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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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ジョセフの部屋

ジョセフはすぐにドアの中に入りコンシェルジュに言付けを頼んでいるのを見るともなしに見る。

昇降機に二人で乗ると、ふわりと一瞬宙に浮く感覚。


「私、昇降機やトラムに乗るときのフワリとした感覚、好きなのよね。

何か、ワクワクするの」


「あぁ、その気持ちは分かるよ」


狭い昇降機がゆっくりと上がっていく。


「ちょっと、俺の部屋に行く」、


「え」


ティムの部屋の階よりも一つ下の階で止まり、ドアが開く。

ジョセフは私の手を取って歩く。

と、いっても、すぐに部屋のドアだ。

ティムの家もジョセフの家もその階に一つしか居室がない作りになっているらしい。

うん、金持ちは違う。そんな場違いな事を考える。


「そういえば、私、あなたの家にお邪魔するの初めてね」


「まぁ、ほぼ仕事部屋だからな。

寝る部屋と仕事部屋以外使ったことない。

掃除の人間以外は部屋に入らないしな。

実際、ほぼ使ってない。

お姫様と会ってからすぐにこの部屋買ったし」


「…うん、お金持ちすぎてよく分からない」


「ホテル暮らしのほうが、楽だったんだよ、俺もティムも。

商談でよく家をあけていたし」


そう言いながら、鍵を回して部屋に入る。


「お邪魔します」


ほぼ、ティムの家とほぼ同じつくり。

家具も同じみたいだ。

家に戻ってきたのかと、錯覚を起こしてしまいそうだ。

人が一人もいない、この寒々とした雰囲気がなければ、の話だが。

やはり、家は人がいてこそ、なのだなぁとしみじみ思う。


「なんでこんな同じ作り。家具も何もかも、全て同じじゃない」


「まぁ、俺もティムも恨まれているっていえば、色々恨まれているからね」


「え、何、襲われるとか?」


「流石にそんなバカは居ないと思うけど、まぁ念のため」


だから、ホテル暮らしが楽だと言っていたのか。

え、でもそんな危ない仕事なの?

頭がグルグルとしてしまう。


「商会の仕事ってそんな危険だと思わなかった」


「まぁ、慈善事業ではやっていけないから」


そういえば、マリアさんがそんなことを言っていたのを思い出す。


「微笑みの暗殺者?」


その返事を聞いてジョセフは苦笑する。


「マリアから、聞いた?」


私は無言でうなずく。

促されたソファアに座ると、対面にジョセフも座る。

手には、ワイングラスと、ワイン。


「お姫様が好きそうな味だ。度数もそんなない」


ジョセフは器用にボトルをあけると、ワインを注ぐ。

ワイングラスを鼻先に近づけて匂いを確かめる仕草が様になっている。


「ありがとう」


渡されたワインを素直に受け取り飲むと、確かに私好みの味だった。

酸味、甘味、フルーティな後口。


「…美味しい…後口がフルーティなのに、すごいさっぱりしているのね」


「お、分かる?そうなんだよ、新しいワイナリーのワイン。

女性客に良いのじゃないかってことで買い付けてみたんだ。

大丈夫そうだ」


「ちょ、何それ、私は実験台か、何かなの?」


「この家で食事なんかしないから、こんなもんしかないや」


出されたのはクルミとドライクランベリー。


「甘いものと甘いものじゃないの」


そう言いながらも、ドライクランベリーの爽やかな酸味が癖になる美味しさだ。

併せて飲むワインと味がマッチして美味しい。


「…少し、落ち着いたか?」


顔を上げると、ジョセフが真剣な顔して私を見ていた。

そういえば、私、ひどい顔って言われてここに連れ込まれたのだっけ。


「そういや、俺、初めてだわ、この部屋に、というか俺のプライベート空間に女入れたの」


ジョセフが茶化すように話すから、私も冗談で返す。


「あら、ごめんなさいねぇ、ジョセフの初めて、沢山もらっちゃって」


「それだけ言えれば、大丈夫だな。

顔色も、もう戻ったし。

…俺が言える事じゃないけど、そんな思いつめるな。

困ったことがあったら俺に言え。

前にも言ったが、俺はティムの為なら、何でもする}


たとえティムの為だとしても、ジョセフの心遣いは嬉しい。

そうなのだ、私はとても恵まれているじゃないか。


「そうね、うん。

ロドニー、あ、編集長がね、心配してくれていたの。

お披露目するとなると、ゴシップ紙とかがうるさいんじゃないかって」


ジョセフは方眉を上げて、少し思案顔をする。


「まぁ、確かに。

うるさくなるかも、知れない。

きっとお姫様が考えているのとは違うだろうな、と思うけど」


ジョセフの余りの真剣な声音に、私は何も言えずにワインを口に含んだ。

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