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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜  作者: 駄作ハル
最終章

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245/263

241話 五人目の英雄

 私はヴァルターのせいで謁見の間があまり好きではないのだが、なんとなく儀式的なことはここでやる方が気が締まる。


「じゃあ、行ってくるよ」


「気をつけてね……」


 召喚を初めて見るエルシャは不安そうな顔で私を見守っている。

 見慣れた歳三と孔明は軽く微笑むほどの余裕を見せているが、ルーデルとナポレオンの二人は早く仕事に行きたそうにイライラしていた。


「ふぅ……。──『英雄召喚』!」


 禍々しい見た目の「暴食龍の邪眼」とは裏腹に、魔石から放たれる優しい白い光が私の全身を包み込んだ。









 目を開けると、そこはいつもの白い世界だった。


 あの白い光はこの白い世界の延長なのだろうか。この世界にはどれだけの時間いられるのだろうか。

 そんなことも考えながら、私は黙って手を前に伸ばした。


 どこからともなく現れるキーボード。

 私はそれを使い、彼の名前を入力した。


「……レオナルド・ダ・ヴィンチ」


 エンターキーを押すと目の前からキーボードが消え、代わりに奥の方に扉が現れていた。

 私は迷うことなく扉に手をかけ、向こうの世界に飛び込んだ。










 扉の向こうには石造りの簡素な家が立ち並ぶ片田舎であった。

 私はそのうちの一つ、扉が開いたままの家へ導かれるように足を踏み入れた。


「こんにちはー……」


 そう呼びかけても返事はなかった。

 しかし、奥の部屋まで歩みを進めると、豊かな白い髭を蓄えた男性がキャンバスに筆を滑らせている。


「貴方がレオナルド・ダ・ヴィンチですね?」


 ローブのような黒い服と帽子を被る彼は私の方を振り返ることなく、絵に向かい作業を続けた。


「……また貴族からの仕事かね?」


 そう言う彼の声は思ったよりも若いものだった。


「仕事、と言うとそうなるかもしれません」


「なら断ろう。ここでは好きなことができる。金に困ることもないし、腹が空くこともないからね」


「……ですが見たところ、ここには絵しかないようですが」


 私がそう指摘すると、彼は怪訝そうな顔でやっとこっちを振り返ってくれた。

 確かに彼は髭を生やしてはいるが、見たところ三十から四十代ほどに見えた。そして何より肖像画通りの美形であった。


「ここに来る時、一つだけしか持ち込むものを選べなかった。自分は絵を選んだだけさ」


 一つしか選べないというのは初耳である。


 そう考えると、歳三は刀を、孔明は本類を、ルーデルは軍服を、ナポレオンは馬を選んだということか。

 ルーデルが飛行機を選ばなかったのは、あの軍服とセットの腕章から考えるに自分のことよりも愛国心が勝ったのだろう。何もなくてもルーデルの大好きな運動はできる。


「しかし貴方の才能は絵だけではないでしょう」


「…………」


 モナリザや最後の晩餐を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチ。しかしその才能は留まるところを知らない。

「万能人」とも評される彼はルネサンス期を代表する天才だ。


「実は私は貴方が生きた時代よりもずっと先の時代を生きた人間なのです。……筆をお借りしても?」


「……どうぞ」


 私は彼から小筆を借り、山積みになっている新しいキャンバスを一つ机の上に置いた。

 そしてそこに、下手くそながらもそれなりの雰囲気のある飛行機の絵を描いて見せた。


「これは?」


「貴方が作ろうとした飛行機の完成形です」


「…………! どうやって動いているんだ!?」


「そうですね、詳しいことは私の部下から聞けますが、このプロペラと呼ばれる部品が回転することで推力を生み、それによって前進しこの翼から揚力が得られ──」


 思いの外食い付きが良かったので私は飛行機の説明をした後も他のものも紹介したくなった。


「もういくつかお見せしましょう。……これがヘリコプター、これが戦車です。……ああ、あとヘリコプターやさっきの飛行機にはこのようなマシンガンが載せられたりもしますよ」


 そのどれもが彼の天才的な発想力と豊富な物理学・航空力学の知識から、十五世紀に考案していたものである。

 その先見の明と言うべきか、まさに天から授かった才としか言いようがない能力は、後の時代に科学力の発展とともにじつげんされていったのだ。


「──三年間だけ、私の元で働いてはみませんか? その後は自由にやりたいことをやればいいです。……ああ、私が今いる世界は、地球とは違って亜人・獣人といった人間と獣のハーフであったり人間と少し異なる能力を持つ人々がいます。魔法というものも存在し、不思議な事象を引き起こします」


「それは!」


 レオナルド・ダ・ヴィンチは飽きっぽい性格だったとも言われている。

 しかしそれは、どの分野においても専門家レベルの知識を有していたがために、常に未知の分野への興味が尽きなかったからである。


 彼がまだ見ぬ世界、そして私の知る彼の知らない知識。

 それは彼を駆りたてるには十分であった。


「行かせてくれ! その世界に!」


「ふふ、では行きましょう。……おっと、自己紹介がまだでしたね。私はレオ=フォン=プロメリトスです。とある国の皇帝をしています。よろしくお願いしますね、レオナルド・ダ・ヴィンチさん」


 私が手を差し出すと、彼は迷いなくその手を掴み立ち上がった。


「これは失礼、皇帝陛下であられたとは。それと、ダ・ヴィンチとは「ヴィンチ村の」、という意味なので単にレオナルドで結構です」


「分かった、レオナルド。私のことも単にレオで結構だ。大層な身分を与えられてはいるが、才能においては君の足元にも及ばないよ」


「はは! 今度は面白い人と面白い世界が待っている!」


「きっと君は一生退屈することはない」


 私たちは微笑みを交わしながら、肩を並べて家の外、白い光の世界へ飛び込んだ。


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