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暁の怪盗 〜俺、怪盗のバディになる〜  作者: 櫻海月
聖帝国ルネラント編
13/34

冒険者ライフスタート!

 あくる朝、体を揺さぶられて目を覚ます。

 少し周りを見回せば赤い髪が視界に入り、俺を起こしたのがノーヴァだとすぐにわかった。


「おはようアカツキ!早速だけどいつものお願いね!」

「お前、本当にブレないよな……。おはよう……。」


 なぜ朝からこうもハイテンションなんだコイツは…。

 偏見ではないけど、よく見るアニメとかの怪盗って夜が活動時間だよな?お前怪盗なのに朝型なの?

 まだ覚醒しきらない頭で、意味のないことを延々と考えながらも、もう流石に慣れ始めた髪染め魔法を使う。

 ノーヴァからエイルに変わり、一言お礼を言われる。


「魔法のコントロール、本当に上手になったよね。やっぱり素質あるんだよ、アカツキ。」

「褒めても何もないからな?」

「その割には嬉しそうだよね。」


 褒められて嫌になることはあまりないからな、俺。

 リボンで髪を纏め始めたエイルを横目に、俺も準備を始める。

 ここにくる前に何着か、シヴィム王国で買い揃えておいたから、服に困ることはない。

 しかも冒険者として戦えるよう、動きやすいものばかりだ。

 ……いやマジで早く自分で稼げるようになろう。エイルに申し訳なさすぎる。全部エイルの貯めてたお金に頼ってるのは流石にまずい。


 そんなこんなで服を着替えて、鏡でおかしなところがないか確認していると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「おーい、お二人さん起きてるかー?朝だぞー!」


 快活なその声は、どう考えてもノーレンさんのもの。

 エイルに負けず劣らずの大声だな。俺、そのうち鼓膜破れるんじゃないか?

 なんて考えながらドアを開けると、すっかり準備の済んでいるノーレンさんが目の前にいた。


「おはようアカツキ!準備は済んでいるか?」

「おはようございますノーレンさん!あともう少しなんですけど、待っていてもらえますか?」

「おう!だったら下のロビーで待ってるぜ。」

「わかりました!」


 長く待たせるわけにはいかないし、俺達も急ごう。そう言おうとして振り向き、とっくに準備を終えて微笑んでいるエイルと目が合い、固まる。


「……と、いうことで。僕も下で待ってるね!」

「置いていく感じなんだな!?」

「忘れ物はないようにね!お先に!」


 さっさと下に向かってしまったエイルに呆れながら、俺も急いで準備を進める。

 この宿は暫く借りるから、邪魔なものは部屋に置いて行っていいと言ってたんだよな。

 とりあえず、最低限の荷物があればなんとかなるか……?

 そんな軽い気持ちで、剣と救護セット、(エイルに少しもらった)お金に、長剣とは違う、護身用の短剣を準備した。


「さて、行くか!」


 そうして部屋に鍵をして、俺は2人が待つ、下のロビーに向かった。


____________________


「お、準備できた?」

「とりあえずな。ノーレンさんお待たせしました。」

「気にすんな気にすんな!」


 ロビーに置かれている椅子に座り、何やら資料を見ていたらしい2人を見つけ近付く。

 先に気付いたエイルがこちらに手を振り、空いている椅子に座るよう促された。

 その椅子に座り、2人が見ていた資料を覗き見れば、どうやら依頼書のようなものだった。

 宿の近くにルネラントのギルドがあるから、そこでノーレンさんが受け取ってきたらしい。


「よし、それじゃ揃ったことだし、もう一度詳しく説明するぞ。」

「はい、お願いします。」


 ノーレンさんが資料を一つにまとめ、一番上のものから説明してくれた。


「これが今日受けている依頼な。」

「えっと……『猫を探してほしい』、『薬草を届けてほしい』?…………これが依頼……ですか?」

「モンスター討伐とかお尋ね者捜索もあるけど、毎日そういう依頼が来るわけじゃないよ。毎日来てたら治安悪すぎるしね。」

「普段の仕事としては、ご近所の手伝いが中心だな!

 見た感じ、モンスター討伐の気で来たんだろうが……悪いな。今日はそういう依頼は受けてない。」


 マジか。張り切って剣を持ってきたのが恥ずかしすぎる。

 というかエイル、お前もそのあたりもう少し説明しろよ。ギルドはモンスター討伐とか警備をやっているって言ったのお前だよな?

 あれ?でも、2人も武器持ってきている。


「護身用として剣は持ち歩くからね。丸腰だと、もしもの時対応できないから。」

「あー……なるほど。」


 エイルに言われ納得した。

 確かに持ち歩いていたほうがいいな。俺とエイルは特に。

 いつどこからアイツら(・・・・)が襲ってくるかわからないし。


「そんなわけでだ。」


 ノーレンさんがパシンと手を叩き、立ち上がった。


「簡単な依頼ばかりとはいえ、早く終わらせれば早く休めるからな。早速、最初の依頼に行くとするか!」

「はい!!」

「了解です。」


 俺とエイルにとって、初めてのギルドでの任務が、始まろうとしていた。


____________________


「……で、最初の仕事から順に、手紙配達、迷子の猫探し、屋根掃除とやっているわけだけど……多くね?」

「根を上げるの早くない?まだ3つだよ?」

「一つ一つの内容が濃いんだよ……。」


 依頼の一つ、屋根の掃除を二人がかりでやり、疲れた俺は屋根に寝転がる。ほとんど掃除し終わってるから汚れる心配はない。

 そして俺は、想像していたものとは違い、ボランティアのような依頼ばかりなことに肩を落とし、任務を始める前からやる気がすでに半減していた。

 それどころか、任務一つ一つは簡単そうなのに、内容が割と過酷で、手紙配達は住所がわからないし、猫には引っかかれるし、屋根は隅々まで綺麗にしろと頼まれたため、手抜きができない。その結果、早々に愚痴をこぼしてしまったのだ。


「こういう仕事は慣れてないんだよ。モチベーションの問題もあるし……。ってかノーレンさんは?」

「向かいの家のポスト作り。」

「ポスト作り!?」


 エイルが親指で指し示した方向を屋根から覗き見れば、確かに。

 金槌片手に木材に釘を打つノーレンさんを見つけた。

 様になりすぎだろ。

 俺のいた世界の大工みたいに、タオルはちまきをしているその姿は、完全にその道の人なんですけど。


「ちなみにあの人、僕らが屋根掃除している間に、他にも任務こなしてるっぽい。多分ほとんどあの人が捌いてるよ。」

「お前も屋根掃除してたはずなのに、なんでそんなに詳しいんだよ?」

「それは適度にサボ…………休憩して目を休めている時にたまたま目に……」

「サボってたんだな。」


 誤魔化しきれてないし、誤魔化す気もないだろ。


「アカツキー!エイルー!」


 目を逸らしたエイルを呆れ顔で見ていると、下からノーレンさんに呼ばれた。

 こちらに手を振るノーレンさんは、その手に何やらバスケットを持っているようだった。


____________________


 屋根の掃除を頼まれたあの住宅街のすぐ近くに、妖精の森の入り口がある。

 その名の通り、多くの妖精が暮らしている森であり、豊富な魔素が存在するらしい。そして、妖精達は魔素に異常がないよう、常に見守っているんだとか。


 立ち入ること自体は禁止されておらず、種族関係なく自由に出入りすることが許されている。

 なんなら、森向こうに住んでいる人が、街に来る時の近道として使っているらしい。

 だからこうして、ノーレンさんについて行った先にあった妖精の森で、ランチタイムを迎えているわけだ。

 太陽の光が差し込むちょっと開けた場所があり、そこは誰かが手入れしているのか、雑草が刈り取られていた。

 3人でバスケットを囲み、被せられていた布をどかす。


「うわっ、めっちゃ美味そう。」

「そういえばこれ、どうしたんです?」

「ポスト作りを手伝った家の奥さんに是非って言われてな。ちょうど昼時だったし、依頼料代わりにもらったんだ。」


 何その男前行動。俺もいつかやってみたいそれ。

 そんな話をしながら、バスケットの中にたくさん入っていたサンドウィッチを食べる。野菜たっぷりでハムも挟まっていてめっちゃ美味い。

 他の具材が入っているやつもあるみたいだから、次は何を食べようかなとバスケットの中に視線をやっていたが、ふと気になった。


「でもこれって、ノーレンさんへのお礼ですよね?俺たちまで食べてよかったんですか?」

「俺一人じゃ食べきれないから、むしろ助かるぜ!遠慮せずたーんと食え。な?」

「じゃあ……もう一個いただきます!」

「あ!アカツキそれ僕が狙ってたやつ!」

「早い者勝ちだ!」


 お言葉に甘えて次の一個を食べ、エイルと何故か競いながらも美味しく楽しく、昼の時間を過ごす。

 なんか、森だし晴れだし、雰囲気がすごくピクニック。

 普通に楽しんでいる俺がいた。


 食べ終わった後も、他愛のない会話をしながら暫く休んでいたが、エイルが思い出したように言った。


「そういえばノーレンさん、午後の依頼って?」

「俺はバスケット返してから、薬草を届けてくる。それで今日の依頼は終わりだし、お前らは少し早いけど、今日は休んでくれ。」

「もし良ければ手伝いますよ?」

「いや、帰りに寄りたいところもあるから大丈夫だ。ありがとな。」


 ノーレンさんはそう言って笑い、最後のサンドウィッチを口の中に全て放り込んで、そのままバスケットを持って立ち上がった。


「……うし!そんじゃ食べ終わったし、俺は行くわ。ちょっと遅くなるかもしれねぇから、宿で休むもよし、酒場で飲むもよし。好きに過ごせよ〜。」

「気をつけて行ってきてくださいね。」

「お前らも気をつけて帰れよ!」


 手を振りながら去っていくノーレンさんを見送り、俺達は何かゴミを落としてないか確認してから立ち上がる。


「……今更な気もするけど、やっぱり僕の正体バレる気がしないし、心配しすぎだったかもね。」

「だな。」

「っていうか、むしろ疑われなさすぎて不安。あのノーレンが僕を疑わないなんて事あるのか……!?むしろ泳がされていて、信頼しきった時に捕まえるつもりなのでは……!?」

「本当にお前、あの人と何があった?」


 何をどうしたら、そこまでの反応になるんだよ。俺がこっちの世界に来るまでに、どんな逃走劇繰り広げてたんだ。

 ……いや、国跨いで追いかけてくるだけでも、十分怖いか。うん。


「……んで、話変わるけど、この後どうする?」

「折角なら、街を見て回るのもありじゃない?」

「賛成。」


 まあ時間はあるし、と特に急ぐこともなくゆっくり準備を進める。

 それにしてもいい天気だ。こういういい天気の日だし、きっと良いことが…………


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ……知ってた。フラグ立てたの俺です。知ってた。

 明らかに俺が悪いやつじゃん?でもまさか、そんな速攻でフラグ回収されると思わないじゃん!?


「アカツキ、今の聞こえたよね。」

「フラグは回収するものって相場は決まってるんだよ!俺のせいじゃない!!」

「何言ってんの?いいから早く行くよ。」

「え?」

「明らかに何か起きてる。ノーレンさんはいないけど、駆け出しとはいえ冒険者(・・・)なら、助けに行かなきゃ。」

「あ、そういうことか!!」


 そうだよな、こういう時のための俺達だよな。

 持ってきた剣も必要になる事態かもしれない。俺は急いで忘れ物がないか確認してから、エイルに頷いて見せる。


「行こう、エイル!」

「オッケー!走って向かおう。」


 そして俺達は声のした方、妖精の森のさらに奥へと進んでいったのだった。

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