 他のゴブリン達も立ち上がり、森の奥へと去っていく。

 その様子を、彼らが見えなくなるまで見続けていたエイルに、俺は声をかける。


「一件落着、か?」

「とりあえずね。多分、暫くあのゴブリン達が悪さすることはないと思う。」

「意外と、話通じるんだな。ゴブリンにも。」


 ゲームとかのイメージで、こちらの言葉は全く通じないものだと思っていた。

 実際、スライムは通じなかったし。


「この世に存在する生物、その全てに知能はあるさ。たとえ魔物だろうと、それは変わらない。」

「スライムは?」

「ある。でも、意思疎通は厳しい。そもそもが溢れた魔素の塊だからね。」

「……魔素の塊だから、倒して元に戻すってわけか。」

「あの!!」


 そういえば、さっきもそんな感じのこと言っていたなと考えていると、突然、少女が声を張り上げた。

 少女は少し俯きながらも、はっきりと聞こえる声で言う。


「助けてくれてありがとう。多分、貴方達がいなかったら、私……」

「間に合ったならよかった。怪我はないか?」

「怪我はないわ。……ねぇ、貴方もしかして、昨日私とぶつかった人?」

「あ、やっぱり君だったんだな!!昨日は悪かった。」


 やはり昨日の妖精だったようだ。

 少女は、こんな偶然あるのね、とくすくすと笑っている。


「気にしないで。私も急いでて、周りを見てなかったもの。……あ、そうだ!私は妖精のクーシェ。貴方達は?」

「俺はアカツキだ。で、こっちが……」

「エイルだよ。よろしく、クーシェ。」

「ええ、よろしくね!」


 にっこりと微笑み、クーシェは俺達の周りを飛ぶ。

 妖精って、こんなに早く飛び回れるんだ。

 クーシェは飛び回りながら、少し興奮気味に話す。


「貴方達の事、ギルドに伝えておくわね。こういうのって、報告すれば貴方達の実績になるんでしょ?」

「多分……?その辺りはまだよくわからないけど。」

「そういえば、クーシェはなんで襲われてたの?」

「あ〜……えっと、それは……」


 エイルの問いに、クーシェは困ったように視線を逸らした。その視線の先には、彼女が持っていた荷物。

 俺はクーシェに了承を得てから、その中身を見る。

 そこには、何やら大きな瓶が入っていて、小さな妖精が持つには、重すぎた。

 俺と一緒にそれを見たエイルは、思い当たる節があったのか、クーシェの方へ振り向く。


「これ……魔法薬?」

「ここ最近、この森の木に、魔物寄せの魔法薬が塗られる事があってね。これだけ溜まれば、成分の分析もできるでしょ?だから、ギルドに届けに行くところだったの。」


 つまり、今日が初めてではなかったということか。

 クーシェは、塗られた魔法薬はできる限り拭き取り、持っていた大きな瓶に詰めていたのだという。

 で、逆に詰めすぎて、漏れ出た匂いで魔物が寄ってきてしまったと。


「今まではどうやって追い払ってたんだ?」

「私達妖精にも魔法は使えるから、それでなんとか。でもまさか、ゴブリンまで来るようになるなんて……。」

「それで遂に、対処できなくなったってことか。」

「私達には、スライムで精一杯よ。」


 悔しそうに手を握りしめて、クーシェは項垂れてしまった。

 エイルは難しい顔をして、魔法薬をまじまじと眺めている。

 俺はその間に、少し気になっていたことをクーシェに聞くことにした。


「なぁクーシェ、昨日会った時急いでいたのって、もしかして……」

「そう。仲間からまたスライムがいるって、リンク(・・・)されたから、急いで向かってたの。」

「リンク?」

「あら、アカツキは知らないの?まあでも、人間でできる人はもう少ないって聞くし、仕方ないかもね。」


 『リンク』とはなんだろう?


「クーシェ、この後ギルドに行くって言ってたよね?」

「ええ、そのつもりよ。2人に助けられたことも伝えなくちゃ。」

「僕達はここに残って、魔法薬が塗られていた辺りを調べても大丈夫?」

「いいけど……もう証拠なんてないと思うわよ?」

「それでも一応、ね。……無理かな?」


 確かに、今更調べても、犯罪の証拠を残しておく犯罪者はいないだろう。何回も同じ犯行をしている奴なら、尚更だ。

 エイルは一体、何を調べようというのか。

 クーシェは少し悩んでから、微笑んで頷いた。


「他の仲間にはリンクで伝えておく。そっちの方が調べやすいでしょ?」

「っ!ありがとう。」

「それじゃあ……よろしくお願いします。」


 敢えてなのだろう。クーシェは『依頼者』として、俺達にそう言った。

 エイルから魔法薬の瓶を受け取り、彼女はそのまま森の出口へと向かっていったが、一度振り向き、森の奥を指差す。


「魔法薬が塗られた木は、あっちにまっすぐ進めばすぐわかると思う!色が変わってる木だよ!」

「ありがとな!気をつけて行けよー!!」

「そっちもねー!!」


 お互いに手を振り合い、俺達とクーシェは別れた。

 小さな妖精の姿が見えなくなってから、エイルは彼女が指差していた方向へ、体を向ける。


「よし、それじゃあ……行こうか。」

「おう。……とはいえ、今更証拠、見つかるのか?」

「確証は得られないかもね。でも、推測はできる。」


 それだけ言って、エイルはまっすぐに歩き出してしまった。

 まだ聞きたいことは山ほどあるが、今はコイツを信じて進むしかないよな……。

 それに、クーシェにも頼まれたんだ。やるだけやってみよう。

 俺もエイルの後を追い、妖精の森のさらに奥へと向かった。

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