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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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58/60

番外編:ジョセフ・ブラッドリー5

突然の出張、いや、ずっと先延ばしにしていた商談の締結の為に1週間ばかりアシュリーの側を離れなくてはいけなくなった。

今までだって遠出の出張なんて当たり前のようにあったのに。

今は、彼女の側を離れたく無い。

随分と女々しい男になったなあ、と自嘲する。

ただ、少しだけコレは良い機会なのかもしれない、とも思う。

今までずっと側にいた俺が、物理的にも居なくなる。

俺の不在を寂しがってくれないか、とか。

自分に都合の良い想像が止まらない。


そんな気持ちとは無関係にさっさと準備を終わらせる。

ライティングデスクに向かいアシュリーに向けて軽く報告のメモを書きあげた。

メイドの声が聞こえてアシュリーが帰ってきたことを知る。

なら直接いえばいいとメモをポケットに突っ込んで玄関にむかう。

アシュリーが帰って来るなんて、俺はメモを書くのにどれだけ手間取っていたんだよ…


さすがに時間も押してるから、簡単に出張に行く事を説明してコートを羽織る。


「え、もう行っちゃうの」


アシュリーの口から飛び出したのは俺を引き止めるような言葉で。

嬉しくなってしまった。


「お、なに、なに?寂しいって思ってくれる?」


「そんなわけないでしょ、さっさといってらっしゃいな」


相変わらず憎まれ口をたたくアシュリーのセリフ。

それすら愛しいと思う。

だから素直に口から本心が出た。


「俺は、寂しいよ」


「あ…」


目を丸くして固まるアシュリーを、ゆっくりと抱きしめるように囲う。

未だ抱きしめることができない、可愛いアシュリー。


「考えておいてほしい、俺の事を」


耳元に落とす。

呆然とするアシュリーを置いていくのはしのびないけど、タイムリミットだ。

俺はウィンクをして「行ってくるよ、アシュリー」と軽やかに家を出て行った。


汽車の中でポケットに入れたままだったメモを見て、渡さなくて良かった、と心底思ったのは誰にも言えない秘密だ。恥ずかし過ぎる。


出張から帰った俺は、最初に自分の部屋でさっぱりしてから上に行こうと思っていた。

だけど、アシュリーの顔が見たくて。

アシュリーの憎まれ口が聞きたくて。

いや、素直に彼女に会いたくて、そのまま上の階に向かった。


そして――玄関を開けた瞬間、飛び込んできた温もりに息が詰まった。


「おかえりなさい」


その言葉と共に、ぎゅっと俺にしがみついてきたアシュリー。

小さな体が俺の胸の中で震えている。

埃っぽいからって言って、一旦体勢を整えようとしたけれど、アシュリーのぎこちない必死さが伝わってきて…


ああ、もう離さない。

この手で、何があっても幸せにする。

そんな決意とともに、彼女の名前を、そっと呼んだ。



俺があれだけ嫌っていたはずの彼女は、気がつけば俺の視界から離れなくなっていた。

笑えば気になる。

落ち込んでいると無性に腹が立つ。

そんな自分が情けなくて、何度も目を逸らそうとした。


でも、無理だった。


ティムに認められたくて、必死で頑張っていた、あの頃の自分。

意固地で、愛を欲しがる、孤独な自分を誤魔化すために、言葉で武装して。


だけど、今は違う。

彼女といると、自分でいいと思える。

ティムの後継者じゃない、どこにでもいる普通の男として。


彼女がそっと手を握り返してきた感触。


「…ジョセフの手は、温かいんだね」


そんな一言に、胸が詰まった。

この手で、これからずっと彼女を守ることが出来る。

アシュリーを幸せにしたい。


好きだ、の言葉だけじゃ物足りない。


愛してる――そう思った瞬間、もう止まれなかった。

キスをして、抱きしめて、繋がって、不安は彼女の微笑みで溶けていく。


ティムを忘れられない彼女、その過去も全部含めて愛したい。

それを含めてこそ、アシュリー・ウィンストンだから。


今、彼女は俺の肩にもたれて、うたた寝をしている。

かすかな寝息が首筋をくすぐるたび、胸の奥の緊張がほどけていく。

彼女が完全に力を抜くときは、俺の隣にいる時だけ

――そう思いたい。


アシュリーが俺の名前を呼ぶたびに、胸が温かくなる。

きっと、幸せというのはこんな、何でもない日常を指すのだろう。

昔は聞き流していたであろう「お姫様」呼びをすると

恥ずかしそうにして、でも、まんざらでもなさそうな顔で「ばか」って笑ってくれる。


……可愛すぎて、キスを我慢できない。

そうしてまた、口づけて、名前を呼ぶ。


世界にたった一人の、俺のアシュリー。


ティムがいなくなった世界は、まだ少し寂しいけど、

これから彼女と作っていく未来が、

その寂しさすら包んでくれる気がするんだ。


だからティム、安心して休んでいてくれよ。

ティムの分も合わせて、俺がアシュリーを幸せにするから。

ジョセフ編お終いです。

次はルーシィ編です。

明日は2回更新予定です。

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