248話 不朽の平和作戦
「レオ様、前線からの映像をご確認ください」
「ああ」
私は管制官にそう言われ、デッキから艦橋内の席に戻った。
艦橋内には魔導映像通信機によって受信された映像が無数のモニターに映し出されている。
全軍による突撃は何も無策という訳ではない。
無限の物量を誇る魔王軍に対して、兵器等の戦力によって勝るであろう私たちが一気に攻め立てるのは戦術として最善である。
「先行部隊は要塞化された第三区域から第四区域へ進出しました。今のところ事前の計画通りに進行しております。ええと……」
「“不朽の平和作戦”だ」
人類の願いを託したこの最後の戦い。二度とやり直すことはできない緻密な作戦を確実に遂行するため、軍の構造は前回から大幅に改革されている。
総軍100万、総帥レオ=フォン=プロメリトス。
この総軍とは別に、参謀本部500、長官諸葛孔明。特殊作戦部隊5万、隊長土方歳三。
軍は、海軍10万、元帥空席。空軍10万、元帥ハンス=ウルリッヒ・ルーデル。陸軍80万、元帥ナポレオン・ボナパルト。
海軍についてはほとんどが予備役である。実際に動いているのはこのレーヴァテインに搭乗している乗員3000名とその整備関係者だけだ。
空軍はルーデルや竜人はもちろん、開発された航空機部隊が主力となっている。
最終的にはレシプロ軽戦闘機、双発重戦闘機、攻撃機、軽爆撃機、重爆撃機の五種類が量産化された。
敵の航空戦力である魔人やワイバーン等々を駆逐し、陸軍に対して航空支援を行うことを主目標とする。
陸軍は2万×40個師団により運用され、大まかに歩兵師団、機甲師団、特火師団に分類される。
世界軍とはいえそれぞれ国の軍についてはその国の人間が行う。例えば帝国軍は大将にヘルムート=ヤーヴィス、王国軍はプリスタが統括する。
師団については少将が指揮を行い、例えば帝国軍第一師団の指揮はデアーグ=エアネスト、第二師団はミドラ=ホルニッセ……といった分類となっている。
「……三番モニターをご覧ください。先行の偵察部隊が散発的に接敵したようです」
「ふむ」
斥候として軽戦車と歩兵戦闘車からなる軽騎兵部隊を出している。
軽戦車は40mm戦車砲と7mm機関銃を装備し、10mmという紙装甲と引き換えに55km/hという快速を手に入れた。10mmと言ってもスケルトンの弓矢やリッチの魔法程度は十分抗堪しえる。だがオークの投石やトロールに対しては難があり、速やかな撤退が推奨される。
歩兵戦闘車には20mm機関砲を搭載し、車体後部には六名の武装兵士が輸送できるスペースがある。これにより確保した第四区域に陣地を敷設し後続部隊の援護をする。
「ゾンビとスケルトン……、駐留部隊か」
オークやトロールのような大型生物には当然食料のようなコストが掛かる。常に前線に配置するのは無駄が多い。
対してアンデット系モンスターは魔力のみがコストとなっており非常に経済的である。人間から見たら実に厄介だ。
「──第三連隊で沼地に足が取られ進軍停止しています。別の連隊でも進行不可能地域が確認されました」
「迂回して敵陣奥深くへ浸出しろ。沼地はこちらにとっても利がある。沼地手前に陣地を構築し砲撃支援に動け」
「了解しました。そのように指示を」
事前に地図などを作れなかったため、このような問題も発生する。三年間で偵察に送った部隊はことごとく壊滅したため地形情報の一切が手元にないのだ。
「第七連隊と第九連隊でエンジントラブル発生。整備中隊の到着まで進軍を停止します」
軽戦車は最初期に作ったものだ。エンジン黎明期に性能は二の次で数を用意したため次第にどこもこんな調子になるだろう。
だがさしたる問題はない。偵察と警戒、威力偵察と地形調査を強行するための部隊であり、戦闘は主任務ではない。
進軍を開始して一時間程経った頃、静かだった戦況に動きが現れた。
「──レオ様、先行部隊より入電! 敵に新戦力です!」
「なんだ?」
「オークです。ですが鎧を装備した装甲化オークです!」
「軽戦車はどうだ」
「装甲化オークと800mの距離で交戦中! しかし有効弾は見られないとのこと!」
「ふむ……」
軽戦車の小口径弾では傾斜装甲のように湾曲した鎧に無力である。
「続く中戦車部隊は速やかに対処せよ。配備中の砲兵と遅れる重戦車の到着まで待てその場所に前線を構築するのだ」
『歩兵隊、攻撃開始。工兵による陣地形成までの時間を稼げ』
機械化歩兵と随伴する歩兵砲や迫撃砲によるダイレクトサポートアーティーはスケルトンのような雑魚相手には役立つ。しかし装甲化された相手にはせめて対戦車砲や中戦車クラスの火力が欲しい。
「……さて、ここからが本番だ」




