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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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ドキドキする

その日の夕飯は、とても居心地が悪かった。

何故か二人とも、よそよそしくて、会話が嚙み合わない。

さっきまで、あんな場面でも軽口を叩けたのに。

なぜか、ジョセフが私を見る目が優しくて。

何となく、落ち着かない気持ちのまま、彼は自分の家に戻っていく。

そう、ティムが死んでから彼は一度もティムの家で寝てない。

それは、彼なりのけじめ、なのだろうか。


彼が家に戻り、一人になっても気持ちはまだ整理がつかない。

あたたかい照明の下、テーブルに置かれているワインを口に含む。

今日一日の緊張をほどいてくれる。.

ほんの少しだけ残ったワインをグラスに注ぎ、窓辺に立つ。

静かな夜。カーテン越しに揺れる街灯の灯りが、まるで誰かの気配のようにやさしい。


「……私は、どうしたいんだろう」


問いかけても、明確な答えは返ってこない。

ティムの顔を思い出す。

思い出すその顔は優しくて、何も言わず、ただそこに在るだけで。


「ねぇ、ティム。

私、間違ってるのかな?」


ジョセフの優しさに救われるたび、彼の立場が心を締めつける。

そして、ハリーからの忠告が現実味を帯びて、臆病風を吹かせてくる。


それでも。


あの時、私は頷いてしまった。

首を振れば、きっと彼はもう二度と何も言ってこない。

その予感が、怖かった。

優しさに甘えるのは卑怯かもしれない。だけど、それでも、彼の手を振りほどく勇気は持てなかった。

それは恋なのか、寂しさなのかすら分からずに。

そっと目を閉じ、深く息を吐いた。

迷いはあっても、まだ終わりじゃない。

でも、今日だけは、ただ今日を終えよう。


まだ、ジョセフの優しさを利用している自分の心ごと包んでくれた、その言葉に甘えてしまおう。

のろのろと、ベッドに向かう。

ティムの香りはとうに失せた冷たいシーツに横たわった。


「おはよう」


何も変わらない様子で、朝の挨拶をするジョセフの声がダイニングに響く。


「お、おはよう」


ぎこちなく返事を返す自分の声が、少し裏返ってる。

食事の最中の会話も一人空回りしている気がするのに、ジョセフは察してくれているのか、何も聞かず、いつも通りにふるまってくれる。

彼、は、本当に優しい人なんだ、と改めて思う。

この距離感が、今は有難い。


「じゃ、行ってくるわ」


慌ただしい、いつもの朝。

いつもなら、ジョセフは自分のスーツの上着を軽く羽織るとそのまま出ていく。

はずなのに。

彼は私の顔を見て、少し迷ったような素振りをした。

忘れ物でもあるのかと、思わず小首を傾げると、ジョセフは何か言いかけて、けれど言葉にはせずに、代わりにそっと歩み寄って私の後ろに立つ。


「行ってくるよ」


もう一度頭上で言われたその言葉に振り向こうとして、私は思わず固まった。

彼は私の頭に軽くキスをすると、すぐ踵を返して出て行ったのだ。


「え、え、えええ…?」


思わず席を立ち、戸惑う私を置いて。


ぽかんと口を開けたまま、私はその場に立ち尽くす。

何が起きたのか、頭が追いつかない。


ジョセフが頭にキスをした?

いや、あれは…あれはただの…何? 挨拶? それとも。

ドキドキとする胸に、そして、込み上げてくる感情。

けれどその感情の行方を認めるのが怖くて、慌てて化粧をして仕事に向かった。


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