公のパーティへの打診
いつものようにティムとジョセフの簡単な打ち合わせが終わった後。
私とマリアさんはのんびりと食後のコーヒーを飲んでいた。
「そろそろ、商会のパーティにパートナーとして出席してもらいたい」
思い出したというように、何かのついでのようにジョセフが言った。
今まで出席していたプライベートな場所のパーティとは、意味が違う。
商会のパーティは、ジョセフが主催者だ。
主催者のパーティの、パートナー。
今までと違い、二人の関係を公にするという事。
「…」
一瞬答えにつまり、視線をティムに向けると、面白くなさそうな顔をしてジョセフを見ていた。
「リバーサイドの3周年記念か?」
ティムが静かな声でジョセフに問う。
ブラッドリー商会のレストランの名前、だ。
名前通りに川沿いにある、完全予約制、紹介制の高級レストランの一つ。
「そう。その祝賀パーティなら小規模だし、呼ぶ人数も限られている。
ちょうどよい大きさかと思って」
ジョセフは許しを請うように、ティムに説明をする。
「そこまでやるのか…?」
ティムはわざと大きく息を吐いて、腕を組んで目をつむり黙り込む。
「必要だと思わなきゃ、俺だってしないよ、ティム」
珍しくジョセフは断言した。
返事は?というように私を見る。
二人で主催者側の公の場に出るという事の重み。
公の場で二人で、出席する。パートナーとして紹介される。
プレッシャーに押しつぶされそうになる。
ここまで、しないといけないのか。
先ほどの、私の覚悟を嘲笑うかのように押し付けられる現実。
そう、か。
ジョセフは別に、私が人の目に慣れるのを待っていたわけでない。
きっとこの3ヵ月は私の覚悟を試されていたのだ。
私がどう動くか、注視していたのだ。
投げ出して、逃げ出してくれればよい、とでも思っていたのか。
彼の覚悟を舐めていた。
だけど。
私のティムへの愛も、舐めないでもらいたい。
注意深くジョセフを見る。悔しいことに相変わらずのポーカーフェイスだ。
「…私が必要、なのね?」
「ここで、君以外を連れだしたら、せっかくの努力が水の泡になるね」
私を挑発するような発言。
あぁ、彼も、勝負に出てる。
なら、私だって受けてたつのみ。
なら、出るわ、と返事をする前に、ティムが私の手を強く握った。
ティムを見ると、いつものように優しい目をして私に微笑む。
「それなら、そのパーティには私も出よう」
有無を言わさぬ発言。
私もジョセフもティムを見る。
ここ最近パーティには勿論、商会にですら顔を出していない。
私とカフェに行くくらいで、外出はほぼしていない。
「だ、大丈夫よ、ティム。
私なら平気、だから」
ティムの手を両手で持ってティムを見ても、彼は微笑むだけで、その視線はジョセフを見ている。
発言を撤回するつもりがない、とその視線の強さが物語っている。
「ティム、無理しないでくれ。
俺達が、何のために行動しているのか思い出してくれ」
「なら、私も出るわ」
焦った声音のジョセフに被せるようにマリアさんも口を開いた。
「マリアさんも…?」
私は半ば疑問形で。
「…マリア…」
半ば呆然とした顔でジョセフがマリアさんを見る。
「二人の公の場でのお披露目。
フォローが多ければ多い程良いわ。
ねぇ、ティム?」
有無を言わせない口調。
ティムは渋々とした様子で頷くのを確かめてから、マリアさんは決まりね、と言いたげに口角を上げる。
先ほどまでの穏やかな晩餐とはうって変わり、私もジョセフも気まずい雰囲気に口を閉ざす。
「3週間後、ね。
あら、じゃ、ドレスを選ばないと。楽しみね、アシュリーちゃん」
場違いなほどにマリアさんの楽し気な声が、部屋に響いた。




