空の島
魔法と機械の組み合わせが好きです。
そして世捨て人の魔法使いなんて大好物です。
「あれはなに?」
小さな自分が祖父に聞く。
「あれは島だよ。地上の暮らしが退屈だった島が魔法使いの力で空に上がり、好き勝手に飛んでいるという話だ」
運が良ければこの空をふわふわと飛んでいる姿を見ることができる。
祖父はあれを島だと言ったが、誰もその正体を確かめた者はいない。
いつかあそこへ行ってみたいと小さな自分は思った。
そう思っていたのは自分だけではないようで、祖父も滑空機を作って空を飛ぼうとしていた。
けれども滑空機は高いところから飛んで降りることはできても、あの島に飛んでいくことは出来なかった。
ある日、幼馴染のミユウと遊んでいた時、不思議なものを見つけた。
池の中から時折高く水が吹き出ているのだ。
「あれで空の島まで行けないかなあ」
つぶやく僕にミユウが、
「だめよ、あれでは行けないわ」
と言った。
驚いてミユウを見る。
「あの島は魔法使いが飛ばしたのでしょ。だったら魔法使いに頼まないと」
その魔法使いが島を飛ばしたのは何百年も前のことと聞いている。
もういないのではないか。
「それがいたのよ」
ミユウは西の森へ行ってみたのだという。
そこには魔法使いがいて、いろいろ話を聞かせてくれたそうだ。
「西の森は危ないからって大人も行かないところだよ」
「そういうまじないがかかっていたのよ。でも子供には効かないんだって」
西の森を入ってすぐのところに魔法使いはいた。
「おや、今日は友達と来たのかね」
そう言う魔法使いの姿はとても何百年と生きているようには見えなかった。
「ねえ、魔法使いさんはあの島を空に上げたのでしょ。私たちもあの島に行ってみたいの」
「上げてもいいが、降りられんぞ」
魔法はそこまで便利ではない。
けれども、魔法を使わなくても降りられればいいんだ。
「降りるのは滑空機があるよ」
滑空機をミュウと二人で運んで魔法使いに見せた。
「これはこれは、面白いものがあるな。長生きはするものだ」
魔法使いは笑ながら言った。
「では始めようか。お前たちはその滑空機に入っておれ。それごと飛ばした方がよかろう」
空の島が現れる軌道に僕とミュウを打ち上げてもらう。
僕らは心を躍らせる。
「私の魔法で島まで飛ばす。帰りはミユウに渡した石で浮かせるから、あとは降りてこい。あまり遅くならないようにな」
魔法使いが呪文を唱えると滑空機はふわりと浮かび、そして空高く舞い上がっていった。
地上はどんどん遠ざかり全てが小さくなり、僕らは空を走っていった。
やがて島に近づくと、滑空機はふわりと優しく着地した。
「きれいだねえ」
ミュウが笑顔でつぶやく。
僕たちは島のあちこちを探検し、見たこともない花や生き物にはしゃいだ。
島を大いに楽しんだ後、僕らは滑空機に乗り込み魔法石を使った。
滑空機はふわりと浮いて、島は離れていった。
そのまま機を滑らせ、僕たちの町に向けて降りて行った。
西の森の魔法使いは子供たちが無事戻った後、星空を見上げた。
「子供の頃の魔法使いとの思い出は大人になると忘れてしまう。誰も私のことを覚えている者はいない。しかし、子供たちのあの笑顔は永遠に続く」
それは死ぬことのない魔法使いの唯一の幸せだった。