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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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24/60

誰かが泣いている。

物音一つしないために、その泣き声だけがよく聞こえる。

さめざめとした、雨のような泣き声。

泣いている人を探しても、近くには見当たらない。

自分が何処にいるかも分からない。

周りを見回しても、辺り一面の霧。

2メートルも歩けば、もう先が見えないほど、濃い霧。


足を踏み出す恐怖もある。

だけど、行かなければいけない気がした。

何も見えない、どちらの方向に行けばよいのかすら分からないというのに、足が勝手に動き出す。

どこまで歩いても、濃霧。

景色が変わらない。

それとも同じ場所をグルグルと回っているだけなのかもしれない。

言い知れぬ恐怖が胸に湧く。

だが、立ち止まっているのも怖いのは確かで。

走り出したくなる気持ちを抑えて、歩く。

歩いていると、自分の中でも違和感が生じてくる。

そう、いくら何でも、おかしい。

こんな何もない場所、私は知らない。

あぁ、夢だ、

きっと、夢の中。


目をさませ、私。

でもどうやって?

目を開ければよい、それは分かる。

なのに、どうやっても目覚めない。

焦る気持ちが体にもあらわれ、気持ち小走りになる。


気が付くと、濃霧の中にケヤキ並木が見えた。

並木を歩いていくと、一人の女性が泣いていた。

肩を小刻みに震わせて。

余りにも悲しそうに泣くので、思わず駆け寄る。


「あの、大丈夫ですか?」


声をかけても、その女の人は何かを言いながら泣いている。

近寄ったことで、彼女が何を言っているのかようやくわかったくらいに、小さな声。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


彼女はそう言って、さめざめと泣く。

どんな罪深いことをしてしまったのだろうか?

それがどんな事なのか全く想像がつかず、手を差し伸べようとして伸ばした手を引っ込めた。


私が側にいることすら気が付いていないのか、彼女はずっと謝罪の言葉を繰り返す。


目が覚めない。

焦燥感が募る。

辺り一面は濃霧。

このまま目が覚めなかったらどうしよう、そんな恐怖で大声を出しそうになるのをどうにかこらえ、再度声をかけてみる。


「あの」


声をかけれれた彼女はびくりと肩を震わせる。

俯いたままの顔は、私には見えない。

背中まである綺麗なアッシュブロンドの髪の色。

ジョセフと同じ色だ。

そんなことをぼんやりと考えていると、彼女が私の存在に困惑している雰囲気を感じ取る。

でも、彼女は私の顔を見ない。


「大丈夫ですか?」


「…」


ようやく彼女の謝罪の声が止む。

私はホッとして、再度問いかけようとしたら、また彼女の謝罪が始まった。


「ごめんなさい、私のせいで、ごめんなさい」


そんなに自分を責めなくても、そう声をかけようとした。


「こんなことになるなんて、思わなかったの。

ごめんなさい、私のせいなの。

幸せだったの。

彼に任せていたら、全て大丈夫だったの」


声をかけるタイミングを見失い、彼女が何を言うのか黙って聞く。


「貴女を苦しめるつもりなんてなかったの!

だって、私はずっとずっと幸せだった!」


いきなり叫びだすような声で断言する彼女に怖気づく。


何を言っているのだろうか。

夢だ、分かっている。

怖い。


「あぁ、でも私のせいよね、ごめんなさい、ごめんなさい」


また、彼女は謝罪の言葉を紡ぎだす。


もうやめて、言わないで。

謝らないで。


そう言いたいのに、声が出ない。

頭の中で鳴り響く謝罪の言葉。


頭が割れそうに痛い。


目が覚めて。

起きて、私。

そう思っても、一向に目覚めない自分にも恐怖を感じる。

頭を抱えて蹲る。



ふ、と気が付くと、目が覚めていた。

自分の頬を伝う涙に、自分自身で驚く。

周囲を見回すと、自分の寝室だという事が分かる。


良かった、やっぱり変な夢だった。

全身の力が抜けて、ベッドに身を任せる。


「私、泣いて…?」


思わず声に出してしまう。

泣くほど、怖かったのか、と言われたらそうでもないはず。

不気味な夢だった、と言った方がしっくりくるはずの夢。

そう頭では分かっているが、胸をかきむしりたくなるほど切なくなる夢だった。


夢の中でずっと謝っていた彼女。

一体彼女は誰に、何で謝っていたのかすらよく分からない。


「…私に、謝って、いた…?」


でも、それは一体何の為に?

何の謝罪?


考えても答えは出ない。

…変な夢、という事よね、いやだわ、私に謝られているなんて思うなんて。

夢に振り回されるなんて、よほど疲れているのか。

まだ、ほの暗いのを確認して、再度寝る体制に入る。

寝入る前に願ったのは、もうあの夢を見ないように。

それだけ。


幸いなことに、目が覚めるまで夢は見なかった。






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