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さようなら、また会う日まで  作者: たま


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守りたい思いは一緒

部屋の中が凍り付いたように、誰も身動きしない。

ソファアに縫い付けられたように座るジョセフを見て、少しだけ同情する。

青ざめた顔したマリアさんは、それでも果敢に顔を上げた。


「ねぇ、ティム。

貴方はそれでいいかもしれない。

でも、じゃ、アシュリーちゃんは?

彼女はどうなるの?

思い出して。

貴方が最初に私たちに言っていたことは何?」


ティムの目を探るように、マリアさんが問う。

その問いに、ティムが一瞬体を強張らせた。

そんな、ティムに衝撃を与えるような発言だったのだろうか。

ティムの顔を見ると、眉間にしわを寄せて、唇を引き結んでいる。


最初に言っていたこと、とは何だろう。

私に会う前、の事みたいだ。

何を言っていたのだろうか。


「…そうか、そうだな…」


ティムが力なくそう呟いて肩を落とした。


「ゴシップ紙に騒がれるのは、本意ではないだろう?

きっとアシュリーが傷つくことが沢山あるはずだ。

私は、アシュリーにそんな思いをさせたくないんだ。

私の為に、そんな煩わしい事に関わってもらいたくないんだ。

そんな無理をさせるために、会ったわけじゃないんだ…」


その横顔があまりにも寂しそうで、申し訳なさそうで、切なくなる。

でも、きっと守りたいものは、一緒。

私も、同じ。

だから。


「ねぇ、ティム。

私にも、何が最善なのかなんて分からないのだけど、少なくとも貴方の近辺が騒がしくなることは今の貴方に良いことだとは思わないの。

貴方が私を守らないなんて思ってないわ。

でも、貴方が私を守ってくれるように、私も貴方を守りたいの。

貴方を守れるなら、ゴシップ紙だろうが何だろうが、大丈夫。

私なら平気よ。ティム、貴方が私の側にいてくれるなら」


真摯に伝えると、ティムは私を見てからジョセフを見た。


「いいか、矢面に立たせるなよ。

それが、条件だ。

それが守れないのなら、譲歩できない」


ティムのその視線は、まさに射抜く視線というほど強いものだったけど、ジョセフはそれを平然と受け止めた。

先ほどの、叱られた子供のような雰囲気からガラリと変わる。

それは、きっとジョセフの覚悟なのだろう。

伊達にブラッドリー商会の後継者ではない。

海千山千の取引先と交渉を重ねてきた自信もあるのだろう、仕事をしてきた男の顔だった。


「元よりそのつもりだよ。

彼女はなるべく表舞台にたたせないように行動するつもりだけど、必要があればお願いする。

だが、迷惑をかけないように留意するし、それこそ立場も利用する。

どんな手を使ってでも、出来ることはやるつもりだ。

ティムを悲しませるために、こんな事を提案したわけじゃないんだ」


「これ、が昨日言っていた話したいこと、か?ジョセフ?」


なら、話は終わりだ、帰れ。

視線で退出を促すと、拍子抜けするくらいあっさりとマリアさんとジョセフは帰っていった。


ようやく、二人きりだ。

張りつめていた糸が切れるように、雰囲気が甘くなる。


「本当なら、君にそんな思いをさせたくなかった。

すまない…」


「いいの、ティム。

ねぇ、最初にマリアさん達になんて言ってたの?

会う前?」


「私の最愛の人を見つけた、と、言っただけだよ」


優しいティムの返事。

少しだけやそ細った長い指。

少しだけグレイヘアになった髪は綺麗にオールバックにセットされている。

落ち着いた話し方は、穏やかに私の耳をうつ。

確かに、見た目だけなら年齢差があるだろう今の私達。


「貴方を見つけられて良かった」


一分一秒たりとも離れたくない。


「アシュリー」


そう私の名前を呼ぶティムの声が、愛しくて。

だけど、現実、というのもある。

そう、現実。

明日はよい。日曜日だから。

だけど、明後日からは仕事が始まる。

自分の部屋にも戻らないといけない。

今後をどうするか。


「ここに、住んでも良いの?」


「もちろんだよ、アシュリー。

私のものは、全て、君のものだ」



「全部はいらないわ、私が欲しいのはティムだけだから。

でも、引っ越す準備しないと」


「人手が必要なら、ジョセフにでも言えばいい。

あいつなら…明日も朝から来るだろうし」


どうやらジョセフは毎日のようにティムの顔を見にくるようだ。


「ジョセフの部屋もあるって、そういえば昨日言っていたわ」


「あぁ、その通り。仕方ない奴だよ、まだまだ私には甘えたい子供なんだ。

ジョセフはジョセフで家があるけれど、今までほとんど私の家で寝泊まりしているからね」


そういったティムの顔も、マリアさんと同じ子供に言うような口調で笑ってしまう。

それをどう思ったのか、ティムは苦笑しながら言う。


「今、あまり顔を見たくはないがね。

それが生意気にも私のアシュリーに仮とはいえ恋人役をするなんてね」


視線を合わせて二人で笑う。

こんな優しい穏やかな時間が、これから毎日続いていく。

なんて幸運なのだろうか。

自分の幸せが信じられないくらいだ。


「明日にでも、引っ越すわ。

ジョセフに少し、手伝ってもらう。

なにせ、私の表の恋人なんだから。

ふふ、きっとブラッドリー商会の後継者を引っ越しの手伝いに使うなんて、皆びっくりするわね」


今住んでいるフラットを紹介してくれたのは、編集長のロドニーだ。

2週間前に退去の報告をすればよい、など、フラットに入居した時の条件を思い出す。

部屋は家具付きだったから、特に大きな運ぶものはないのが有難い。


嵐の前の静けさ。

私とティムは二人の時間を楽しんだ。


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