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5話 英雄召喚

 郊外にある教会と違い、広場にはすぐについた。辺りには警備の衛兵たちがいつもより多く配置されており、セレモニーの準備が着々と進められていた。


 

 

「おはようございますウルツ様」

 

「おぉアルガー、今日はよろしく頼んだぞ!」

 

 一般の衛兵より良い装備をした彼はウィルフリード軍の副将をしている。つまりは父の補佐官だ。

 

 彼は農民の出身でこの地位まで登りつめた叩きあげだ。一般人の中では最高の階級にあたる。

 

 貴族の最下位である騎士から登りつめた父と境遇が似ていて、気が合うのだろう。頼れる上司と部下だけでなく、一人の男同士として良き関係を築いている。

 

「レオ様、本日はお誕生日おめでとうございます」

 

「ありがとうアルガー」

 

 戦場では父と肩を並べる猛将と聞くが、自分からすると叔父のような存在でもある。

 

 昔からよく酒を持って父を尋ねることもあり、私とも顔見知りなのだ。

 

「そういえばアルガー、ファリアのことだが……」

 

「えぇ、私の方でも調べさせましたが、あの隣の領主のところは……」

 

 何やらお仕事の話らしい。


 

 反乱の恐れがあるというのはよく聞く噂だが、戦時でない帝国は一枚岩とはかけ離れているらしい。

 

 皇族の中でも派閥が別れているらしく、情勢はかなり複雑だ。

 

 凡愚であるとされ皇位継承権を失った第一皇子を復権させ権力にあやかろうとする第一皇子派。皇帝の寵愛を受け、天賦の才があると噂される次期皇帝の第二皇子派。

 

 そして皇位継承権はないが、実は第二皇子よりも優秀と言われる皇女派。彼女は私と同い年らしいので、権力闘争に巻き込まれることなく平穏に暮らして欲しいと密かに願う。

 


 

「レオ、こっちへいらっしゃい」

 

 子供には難しい話だと気を利かせた母が私を呼んだ。

 

「なんでしょうか?」

 

 母の手には装飾された小さな箱があった。

 

「本当はこれが終わってから渡そうと思っていたんだけど、お守り代わりに先に渡しておくわ」

 

 そう言い蓋を開けると中から美しい銀のブレスレットが現れた。中央には何やら宝石が装飾されている。

 

「これは魔法石と言ってね、少しずつだけどこの中に魔力が蓄積されるの。きっとピンチの時あなたを助けてくれるわ」

 

 手首につけると、ずっしりとした重みと、不思議な温かさを感じた。

 

「ありがとうございます母上」

 

 

 セレモニーが始まるまでの数時間の間、父と母は打ち合わせをしていた。私も心の中で何度もスピーチの練習をした。

 

 あくまでも子供らしく、しかし将来に期待できる時期領主としての鱗片を感じさせるスピーチ。

 



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 

「さぁ、そろそろ行こうか」

 

 もう既に民たちも集まってきていた。来賓の席には中小貴族たちの姿も見える。


 父に呼ばれて広場に仮設された台座まで連れられた。いよいよ始まるのだ。

 

 私と父が位置についたのを見た母が、手を掲げ合図を出した。

 

 衛兵たちは気をつけの姿勢をとり、軍楽隊のもの達は一斉にファンファーレを演奏した。

 

「諸君、今日はお集まりいただき感謝する!」

 

 父が話し始めると、どこからともなく歓声と拍手が巻き起こった。父が領民に信頼されているのがよく分かる。

 

「今日この日を持って、レオ=ウィルフリードはウィルフリード家次期当主として認められたことを宣言する!」

 

 先程よりも遥かに大きい歓声が沸き起こった。

 

「元服を迎え、しかる時が来れば、このウィルフリードを守るのはここにいる我が息子である!」

 

 そう手で指し示された私は思わず背がピンと伸びた。

 

「それでは、次期当主レオ=ウィルフリードの挨拶だ!静粛に聞くように!」

 

 当然マイクなどない。私はこの場にいる全員に聞こえるように声を張って話始めた。

 



「皆さま、改めて本日はお集まりいただきありがとうございます。紹介に預かりました、私がレオ=ウィルフリード。次期当主となる者です!」

 

 私がそう宣言すると、座っていた貴族たちも一斉に立ち上がり、拍手喝采が起こった。

 

 この宣言を持って、事実上、彼らより私の地位が上になったからだ。

 

「このウィルフリード領は父と母の治世の元、大きく発展しました。彼らがいる以上、この街には平和と安寧が約束されるでしょう!それは私の代でも同じです。帝国万歳!ウィルフリード万歳!」

 

 大衆を先導するのに最も有用なのはナショナリズムだ。自分の帰属するところが他よりも優位だと思うと、自分まで恵まれていると思い込むからだ。

 

 完璧と思われるスピーチが終わり、第一の関門は突破した。



 

 第二の関門こそが最大の問題だ。

 

「それでは、次期当主の実力を示すべく、神より授かったスキルの披露となる!準備はいいな?」

 

「はい。いつでも大丈夫です」

 

 大きく息を吸う。

 

「よし、ではそのスキル『英雄召喚』を見せてみろ!」

 

 スキルの名前を聞いた民たちは畏怖とも感動とも思える、「おぉ……」という声が漏れたが、貴族たちには明らかに動揺が走っていた。

 

 誰も知らないスキル『英雄召喚』。

 

 召喚スキルの使い方は既に学んでいる。私は手を前に突き出し、息を整え静かに唱えた。



 

「『英雄召喚』……!」

 

 すると次の瞬間、先程母に貰った魔石付ブレスレットが光を放ち始めた。私は思わず目を細める。



 

 その光に飲み込まれた私は、目を開けると、一人、真っ白な世界にいた。

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