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71話 名工ザーク

毎日投稿二日目

「まずはどちらへ行きますか?」


「そうだな……、とりあえずレオの刀を先に渡したい。有名だとか言ってた武器屋へ頼もうか」


「かしこまりました!」


 馬車は多くの人々、いや人だけではなく様々な種族の生き物が行き交う街を走る。

 明確な歩道と車道の仕切りはないが、自然と開かれる道に貴族としての威厳を感じると同時に、少し申し訳なかった。


「その「カタナ」っていうのは黒服の方が持っている剣の事ですか?」


「あァそうだぜ。これは俺の国では魂ともされる武器だ」


 日本刀とこの世界のような中世の剣ではその目的が大きく異なる。


 日本刀は限界まで研ぎ澄まされた斬れ味による斬撃が主だが、全身フルプレートアーマーの相手には刃が負ける。

 その為この世界ではアルガーが使っていたような大剣で、相手の鎧ごと叩き切る戦い方が主流である。


 それだけに、不利な日本刀とこの世界で新たに手に入れた慣れない技で戦う歳三の適応力の高さはまさに天賦の才だろう。


 もちろん、兵士たちの訓練を終えた後、人知れずどこかへ修行に出かけているのも知っている。

 ……いや、女を引っかけに行ってるだけかもしれないが。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「───着きました!ここが武具屋シュヴェールトです!私はここでお待ちしているので、ごゆっくりどうぞ!」


 馬車は大きな工房の前に止まった。天まで高く登る煙突からはモクモクと煙が上がっていた。


「……そうだ、君の名前は?」


「私ですか?私はケイルです!」


「ありがとうケイル。また後で」


 私たちはケイルを置いて、周りの店と違いショーウィンドウもない無骨なレンガ造りの武具屋へと足を踏み入れた。




「こんにちは〜……」


 店に入り奥を見たが、カウンターに人の姿はなかった。


 壁には豪華な装飾が施された刀剣や鎧が並べられている。

 それらとは対照的に、床に乱雑に置かれた空き樽の中には大量のシンプルな剣が入っていた。


「ほう……、コイツは……」


 歳三が樽の中から一本の剣をガチャリと取り出した。鉄を打っただけのような鈍い灰色のその剣は、明らかに壁の刀剣とは見劣りしていた。


「───なんだ?盗みか?」


 剣がぶつかる音を聞きつけたのか、奥から一人の男が出てきた。

 歳三の腰ほどの身長でふくよかな体型。それでいて腕は筋肉で異常に太い。


 そう、帝国を代表する武具屋の店主とはドワーフであった。


「えっと……、あなたがザークさんで間違いないですか?」


「だったらなんだ。ここは貴族の奴らにしか売らねぇ。……いや、本当はあんな奴らにも失敗作の一つも作ってやりたくなんかねぇがよ……」


「一応私は貴族の端くれですが……」


「名前は?」


「レオ=ウィルフリードと申します」


 私の名前を聞いて、ザークは髭をワシワシと触りながら左上を見た。


「あぁ、そういやそんなのが皇都へ来てる噂があったな。……それじゃあ何でもいいからそこらにあるやつを買って早く帰れ。俺は暇じゃねぇんだ」


 そう言うとザークはカウンターへ戻り、人間の高さまで目線を持ってくるための高い椅子によじ登った。

 太い腕を組み、何も言わずじっとこちらを見ている。


「なァ、なんでこんなのをここに置いてるんだ?」


 すぐに沈黙を破ったのは歳三だった。

 手には酷い出来栄えの剣を持っている。とても名工を名乗るには及ばない作品だ。


「俺の店だ。失敗作を売ろうが俺の勝手だろう。帝国の偉い奴らに半ば脅されてここで武器を作ってるんだ。作ってやってるだけ有難く思いやがれ」


 職人気質、と言ってしまえばそれで済むのだろうが、あまりの振る舞いに私はほんの少しだけ苛立ちを覚えた。

 だが帝国の人間として、帝国が亜人たちへどのような仕打ちをしてきたか考えれば、それを口に出すことはできなかった。


 王国ほどじゃない、と帝国は言う。確かにファルンホルスの正教会は人間至上主義で、亜人・獣人への差別は酷いと聞く。

 だが、彼らへ不等な扱いをしているという意味では五十歩百歩に過ぎない。


「いや、そうじゃねェ。───レオ、お前の剣を出してみろ」


「え?あ、あぁ」


 突然のことに戸惑ったが、私は言われるままに剣を抜いた。

 剣には微かに盗賊の血が跳ねていた。


「…………いやまさか、おい歳三!それはいくらなんでも!」


 鬼の土方と言えどそれは短気すぎるだろ!

 そう言おうとした刹那だった。


 カラン!


 一瞬の出来事だった。その光景を私は理解できなかった。


 目の前にあったのは、歳三が振り下ろしたボロい剣。床には私の短剣の先が転がっていた。


「なァ、これは本当に失敗作か?」


 剣と剣がぶつかり合う金属音もなく、ただ床に短剣の先が落ちる音だけが響いていたのだ。


「…………話を聞こうか」


 ザークは椅子から降り再びこちらまで出てきた。


「単純な疑問なんだが、どうしてあんななまくらを装飾して業物をこんな所に置いてんだ?」


「そこまでお見通しって訳か。……旦那、何もんだ?」


 彼の私たちを見る目が明らかに変わった。


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