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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜  作者: 駄作ハル
最終章

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234/263

230話 旅行

 せっかく平和になったのだから私もそれを享受して良いだろう。

 その考えの元私はエルシャを連れて旅行に出掛けることにした。いつまでも皇都に押し込められているのは人間的な生活ではない。


「悪いな孔明。留守は頼んだぞ」


「はい、お任せ下さい。一路平安にございます」


「それから団長、アルド、世話になる」


 私の身の回りの安全を守るとなれば保安局と情報局が動くことになる。


「歳三さんが任務を放棄して戻ってこようとするほど心配してましたよ……」


「私ももう子供ではない。歳三に心配無用だと団長からも伝えてくれ」


「はい」


 私の元まで届く報告書を見る限り、大戦後の大陸における治安自体は極めて良好だ。

 それもこれも彼らの努力のおかげなのだが、戦争が終わって三ヶ月も経てば復興も進み戦後の混乱や反乱の風潮も治まっているだろう。


「レオ様、私は局長として全体の司令塔となりますのでお傍にお仕えすることができません。代わりにこちらの者を──」


 そう言ってアルドに紹介されたのは一人の妖狐族の娘であった。しかしその背格好というのがまた奇妙なもので……


「初めましてレオ様! サツキでござる! にんにん!」


 着物っぽい何かを切り貼りして忍者っぽい衣装に仕立て、背中には中くらいの大きさの刀を背負っている。

 忍者のように隠密性があるのかと問われれば、黒地ではあるもののピンクや赤の花柄で彩られている服や(かんざし)などは目立つし、何より本人に忍ぶつもりが全く見られない。


「あの……、こう見えて彼女はウチでも指折りの諜報員です……。歳三さん仕込みの戦闘能力と私にも劣らない幻影魔法の使い手であり、レオ様のご安全は必ずお守りします」


「その通りでござる! にんにん!」


 この喋り方といい服装といい、歳三から聞いた日本像が歪んで伝わっているようだ。まあ腕が確かならなんでもいいのだが。


「分かったアルド。お前の言葉は常に信じている。……よろしくサツキ」


「にん!」


 そんなこんなで、私たちは保安局の護衛及び情報局の監視の元、旅行に行けることとなったのだった。







「──では出してくれ」


「は!」


 私はせっかくなので機関車に乗りたいと要望し、こうして一等車に乗っている。


 私の指示でゆっくりと動き出した機関車は、黒煙を吐きながらレールの上をガタンゴトンと進んで行った。

 戦前に存在した線路は帝国と亜人・獣人の国々を結ぶ一本だけであったが、大陸全土の資源と労働力を使えるようになった今、路線は拡大を続け王国と協商連合にも一本ずつ、帝国内には複数の線路が引かれた。


「こ、これ速すぎじゃない!? こんな鉄の塊がこんな速さで動いたら死んでしまうわ!」


「大丈夫だ。安全実証はされているし、今まで何度も無事に運行している」


 そう言ったがエルシャは初めて乗る機関車に酷く怯え、私の手を握る彼女の震える手は驚くほど冷たかった。


 エルシャは速いと言うが、ルーデルの目測によると実際は80~100km/hで走っているらしい。

 元の世界の特急と変わらないぐらいであり、新幹線などに比べたら遅すぎるほどだ。ルーデルやハオランの背中の方がよっぽど怖かった。


 だが普通の機関車に比べたら速いのかもしれない。

 石炭に魔石を混ぜた特殊な燃料を使っているし、車体も鉄とミスリルだかなんだかの合金で強度はそのままに軽量化されているとのことだ。


「ほら、窓の外を見てみろ。いい景色だ」


 機関車は皇都を出て亜人・獣人の国方面へと進んでいる。

 よって今見えているのは皇都からエアネストにかけての街道とその周辺の街並みである。


「……意外とこの辺まで発展しているのね」


 エルシャも私にしがみつきながら、窓の外を流れる景色に目を向けていた。


「首都の近くはすぐに開発されるさ。それに沿線上はこれから物資のやり取りが簡単になる。皇都や帝国はもっと大きな街になるな」


「そう……。でもあんまり人ばっかりだと疲れるから、たまには自然の中でゆっくりしたいわ」


「そう言えば君は皇城の庭を散歩するのが好きだったな。これからまずエルフの森に向かうから、エルが見たこともない大きさの木や不思議な花なんかが見られるぞ」


「そう、それは楽しみね……」


 彼女は鉄道が緩やかなカーブに差し掛かるとその度に不安そうな顔をしながら、それでもレールが奏でる一定のリズムに揺られすやすやと眠ってしまった。








『レオ様! 異常なしでござる! にんにん!』


 インカム型まで小型化された通信機には定期的にサツキからの報告が入る。


「サツキ、お前どこにいるんだ? 保安局の兵士が乗る方の客室か?」


 一等車には私とエルシャ、そして軽食などを言いつけるメイドが隅に一人しか乗っていない。


『いや、機関車の“上”でござるよ!』


「……危ないから降りろ」


『えぇー! ここが一番見晴らしがいいのに! ……サツキはここから落っこちるほどどん臭くないでござるよ?』


「……好きにしろ」


 盗賊なんかは事前に保安局が排除しているし、爆弾が線路に仕掛けられたりしていないかも情報局が調査済みだ。

 せいぜい野生動物が線路に出てこないかの確認ぐらいしか仕事はないように思えるが、サツキも張り切っているので全て任せよう。


『ああー! レオ様!』


「どうした!?」


『十時の方向に虹でござるよ!』


「……そうだな」


『いやー、綺麗でござるなぁ!』


 少なくともこの旅は退屈することはなさそうだった。

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