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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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番外編:ジョセフ・ブラッドリー1

俺は、アシュリー・ウィンストンが嫌いだ。


何もしないで、ティムに認められているから。

ただそれだけで、気に食わない


ティムに会ったのは、おそらく7歳頃。正確な年齢は知らない。


母親だって、まともに年齢を数えてなかった。

母は、そこそこの店の娼婦だった。

父親はどうやら、どこかの貴族の放蕩息子らしい。

運がいいのか悪いのか、顔立ちは母似。

珍しいアッシュブロンドの髪とグレーの瞳は、父譲りだそうだ。

俺が生まれた理由は、貴族の家から金を巻き上げるため。

あるいは愛人の座を狙うため。

要するに、労せず生活するための駒のひとつだった。

そういうものだ。

そこそこの店とはいえ、娼婦は娼婦。

だが、その放蕩息子は戦場へ行き、戦争が長引いた。

ようやく終戦を迎えたころ、俺はすでに5歳になっていた。

血縁上の父親の戦死の報せが届いたのは、そのさらに1年後。

母は、貴族に俺を売ることを諦めた。


貴族の子息として売りつけようとしていたから、ある程度守られていたのだ。

世の中には、どんな趣味があるのか分からないが、世界は広い。

俺を「欲しい」と言う人間がいた。

それは、本当に偶然だった。

その場にティムがいたのだから。

いや、正確には、その人間に渡される直前で、ティムが俺を救い出したのだ。

ティムが取引していた商会のひとつが経営する娼館。

たまたま接待でそこに来ていたティムが、偶然、俺を見つけた。


俺は、もう諦めていた。

どうせ母と同じような商売につくのだと。


母の店から俺を連れ出した男は、舐めるように俺を見て、

「手が出せないのが残念だ」と何度も口にしていた。

だからティムも、同じような人間だと思っていた。

「人手が欲しい」という言葉も、表向きの方便だと。

だが、違った。

彼らは人手ではなく、「自分たちをバックアップする人間」を求めていた。

親も親戚もいない孤児は、後腐れがない。

拾って恩を売り、隠れ蓑として利用するには最適だった。


ティムたちは人と同じ見た目をしているが、種族は違う。

身体能力を含め、すべての点で人間を凌駕する。

だが、彼らは世界征服なんて望んでいない。

そんなことに興味はない。

彼らは、個が個として自由に生きる種族だった。

群れず、勝手気ままに生きてきた。

だが人間が増えすぎて、世界に規律が蔓延し始めた。

面倒事を嫌う彼らの中には、この世界に見切りをつけ、自分たちの世界に戻る者もいた。

それでも、このくそったれな世界が好きだという変わり者もいた。

俺の周囲にいたのは、そんな者たちだった。

だから、穏便に暮らすために――


利用できそうな人間を利用する、それだけの話。


そうした思惑を微塵も感じさせず、ティムは穏やかに話す。

誰かに聞かれた時には即座に語れるよう、お涙頂戴の嘘話も完璧にこなしていた。

それが普通だった。


「まぁ、お可哀そうに」


「なんて幸運なのかしら」


誰もが決まり文句のように同情し、俺はそれを白けた思いで聞いていた。

そんな人間を、ティムは何人も育てていた。

ある程度の年齢になると、適性によって仕事が割り振られる。

俺も何人かと顔を合わせたが、みなティムに忠誠を誓っていた。

もしかしたら、そうでない者もいたのかもしれないが、俺は知らない。


俺たちを世話していたのは、主にマリアだった。

ティムが父親なら、マリアは母親のような存在だった。

……まあ、結構不在の時も多かったから、ちょっと違うが。


そして、そんな環境しか知らない俺は。

もし認められなかったら、捨てられるかもしれない――

そう思っていた。


一度、母に捨てられた俺には、それは恐怖でしかなかった。

だから俺は、がむしゃらに頑張った。


ティムに認められたくて。

ティムに、褒めてもらいたくて。


初めて、俺を“人”として扱ってくれたティムに。

やがてティムは、俺を側に置くようになった。

努力のかいもあって、マナーや勉強は年齢相応に追いついた。


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