249話 両雄並び立たず
「中戦車の攻撃で装甲化オークを撃破しました! 75mm砲は有効です!」
「トロールに比べればオークはそれほど強くない。せいぜい50mmがいいとこだ」
「しかし投石が直撃した軽戦車が複数撃破及び戦闘不能に追い込まれています」
「……鎧を着込んでもより強力な攻撃にはやられる。それは同じことだ」
敵が死に、味方も死ぬ。敵がモンスターだろうが、ひとつの命ということには変わりない。
『──レオ、こちらも準備完了しました。後の指揮は引き継ぎます』
「了解だ孔明。では予定通り私はこちらの指示のみ出す」
『はい。それでは……』
遅延や電波の関係上、ギリギリまで前線に近付いて司令所を設置することが望まれる。無線と合わせて有線の通信手段も確保済みではある。
「歩兵師団も展開し、安定した戦線の確保と中戦車部隊による敵陣深くへの攻撃が行われています」
「こちらは計画通り。……次はあちらのターンだ」
「──敵に航空戦力! 魔人率いるワイバーン部隊が出現しました!」
しばらく地上部隊の戦闘が拮抗していると、航空隊からの映像を見ると、暗い霧に混じって空を埋め尽くす黒い敵影が蠢いていた。
『上空で待機していた戦闘機隊は制空戦闘へ移行してください。地上特火大隊、対空部隊は地対空戦闘用意』
魔人に対して戦闘機がどれほど有効か分からない。だから少しでも戦いを優位に進めるため高度優位を先に稼いでおいたのだ。
『こちら第一航空戦隊了解。制空戦闘に入る』
『自走対空砲部隊前線に到着。攻撃を開始する』
「牽引式大口径対空砲は現在前進中」
リーダー機からの映像がモニターに映される。
ワイバーンが察知できない遥か上空から降り注ぐ戦闘機と弾丸の雨に、次々と空が晴れていく。地上からの対空砲火との挟み撃ちにワイバーンは為す術なく撃ち落とされていくのだった。
「うわっ……」
ワイバーンの死体が次々に降り注ぐ地上部隊の映像に切り替わる。
「気持ち悪いでござるな……」
「これでも砲弾よりはだいぶマシだ。死にはしないからな」
これでワイバーンから攻撃されることもない。強いとは言わないが対抗手段が少なく厄介な敵を排除できた意義は大きい。
『被撃破無し! 制空権確保しました』
『では対地攻撃に移行。攻撃機隊は近接航空支援を開始してください。後方で待機していた爆撃機隊は魔王領領空に侵入し爆撃を』
『こちら爆撃機隊了解。爆撃を行う』
『地上対空砲部隊も対地攻撃に切り替えます』
ここまで順調だと逆に心配になるほどの出来だった。大体事前のシュミレーション通り進行しており、全て先手で対処できている。
だがそう全てが上手くいくはずもなかった。
『──高度2000、方位30に敵影あり! 爆撃中止! 爆撃機が襲撃されています!』
『直掩戦闘機隊は爆撃機の防衛を!』
しかし孔明の指揮も虚しく巨大な爆撃機は火を噴きながら墜落していく。
『駄目だ! 防護機銃が当たらない!』
『戦闘機の機動力を上回っている! ワイバーンとは比べ物にならない! なんなんだあれは!』
「……魔人、か」
竜人も恐れる魔人の空中戦闘能力。前回の戦いでは確かめきれなかった部分で遂に敵が上回ってきた。
「地上にも魔人です! あれはマタサでしょうか……!」
「来たな、前田利家!」
マタサの槍の一突きで中戦車は次々に一撃爆散していく。戦車の装甲の最も薄い天板を、魔力の込めた槍でいとも容易く貫いているのだ。
「──! レオ様あれは!?」
「は……? あれは……龍か……?」
戦闘機隊からの映像には、淡緑色に輝く、信長の髑髏武者のように凝縮した魔力で型どっていると思われる龍の姿が映し出されていた。
龍は鈍重な爆撃機を呑み込み、赤子の手をひねるかのように爆撃機を叩き落していった。
「地上部隊からの映像にも新たな魔人です!」
「こっちは……虎か……?」
体高が五メートルはあるだろう真っ赤な虎は騎兵隊を薙ぎ払い、戦車隊を踏み潰していく。
「──! ……そうか、そういう事か織田信長!」
「何か分かったのですか!?」
「空にいるのは越後の龍、上杉謙信! 地上が甲斐の虎、武田信玄だ!」
「申し訳ございません! そのような名前の魔人らは存じ上げません!」
「ああ、知らないだろうさ……。私も知らなかった! 魔王が織田家臣団に限らず全ての武将を呼び出せるとはな!」
冷静に考えれば気付けたはずだ。私だって時代も国も違う英雄たちを召喚しているのだ。
織田信長にとってしてみれば、彼が思いつく強力な人物といえば群雄割拠の戦国時代を共に生き抜いた諸将である。
「任せたぞ! 歳三! ハオラン!」
『対魔人特殊作戦部隊を投入します! 速やかに脅威の排除を!』
『了解だぜ』
『了解』
特殊作戦部隊を刷新した対魔人特殊作戦部隊、通称対魔。
土方歳三を隊長に特殊作戦部隊をそのまま。そこに航空機の登場により立場を失った竜人たちを加えた魔人専門の特殊部隊である。
『行くぞお前ら! 戦闘開始だ!』




