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4話 不安

 誰かが扉を叩く音で目が覚めた。

 

「レオ様おはようございます。準備があるのでお早めにお食事をどうぞ」

 

 扉を開けるとマリエッタが待っていた。

 

「おはよう、マリエッタ」

 

「おはようございます、そしてお誕生日おめでとうございます」

 

 普段はあまり笑わない、現代でいえばバリバリ仕事をこなすキャリアウーマンのような彼女も、そういい珍しく微笑んでくれた。

 

「ありがとう。父上たちはもう?」

 

「はい、食事の席でお待ちになっております」

 

 なるほど、それは急いだ方が良さそうだ。二日連続遅刻とあっては父も流石に許してくれまい。

 

 戦場での遅れは命取りだ。騎士として名を挙げた父の行動原理はそこにある。

 

 

 

「おはようございます父上、母上」

 

 父と母は既にナプキンをかけ準備が出来ていた。それぞれの前には料理が並べられている。

 

 今日はシェフが腕によりをかけて作ったであろうきらびやかな朝食だ。

 

「お誕生日おめでとう!レオ!」

 

「おめでとう」

 

 私の顔を見るなり、二人は口を揃えてそう言った。

 

「ありがとうございます!」

 

 笑顔でそう応じ、早速料理に手をつけた。

 

 父も食べながらに今日の予定を教えてくれた。

 

「いいかい、今日はまず中央広場で正式な後継者としてレオを発表する式典を行う」

 

 医療技術のあってないようなこの世界では、やはり子供の死亡率は高いものだ。それは治癒魔法を受けれる貴族や騎士にも多少マシとは言え、同じく言えることだった。

 

 それに生まれた時から後継者を決めていると、跡目争いで混乱が生じることもある。その為、後継者には産まれた順番に関わらずその優秀さによって決まる。

 

 それはその人が持つスキルや人間性から判断され、場合によっては廃されることもある。

 

 実力主義の帝国ではそれが長年の習わしだ。

 

 もっとも、私は一人っ子の為、このウィルフリード家を継ぐのは自分しかいない。

 

 

「そしてそのあとはレオの挨拶だ。時期領主として民に演説をする」

 

「演説と言っても子供の発表なのだから、そんなに緊張することはないわよ」

 

 母も、少しでも緊張を和らげようとすかさずフォローする。

 

 別に選挙前の政治家のように立派な演説をする必要は無い。しかし人前に立ち話をすることも出来ないようでは、時期領主は務まらないと見放されるだろう。

 

 

「最後にスキルの披露がある訳だが……」

 

 それが最大の問題だ。この『英雄召喚』とい謎のスキルが一体どんな特殊能力なのか。

 

 恐らく『英雄召喚』は、人材に関わる母の能力と、父の召喚系の両方を引き継いでいる。

 

 だが、人を召喚するという形式のスキルは存在しない。魔導師が契約した使い魔を召喚する程度がやっとだ。

 

 強力なものを召喚するとなると、術者の消費魔力も比例して増える。よって、人間、ましてや英雄と呼ばれる存在を召喚するなど出来ないだろう。

 

 少なくとも召喚自体が高位の術であるため、魔力のない自分には無理だ。使えない能力が授けられるのはおかしい。

 


「まぁ、男には進むことしか出来ないこともある。レオ、なるようになるさ!」

 

「そうよ、きっとあなただけに使えるスキルなのよ」

 

 やってみないことにはどうしようもないというのが結局のところだ。

 

 食事も終わり、いよいよその時が近づいてきた。

 

「レオ様、お着替えをお部屋にご用意しました。お食事が済みましたらそちらに着替えてください。着替えに手伝いが必要であればお声がけください」

 

「ありがとう。ご馳走様でした」

 

 

 

 自室に戻ると、上下黒の燕尾服のようなものと、金や赤の糸で刺繍が施されたジャケットが置いてあった。

 

 胸元には公爵を表す紋様が描かれていた。これを着るものがウィルフリード公爵家の次期当主という訳だ。

 

 父は元々下級貴族である騎士であった。しかし、そこからスキル『魔剣召喚』で成り上がり、数々の勲章と一般貴族最高の爵位を授けられた叩き上げだ。

 

 ウィルフリード家を継ぐからには、やはり戦場での活躍が期待されるのだろう。

 

 ベルトを通しジャケットを羽織ると、そのズッシリとした重みが全身にのしかかった。

 

 

 

「レオ様、出発の時間になりました」

 

「すぐ行くよ!」

 

 何を言おうか部屋の中をグルグル徘徊しながら考えていた。

 

 これは私が公的な場に出る最初の一歩に過ぎない。これからは社交界に放り出され、他の貴族や場合によっては皇族の方とも関わることになる。

 

 今日だって、ウィルフリードと関わりの強いいくつかの下級貴族は挨拶に来るだろう。

 私は覚悟を決め部屋から飛び出した。

 

 玄関を出ると、既に馬車が用意されており、従僕や御者が荷物の詰め込みをしていた。

 

 間もなくして父と母も出てきた。

 

「さぁ行こうか!」

 

 晴れやかな笑顔を見せる父の胸元には沢山の勲章が並んでいた。軍服では無く正装を着ている父は中々新鮮でよかった。

 

「忘れ物はないわね?それじゃあ行きましょう!」

 

 母は白の美しいドレスとファーの付いた帽子を被っていた。身長が高くスタイルも良い母はより一層魅力的に見えた。

 

 母の着替えを手伝っていたであろうマリエッタらメイドたちも見送りに出てきてくれた。

 

「行ってらっしゃいませ。レオ様……その……応援しております」

 

 

「ありがとう!それじゃあ行ってまいります!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王道をなぞったハズレのない展開 [気になる点] もう少し差別加部分に力を入れてほしい
2021/11/07 20:49 退会済み
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