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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜  作者: 駄作ハル
最終章

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242/263

238話 魔王[挿絵あり]

謝辞

友人作の手描きイラストあり。描いてくれた友人Kに感謝申し上げます。

「リッチの魔法は数こそ多いが威力は大したことない! こちらの魔法で相殺しろ!」


 ナポレオンの激励で、こちらの魔導師や魔法付与のできる弓兵たちが一瞬優勢を取った。

 この好機を逃さずルーデル率いる空軍が絨毯爆撃を行う。ここまで撃ち落とされず生き残っているのは皆揃って手練である。


「歳三! 正面のオークをやれ!」


「任せろ──『血桜』ァ!」


「爆撃が終わった! 孔明、暴風を起こせ!」


「了解しました! ──『暴風怒涛』!」


 追い風に背中を押され、私たちは更に加速し敵の陣中央を抉るよう深く攻め入った。


「うぉぉぉぉ!!!」







 五時間ほど経っただろうか。

 私たちは猛攻を続けたが、ナポレオンの『葡萄月将軍』があってしても部隊に息切れが見え始めた。


 だが私たちは第三区域を取り戻すことができた。多大な犠牲を払って。

 そして無限に湧き出る敵の後続部隊を叩くべく第四区域に攻め入り、魔王城を遥か遠くに、しかし確かにこの目に捉えた。


 そんな時だった。


「レオ様! 空が変でござる!」


 私の護衛としてピッタリ馬を付けていたサツキがそう言った。

 確かに見上げて見ると、霧がかって薄暗かった空が妖しく赤紫に染まっている。そしてまだそんな時間ではないというのに、魔王城の後ろには真っ赤な月が二つ、煌々と光を放っていた。


「孔明、どうなっている!?」


「私の天候操作ではありません!」


「なんだと……!?」


 その不穏な空気に、私は思わず馬を止めた。


「あ、あれはなんでしょうか……」


 タリオが朧げに影が浮かぶ魔王城の方を指差す。


 目を凝らすと、城の影に重なるように、一匹の青白い龍がとぐろを巻くようにしながら空へ駆け上がっていくのが見えた。


「あれはなんだハオラン! ドラゴンは魔王城に住んでるのか!?」


「知らん! あれは我らが信仰するドラゴンとは違う!」


 やがて魔王城の天守まで登りつめた龍は青白い焔を残して消えてしまった。

 そしてその跡には一人の人影があった。


「あれは……」


 翼がある訳でもないのに空を飛び続けるその人物はマントを翻し両手を広げた。

 その瞬間真っ赤な月には髑髏のような模様が浮かび上がるように光を増し、人物の全体が照らされた。


「注視せよ!」


 ナポレオンの号令で私の目に強力な身体強化魔法が掛けられ、視力が増強される。



挿絵(By みてみん)


 その人物は髪を髷に結い、銀色の鎧に身を包み、朱のマントを羽織っていた。鎧の胸元にはドス黒い赤色の宝石が埋まっている。

 腰には刀を差し、左手には私たちの銃のようなものを、右手には黄金の髑髏でできた杯のようなものを持っているように見える。


「……貴様が人間の王か」


「ぐ……!」


 頭に直接語りかけてくるような、重低音の声が大地に轟いた。


「今すぐ軍を退け。今はその時ではない」


「敵城を眼前にして敵に背を向ける将がいるか? ……魔物を統べる者、魔の王よ、名を名乗れ! 私は人間の王、全人類を統べる者、レオ=フォン=プロメリトスだ!」


「貴様が軍を退かねば、退けるまでよ。()()()()()()


 魔王のその言葉に応じるように、どこからともなく大太刀を持った魔人が現れた。

 その魔人がたった一振したその瞬間、見えない斬撃によって私の前方にいた近衛騎士数十人が瞬く間に胴体が真っ二つに切り落とされ、主人を失った馬が嘶きと共に去っていった。


「……レオ! 強さが違いすぎる! 撤退するしかないぜ!」


 歳三の心すら打ち砕いたその魔人は大太刀を構え、魔王の命令を待っていた。魔王が腕を振り下ろせば、次に飛ぶのは私の首だろう。


「……魔王よ! 私はお前を知っている!」


「戯け! 儂は貴様のような南蛮人は知らぬわ」


「平朝臣織田上総介三郎信長……」


「……ほう、その名を知る者とはな」


「魔王とは良く言ったものだな! 第六天魔王、織田信長!」


 伝説で人類が魔王と対峙したのは約五百年前とされている。信長が死んだのも、私が死んだ時から遡ればそのぐらいだ。


「マタサ」という名の魔人はつまり「槍の又佐」の二つ名を持つ前田利家。今呼ばれた「カカレシバタ」とはそのまま「かかれ柴田」、つまり柴田勝家だ。

 ろくな知能を持たないモンスターたちの寄せ集めのはずである敵軍の動きが妙にいいのは、歴史に名だたる織田家臣団の指揮があるからだろう。


 五つの花弁が描かれた旗印は五瓜に唐花の織田木瓜。

 今まで私たちが甚大な被害を被った敵の攻撃も、どれもが信長の得意戦法の数々だったのである。


「私は魔王という存在は、文字通り魔物の王であり、理知的な会話は不可能であると思っていた。だが、魔王が織田信長公であるとなれば別だ。柔軟な発想を持つ貴君ならば、武力ではなく言葉で今後について話し合えるのではないだろうか!」


 魔王が現れてから、私たちは進軍する手を止め、モンスターたちも動きを止めている。

 これはすなわち、私と信長が合意すれば戦いは終わるということだ。これ以上の犠牲を出さずに戦争が終わるのであれば、それが一番だ。


「……問おう、レオとやら。貴様の目指す天下は如何様なものか」


「争いのない、誰もが幸せに暮らせる平和な世界だ! 日の本を統一しようと目指した貴公なら分かってくれるはずだ! これ以上の分断を生まないよう、私たちで話し合おう!」


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