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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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私じゃない私の話2

「当然だけど、君は赤ん坊だった。

通りすがったときに、君は私を見て笑ってくれた。

それで、終わりだと思っていた。

僕が覚えていても、君は、忘れている、と」


そこまで話しティムはコップから水を飲む。



「赤ちゃんだったのに、私だって分かったの?」


私は疑問を挟む。

私を見つけたのは、移動しなくてはと思ったから。

多分、理由なんてないのだろう。


「あぁ、なんていうのだろうか。

何が、とか説明できないのだけど、君だ、と確信を持っていた。

それからは、たまにその町に行って遠くから君を見ていた。

君が幸せになってくれていると良い、と思って。

ある日、君と目が合った。

君は、僕の名前を呼びながら走ってきた」


「私たちが出会った時みたいに?」


その場面を思い出したのだろう、ティムはとても嬉しそうな顔をして頷く。


「あぁ。あの時みたいに。

だけど違ったのは、君は全部覚えていたことだ。

全部、とは言えないがほぼ覚えていた。

僕の名前も、出会ったことも、勿論恋人だったことも」


「その時の私は何歳だったの?」


「まだ小さかったよ。

本当に子供の年齢だった。

だから、当然だが困惑したし、いや、正直言って困ったよ。

いくら彼女が君でも、子供だったしね。

彼女には、小さい頃から昔の記憶があったそうだ。

だから、彼女の両親も全て知っていた。

知っていて不思議に思っていたそうだ。

彼女が誰かをずっと探している、のをね。

彼女が大人と言われる年齢になるまで待って、僕たちはまた付き合いだした、というか彼女の勢いに押された、というほうが正しいかもしれない」


組んでいた手を伸ばす。

きっと子供の私はかなり我儘を言って彼を困らせたのだろう。

思い出し笑いをしているその顔は、ちょっとだけ苦笑しているから。


「その私は寿命で死んだの?」


ティムは頷く。


「あの当時の人の寿命でいうなら、普通だったと思う。

多分、最初の君が流行り病であっという間に亡くなってしまって、僕もそうだったけど、君にも未練があったから記憶が魂に刻まれたのではないか、と仲間が言った。

そうなのだろう、と僕も思った。

だから、次はないだろう、そう、思っていた」


2回目の私は、結構大胆な子だったらしい。

魂に刻まれた、うーん、よく分からない。

でもそうなのかもしれない。

私だって記憶になくても、感情で覚えていた。


「3回目の君を見つけたのも、最初の時と一緒で、何となく移動しなくてはと思って移動した町で、君がいた。

もしかしたら、また覚えてくれているかもしれない、と期待した自分もいたのは否めない。

でも、もう赤ん坊ではなく、子供だった。

子供といっても、そんな小さな年齢ではなかったから、驚いた。

もう、随分と時間も経っていたから仕方ないのかもしれないと思った。

それと同時に、もう、本当にこれでお終いだろうと思っていた。

3回目の君は、僕と目が合った瞬間までは僕の事を覚えていなかった」


「また、前と同じように遠くから見ていた、だけだったの?」


「そうだね、君が、大人と言われる年齢になったときに君の側を通り過ぎた。

それで君が気が付かなければ、君との縁はそれで終わったのだと。

そう何度もそんな事あるわけがない、と思っていたのもあるしね。

でも、少しの期待も、あった」


「でも、私は気が付いた。

この前のように。そうでしょ?

じゃぁ、今回は更に時間が経ってしまったからなの?

私は、もっと前に出会いたかったのに。

もっと前に出会って、もっとずっと一緒に居たかったのに」


ティムはどこか痛むような顔をしながら微笑んだ。


「…そうだね、私も、もっと前に君と出会いたかったよ」


そう呟いたティムの声音が弱弱しくて、私は急いで話題を変えた。


「いいの、今、一緒に居る方が大事だから気にしないで。

ねぇ、それより今度の週末に一緒にブランチしに行こう?

久々に二人でお出かけしたいの」


「そうだね、二人で出かけよう。

楽しみだね」


そう、今が大事だから。

この瞬間瞬間を大切にしたい。


週末に、二人でブランチの約束。


約束が出来る人がいるのは、本当に幸運な事だと思う。

籠の中でも、構わない。

誰に何と言われようと、私がティムを選んだのだから。

その覚悟を、私はもっと、きちんと自覚していかなくてはいけない。


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