マンティコアを倒す
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残忍な表現があります。
悲鳴に驚いたマンティコアはすぐに襲いかかってきた。シンジュは慌てて翼を生やすとエメを抱えて空を飛んだが、マンティコアも翼を生やして追いかけてきた。
「ぼ、くとぶ。」
「飛ばせてあげたいけどエメ君が攻撃されたら、私の集中が途切れそうでもう少し待ってくれる?とりあえずギルドマスターのところに向かうね。」
「だいじょうぶだよ。りゅうかする」
「まだ子供のエメ君には危険だよ。」
そんな事を話している最中、どんどんマンティコアは近づいてきた。
羽音が無駄にバッサンバッサンとうるさい···
シンジュは『冷静に、冷静に、冷静に』と何度も自分に暗示をかけた。エメに危険だと伝えながらも自分自身も怖くて仕方なかった。
今まででは虫の魔物ぐらいにしか出会うことがなかったためあまりにも大きな魔物にどのように対処したらいいのか分からず、身体が勝手にブルブルと震えていた。
弱点を探すために震えながらも自分を鼓舞し、マンティコアを観察してみるとペルシャ神話に出てくる生き物にそっくりの容姿だった。
確かキメラだったらギリシャ神話だったかな···そこら辺が曖昧だけれど、目の前にいるマンティコアは、顔が人間、身体はライオン、尻尾はサソリのようなトゲがあり、さらに空に飛べるって反則だろうと思った。
どうやって倒したらいいのか悩んでいるうちに追いつかれていたようで、いつの間にか魔法で作った羽が食いつかれていた。
羽を失ったためスローモーションのように地面に落ちていく···何で魔物と戦ってるのだろうか?まだまだやりたいことがある。そもそもスキルもまだ確認不足なのにここで死にたくないな。そんな事を考えていると腕の中で抱えていたエメがモゾモゾと動き出し、竜化をすると何とか地面スレスレで落ちることが免れた。
「エメ君ありがとう」
「ガウウウウ」
相変わらず竜化すると何を言っているのか良くわからないが、「湖まで飛んでほしい」と伝えて湖に向かって飛び始めた。
竜化の練習をしていたエメは危なげなく空を飛べるようで、マンティコアを避けながら上手く飛んでいた。
安定した飛び方をするエメのお陰でシンジュはマンティコアを倒すことに専念することができた。
まずは適当に魔法を放ってみた。
初めにキャンプファイヤーの炎が思い浮かんだので火魔法を放ってみた。問題なく使うことができたがあまり効果が見られなかったので何を放とうかなと考えていると、いつの間にか怪我をしていたようで血が出ていた。
興奮状態のため痛みはないが、血が止まらず手で抑えた。
あれ、そういや人間は60%が水分で身体ができているから、もし水分が無くなれば?でもこれって前世の人だけかな?
前世でも子供は60%くらいだけれど、大人になるにれて50%くらいになってたな。全身冬になると粉が吹くくらい乾燥するからクリームが欠かせなかった。
今世界の人はどうなのだろうか?いやその前に『ま・も・の!!』
魔物の水分を抜けばいいかな?いやそれだと砂になりそうだから、血液にしよう。
早速マンティコアの血を吸引するイメージで血抜き?をすると案の定マンティコアと血にきれいに分かれた。
病院で採血されてる時を思い浮かべたため時間は多少かかったが簡単に倒すことができた。
「わおお!!!」
あまりにも簡単に倒すことができて驚いていると、マンティコアは力を失ったことで地面に向かって落ちてい姿を見て慌てて魔法で捕まえた。
こんな大物をここで離すなんて勿体ない。いくらになるだろう?と採血したことで小さくなってしまったが、売れるものは売らないと。
先程は怖くて震えていたシンジュだったが、無事に倒すことができて脳はお金のことでいっぱいだった。いつの間にか湖に着いていたがそれにも気づかないくらい興奮していた。
「うわぁぁぁぁんんんんごわかった。」とエメが泣きながらシンジュに抱きついたことで、今自分が地面にいることが分かった。
ギャンギャン泣いているエメの頭を撫でていると、気持ちが落ち着いてきた。
ただ自分の視界にマンティコアが入るとまた足がガクガクと震えてきた。
大人である自分が物凄く怖かったのだから、エメはどれだけ怖かったのだろうか?トラウマにならないだろうか?と今度は精神的な不安がやってきた。
人間である自分が子供のエメを守れるようにもっと強くなりたいと思った。
頭を撫でているうちにエメが泣き止んだようだ。
泣いてパンパンに腫れ上がった目を限界まで広げながら「ぼく、本当はこわくない」と泣いていたのが恥ずかしかったのか、プンプンとそっぽを向きながらシンジュに弁明を始めた。
そんな様子を微笑ましく思いながら「エメ君は強いね」とたくさんシンジュは褒めた。それに機嫌を良くしたエメがシンジュに甘え始めると、遠くの方からもの凄い勢いで何か向かってくる足音が聞こえて身構えるとハァハァと息を切らした獣化したギルドマスターだった。
「ハァハァおい、なにやった?」
「何もやってないよ。」
「んなわけねぇだろ?おい、お前血がでてるだろ?」
怪我をしてたのを忘れてた···まずい。
「あーーーはい。問題ないよ。」
「お前の問題ないは確実に問題がある。もう帰るぞ。家で何があったか聞いてやる。」
「まだ大丈夫だよ。」
「あ?もう早く帰るぞ。分かったな?」
あまりの気迫にシンジュは、「ハイ」と答えた。
マンティコアについて説明する暇もなく、慌てて転移魔法を唱えてエメやギルドマスターの他にマンティコアも一緒に家の庭に転移をした。
すぐにギルドマスターはシンジュを問い詰めようとしたが、後ろにいたマンティコアを見て口をパクパクと開閉させながら数分停止した。その後正気を取り戻すとシンジュに詰め寄ったよ。
「おい、いい加減にやめてくれないか?」
「いや、何もやってないよ。勝手に現れた!」
「現れたら転移で逃げればいいだろ?」
「忘れてた。それに狙われたら攻撃しただけだよ。」
「忘れるわけないだろう。ふざけてんのか?」
「いや、忘れるときもある。」
「ハァ〜まぁもう仕方ない。どうやって倒した?」
「血抜きだよ。新鮮なマンティコアの血も回収したから何か必要だったらあげるよ。マンティコアっていくら?」
「は?そんな魔法は聞いたことがない。マンティコアなんて伝説級の魔物だからいくらになるか···ちなみに俺も初めて見たぞ。」
「そうなの?じゃあラッキーだね!!!次はどこに行く?」
「もうどこにも行かない。お願いだからもう家にいてくれ。それにお前は隊長と酒造場を作ってるだろ?勝手に色々するな。」
「へ?酒造はギルドマスターが許可したよ。覚えてないの?隊長に許可したのはギルドマスターなのに怒らないでよ。」
「あ?んなわけねぇだろ。とりあえずフェル達が帰って来る前で家にいろ。わかったな?」
シンジュは濡れ衣をかけられたため反論しようとしたが、湖に居た時と同じように「ハイ」としか答えられなさそうな雰囲気にブンブンと全力で頷いた。
ギルドマスターがいなくなった後、仕方なしに家に籠もって今度はスキルを試すのだった。
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次回は1月26日になります。