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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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33/60

リバーサイドの立食パーティ

ゆっくりとした、だけども迷いない足取りでパーティ会場に足を踏み入れる。

人々のざわめきがとまる。視線が一気に今日の主役、主催者であるジョセフと、密やかに噂されていた秘密の恋人?である私にに集まる。

今までのごっこ遊びとは違う、まるで、品定めをするような視線。

肌にまとわりつくような注視に、思わず肩がわずかに強張る。

その微かな反応に気づいたのか、ジョセフが耳元で囁いた。


「落ち着いて、お姫様。

あれは、全て君の下僕だ」


下僕!?!?言葉のチョイスに思わず吹き出しそうになる。

ジョセフを見ると、皮肉そうに笑う。

そのいつも通りの笑顔に、リラックスできた。

二人で微笑みあった瞬間、会場の空気がふっと和らいだ。


ゆっくりと二人が絨毯の上を進むたび、ざわめきが戻ってくる。ただの興味本位ではない、驚きと、感嘆の入り混じった視線が注がれていた。


「あら、やだ。あの噂、本当だったの?」「あの女性が例の彼女?」「あの若草色のドレス、見たことない布ね…」

会場のあちこちから、囁き声が上がる。

その中心に、自分がいる。

それは紛れもない現実だった。

背筋を伸ばし、胸を張って歩きながら、ほんの一瞬、視線を斜め後ろ、控室があるほうにむける。


「お姫様、世界一綺麗だ。

…今は俺に集中して」


ジョセフがそう小さく囁いたその時、スポットライトが二人を照らす。

それが合図だったかのように、会場全体が拍手に包まれた。

流れるようにジョセフがリバーサイドの10周年を感謝するスピーチをするのを、静かに聞いていた。

ティムやジョセフが頑張って築き上げた商会の中の一つのレストラン。

ふと視線を外に外せば目に入る、素晴らしいパーティ会場。

川沿いに設えられた仮設のガゼボから、柔らかな光が漏れていた。

白いテーブルクロスの上にはシルバーの食器が並び、グラスに注がれたシャンパンは、黄昏に染まりながら微かに揺れている。

水辺にはキャンドルを浮かべたガラス玉がゆっくりと流れる。

これ以上ない空間の演出。

自分の功績でもないのに、誇らしい気持ちでいっぱいになる。


スピーチが終わると、歓談になる。

あるものはグラスを取り、あるものは食べ、話をし、各自各々が楽しむ時間に移る。

時折、風がドレスの裾をはらりとさらっていった。

ドレスの裾を気にするふりをしながら視線を巡らせる。

正面でグラスを掲げるジョセフの笑顔は完璧すぎて、胡散臭さが倍増している、と言ったら、きっと彼は怒るだろうな、などと思う。

それ位には、自分も少しだけ心の余裕が出来てきた。

ウェイターが優雅に空いてるお皿をさげ、空のグラスを持つ人には新しい飲み物を提供している。

店員の教育も素晴らしい。

何処から目線だよ、と自分でも思いながらお酒を口にする。

何気なく渡されたグラスから一口飲み、ハッとする。


「このお酒…」


隣のジョセフは悪戯がばれた子供のように笑んだ。


「そ、俺の部屋で飲んだ奴」


それすらも新商品として宣伝するの!?と思ったが、いやいや今日こそ宣伝に相応しい日はないか、と気が付く。


「さすがね、本当に生粋の商売人だわ」


「だろ?」


二人で小さく会話をしながら微笑みあう。

傍から見たならば、さぞ仲睦まじい恋人同士に見えているだろう。


最初のうちは今までの顔見知りが挨拶に来て、そこまで緊張せずにすんだ。

今まで頑張って小さなパーティに行った甲斐があった、と実感する。

少なくとも、彼らは表面的には好意的だから、だ。


シャンパンの泡がはじける音と、談笑の波。その波を縫うように歩く。

立ち止まってはかわす、当たり障りのない会話。


「素敵なドレスね、これは新作かしら?

お嬢さんの雰囲気とぴったり合って」


「流石はオーランド夫人、アイランディ織といって最近仕入れたものです。

オーランド夫人に負けず劣らずの美しい布でしょう?」


「もう、ブラッドリー卿ったら。冗談がお上手なのだから」


「今度、お伺いしますよ」


「よろしくね。可愛いお嬢さんも連れてきて、是非よ?」


軽い語り口なのに商談をまとめていく様に舌を巻く。

嫌味ない話しぶりに、感心する。


「これ、恋人が気に入りそうな味だったから仕入れてみたんですよ。どうです、お口に合いますか?」


「おや、私は惚気られちゃったのかな?

君を変えたのは、この魅力的なお嬢さんかな」


突き出たお腹をゆさゆさと揺らしながら、豪快に笑う紳士。

新商品のワインの宣伝もバッチリだ。

私は微笑んでグラスを掲げ、隣で相槌を打つ。

ジョセフのパートナーとしての役目に徹し、可もなく不可もない受け答え。

会場の雰囲気にものまれないで、背筋を伸ばして立つ。

そんな自分を少しだけ誇らしいと思った。


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