表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/60

知らないから、知りたいと思う

ジョセフからの提案は、突拍子もなくて私が考えてもいないものだった。

簡単に「分かったわ」と言えるものでもないのは当然で。


「…私の存在が、ティムに迷惑をかける、というの?」


「そんなことはない、

ただ、ティムの弱みになる可能性が高い。

君の存在は、ティムにはもう必要なんだ。

悔しいことにね」


黙って聞いていたマリアさんは、私とジョセフを交互に見てクスクスと笑い出す。


「チビジョー、素直に言っちゃいなさいよ。

ちゃんと話せば、アシュリーちゃんだって分かってくれるわよ。

まぁ、あんたはティムの事が大好きだもんね。

そりゃ、言いたくないわね」


「…マリアさん話が見えないのですが」


私以外が、私以上にティムの事を知っている。

それが、悲しい。

一緒に過ごせなかった時間が、寂しい。

やっぱり、少しの違和感が生じる。

覚えてないのが、悔しい。

この違和感の正体が、分からないのが、もどかしい。

もしかしたら、体調が悪いから気になっているだけかもしれない。

そう思いたいけど、そうじゃない、と心のどこかで警報がなっているような気がする。


早く起きてほしい。

早く顔を見て、安心したい。

だけど休んでもらいたいのも事実で。


今の彼を全然知らない、という焦燥感。


「私は、昨日ティムと会ったばかりで、彼の事、何も知らないの。

分からないの。

だから、お願い、私が知らない事、知っていなくちゃいけない事を、教えてください」


マリアさんに体を向きなおして頭を下げた。

そう、知らないなら、知ればいい。

マリアさんは、微笑んでから思案気に目を伏せた。


「そうね、ティムに聞いたとして、彼が全部話すとは思えないわね。

話す内容を選ぶわね。

うーん、そうね。

ティムは、ここ数年、ずっと体調が優れなかったの。

仕事はきちんとできていたけど、無理はしない程度で、ほとんどの仕事はジョセフに任せていたのよね」


「そんなに、体調が悪かったのですか?」


私のその質問に、マリアさんは困った顔で微笑んだ。


「まぁ私達だって、体調が悪い時だってあるわよ、生きてるんだから」


なんとも曖昧な返事に困惑する。


「アシュリー嬢、だけど、君が、ティムを見つけてくれたから急に元気になったんだよ。

最近は立ってるだけでも辛そうだったから。

あの日だって、すぐそばに俺達が居たんだ、すぐにティムを支えられるように」


「…あの日だってって?

私の事、もしかしてもっと前から分かっていたの?」


ジョセフは、ハッとした顔をした。

余計なことを言った、というような顔。


「ねぇ。教えて?

ティムは、いつから私を見つけてくれていたの?」


「いや、あの日だよ」


被せ気味に言われたそのセリフ。

確信が欲しくて、マリアさんを見ると、微笑んでるだけで。


私は、何も知らない。

本当に彼の事は何も。


「とにかく、もしアシュリーも俺と同じティムを大事だと思っているなら、お願いを聞いてほしい。

頼むから」


それなのに、ジョセフは答えをせかす。


分からない。

どれが正解なのか。


「私たちは、あまり表舞台に長くは立てないのよ。

本来は、なるべく舞台の裏に控えていたいの。

私には、ジョセフの案は悪くないと思えるの。

だって、ティムは取材に追われることがない。

今の彼の体調では、ゴシップ紙に追われることはちょっとキツイと思うの」


マリアさんの発言は、決定打になった。


「…ティムが、守れるのなら…」


不承不承の返事になってしまう。

だって、私は彼の隣で堂々と立っていたかった。

前と同じように。

あぁ、まただ、何かがおかしいと、何かが私に訴える。


「ありがとう、アシュリー嬢」


私に対抗していた態度が多かったジョセフが真摯に頭を下げるから、何となく居心地が悪い気分になる。


「どういたしまして。

あ、だから!

貴方、私の事を迎えに来た時に言ったわね、愛しいアシュリーって。

あれって、最初からそのつもりで!」


ジョセフは、ばれたか、という顔をして済ましてカップを口に運ぶ。


「そうだよ、だから、俺が迎えに行ったし、ここまで連れてきた」


この人は、ジョセフ・ブラッドリー。

ブラッドリー商会の後継者。

28歳の見目麗しい独身。

こんな人が恋人がいないというのは、おかしいだろう。


「…恋人がいないって言ったわね?

ずっといないの?

パーティとかのエスコートはどうしていたの?」


「ティムの事があるからね、恋人は作らないんだ。

エスコートするのは、その時々。

売り出し中の女優だったり、高級娼婦だったり。

その場によるね。

とにかく後腐れのない付き合いの女以外は、お断りだ。

この見た目と肩書のお陰で有難いことに、女性には不自由したことがないんでね。

一番最初に言った通り、俺は俺以上にティムが大事なんだ」


思った以上にくずっぽい発言が出たけど、遊びと割り切った関係だけしか望んでないのはティムの為と言われたら、くずなんだけど、くずだと思うけど、ティムの為という魔法の言葉で納得してしまう。


「そうねぇ、だから、アシュリーちゃんは、ちょっとだけ面倒な立場になっちゃうかも」


面倒な立場。

その予想が、想像通りなら。


「ゴシップ紙にのる???」


マリアさんは、何も言わずに頷く。

ジョセフを見ると、わざとらしい笑みを浮かべた。


「恋多き男が、結婚を意識した女性としてみられるだろうな」


「え、無理無理無理。

いくらティムの為でも、ちょっとそれは」


尻込みする私を挑発するように、彼は言った。


「覚悟を決めてくれ、アシュリー・ウィンストン。

俺はティムを守りたい。

お前だって、それは同じだろう?

なら、俺の手を取れ。

世間をだませ。

こんなことで、怯むならティムを任せることは出来ない」


どうやら、覚悟を決めないとダメかもしれない。


「ティムの為なら、なんだって出来るわ」


私も、覚悟を決めてジョセフを見た。

ジョセフは商談成立とばかりに手を差し出す。

握手した手は、ティムの手とは違い、暖かかった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ