私じゃない私の話1
色々と渦巻いていた思いが落ち着つくと、いつもの自分に戻れた気がした。
だから、私は勇気を出して聞いてみることにしたのだ。
もっとティムを理解するために。
私が何者であったのか、知りたいから。
前の私よりも、今の私のほうがもっと素敵だと思ってもらいたいから。
ううん、前の私よりも、今の私のほうをもっと好きになってもらいたいから。
ティムの目に写る私は、いつだって魅力的でいたいから。
「ねぇ、ティム。
さっき、マリアさんがいたときに言ってくれたよね?
僕は君を幸せに出来てるかいって。
私は?私は貴方を幸せに出来ている?」
ティムは驚いたという顔で私をみて、笑う
「勿論だよ。
アシュリーがいない人生なんて、もう僕には考えられない。
君が側にいると思うだけで、毎日がこんなにも嬉しい。
あぁ、でも」
ティムが言葉を区切った。
辛そうな顔をする。
私では、幸せに出来てないのか、と胸が痛くなる。
「…。
そうだな、だけど僕は君に申し訳ない、という思いだってあるんだ。
僕は、こんなに老いている。
それに比べて君は、まだまだ若い。
だから、心苦しい。
それなのに、君を手放せそうにない。
こんな年になって、とも思う。
あさましいとも」
苦笑して俯きながらティムの告白は続く。
「昔なら、僕と君、二人だけの世界で完結出来たのに、今の世の中ではそうもいかない。歯痒い思いを君にさせてると思う。
それでも幸いなことに協力者が沢山いてくれている。
別に僕は自分の醜聞なんて気にしないのだが。
だが、そうすることによって、君まで醜聞に塗れるのは耐え難い。
本来であれば僕が君を守りたいのに、君に守られているのは少々、いやとても情けないと思っているよ。
僕を思っての行動だと分かっている、だから、悔しいが甘んじて受け入れているのだよ」
ティムは一つ小さなため息を吐いた。
ティムも、もどかしい思いを抱いているのだろう。
私と同じように。
「私、ティムに会うまで、ティムの事忘れていたわ。
現に今だって、この感情以外は思い出せないの。
…私は、前の私は、ティムの事覚えていたの?
私は、何人目の、私、なの?」
ティムが目を瞠って私を見る。
前の私の事を聞くのは、何となくタブーのような感じがして聞けなかったし、ティムも言わなかったから。
でも、これを聞かないと、きっと私も前に進めない。
「…4回、生まれ変わっているね。
一つ目の時、君はやっぱりアシュリーだった。
僕と出会って、君に恋して。とても幸せだった」
懐かしむような、愛おしむような眼差しは、過去の私を脳裏にうつしてる。
「君は、流行り病で呆気なく亡くなってしまった。
悲しんだけど、僕たちに比べたら人は弱いから。
寿命も短いから。
皆が仕方ないと、そういった。
君が亡くなって、しばらくして。
移動しなくては、と思った。
理由は分からなかったが、とにかくそれまで住んでいた街を出た。
そして移動した町で、君がいた。
君は、まだ小さな赤ん坊だった。僕は、君が好きだったから、君が生きていてくれているだけで嬉しかった」
私は黙って話の続きをまった。
私じゃない私の話。
私じゃない、私が、ティムの恋人だった話。
面白いか、面白くないかと聞かれたら、面白くない話だと思う。
だけど、それとは別に、純粋に興味があった。
「私」は、一体どんな人間だったのだろう。




