ティムのお姫様だから
ジョセフと私の間に沈黙が落ちる。
「それは、具体的に言えば?」
ようやく口にだせた言葉は、それだけだった。
「俺の、ゴシップ自体は把握しているか?」
「…少しは。
恋多き男とか?正直、あまり興味ないから。
というか色々と教えてくれた人もいるけれど、なんていうか…」
「俺自体に興味ないのに、そんな事言われてもって感じで聞いてないだろ?」
そう言ってジョセフは笑い出した。
「やっぱり、お姫様はお姫様だ、最高だよ」
余りにも笑われすぎて、まるっきり褒められている気分がしない。
思わず返事も疑問形になってしまう。
「お褒めに預かり光栄です?」
「なぜ、疑問形なんだよ、本当、俺、自信なくしそう。
ま、冗談だけど。
お姫様は、ティムのお姫様だからな。
俺に興味がないのは当たり前なんだよ、な」
そういうと、ジョセフは足を組み替える。
フワリと香る匂いは、ジョセフの香水の香りで。
家自体は、まるでコピーしたみたいにそっくりなのに、部屋全体の香りはここはジョセフの家だと主張しているようだ。
ジョセフのアッシュブロンドの髪を見て、彼女を思い出す。
ずっと、泣いている、彼女。
謝ってばかりいる、彼女。
「聞いている?お姫様?」
私は随分と一人で考え込んでいたようだ。
いや、ワインのせいでうつらうつらしていたのか。
「ごめんなさい、最近夢見が悪くて、寝ているのに、寝ていない感じなのよ」
話を聞いていなかったのを素直に謝る。
「…大丈夫か?そんなに、心配か…?」
ジョセフが指を組んで私をじっと見る。
その視線の強さに、思わず視線を逸らす。
「…分からないの、正直に言って。
私、本当に今までこんな暮らしもしたことなかったし。
普通の郊外の家で育った、普通の人間だから」
お道化たように笑いながら言う。
「…俺の、せいか…」
小さな呟き。
私は無言で首を振る。
そうかもしれない。
でもそうでないかもしれない。
どちらにせよ、選んだのは私だ。
「私も、貴方の提案に乗った時点で共犯だよ。
最後まで、付き合うわよ」
ジョセフの顔が泣きそうに歪むのを見て、思わず息を飲む。
その組んでいた指が、私のほうに伸ばされようとして、拳をつくると止まる。
思わず戸惑いながらも、拳と拳を合わせた。
私を元気づけようとしている?
目が合うと、ジョセフは今まで見た事ないような優しい笑みを浮かべていた。
「…ありがとう、アシュリー…」
随分と久しぶりに、ジョセフが私の名前だけを言った。
アシュリー、お姫様。
そう、ずっと、彼はそう言っていたから。
何となく、名前だけ呼ばれると気恥ずかしい。
いやいや、冷静に考えると、お姫様呼ばわりのほうが十分恥ずかしいんだけど。
だけど、これは慣れというか、あだ名というか。
逆に恥ずかしさが突破して突き抜けたというか。
「パーティの後は、俺に任せてくれ。
少しは煩くなるかもしれない、が、ある程度は抑えるつもりでいる。
パーティ後は、当分の間だけでも良いからお姫様専用のハイヤーで仕事場に行ってくれ。
安全の為にも、頼む。
ティムの大事なお姫様に、何かあったら困るから」
真剣な表情に、コレは茶化したらいけない。
それにそこまで言われたら、もう嫌とは言えなかった。
私は静かに頷いた。
すみません、ちょっと体調不良でパソコン開くのが難しくて。
次の更新までちょっと時間下さい。すみません




