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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜  作者: 駄作ハル
第四章

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210話 疑惑

 結局その晩は一睡も出来ぬまま、会合の日を迎えた。


「朝食はこちらです」


 昨日と同じように和食風で質素な食事。しかし今日はその料理たちも心から楽しむことは無理だった。

 私の料理は一度全て騎士の一人に毒味をさせ、安全が確かめられてから手をつけた。しかしそんな食べ方では腹は満たせても心を満たすことはできない。


「後で帝国から持ってきた干し肉のひとつでも馬車の中で齧らせてもらおうか」


「分かりました。ご用意します」


 食事が済み館を出ると外には私たちが連れてきた帝国の軍が待っていた。


「おはようございます陛下。会合の場所は事前に調べておきました。行きましょう」


「わざわざすまないな団長」


「いえ、これも陛下の安全のためです」


 そうして私たちはアキード側の案内なしで会合の場所へ向かった。








「──私が泊まった所より大きくないか?」


「あァ、随分と差をつけられているみてェだな」


 イサカの街の中でも堀と塀で区切られ独立した、祇園を彷彿とさせる豪華絢爛な場所へ到着した。

 それで会合の場所というのが、そこの最奥にある四階建ての遊郭のような建物である。


 何故ここが会合の場所だと私にも分かったかと言うと、辺りを埋め尽くすほどの王国の兵士がこの建物を囲っていたからである。


「これ何人いると思う?」


『上から見た限りでは五万はいるな』


「対して我々は五千強……。余裕振りすぎてピンチだな」


『心配するな。最悪俺の背に乗せて帝国まで逃げ帰る』


 ルーデルはそう言うが、多くの将兵を残して逃げることなどできない。

 ある意味過酷な戦場に足を踏み入れるような覚悟で建物の前に立っている。


「……これはこれは! まだ呼んでもないのにお早い到着や!」


 ヒリつく空気の中、王国兵と睨み合いを続けていた私たちだったが、すぐに建物からヘンドラが出てきた。

 その横にはディプロマの姿もある。


「時は金なり、という言葉があるように、私は時間を無駄にしたくない性分なのだ。遅れるよりいいと思ってくれ」


「なんや帝国のことわざかなんなのか、ワシは知らんけど。せやけどまあ呼びに行く手間が省けましたわ! さあ早く! あ、でも兵士は入れませんで! 中で待機するのも三十人まででな!」


 ヘンドラは相変わらずの様子だが、ディプロマは少し違った。


「陛下とお付のはこちらへどうぞ。他の兵士たちはこちらでお待ちください」


「ああ」


 以前の祝賀会で少し打ち解けたからだろうか。それとも、私たちの考えに若干でも賛同できる部分があったからだろうか。

 いずれにせよ、まだ交渉の余地がゼロになった訳ではないのだ。


「私の護衛は、昨晩の近衛騎士から一人団長と交代だ。残る兵の指揮は……」


「カワカゼ、頼むぜ」


「はい」


「よし、では行こうか」








 本物を見たことはないが、建物の中も遊郭のような朱に彩られた瀟洒な造りをしていた。

 そんな建物にカーペットやシャンデリアがあり、私と歳三はちぐはぐな和洋折衷様式の内装にかなりの違和感を感じた。


 会合の部屋はかなり奥の方にあるようで、階段を登ったりいくつも扉を抜けたりした。


「──おっと、お気になさらず……」


 その途中、扉が半分開いたままになっている部屋があった。

 ヘンドラはすぐに誤魔化しながらその扉を閉めたが、部屋の中には王国兵が百人規模で待機していたのを私は見逃さなかった。


「ああ。問題ない。何も見ていないさ」


 そうしてやっと会合を行う部屋と見られる、一番大きな扉の前で私たちは一度止められた。


「ここから先に入れるは陛下含めて五人までです。そしてその五人の方の武器は置いていかれるようお願いします。……平和的な話し合いに武器も護衛も不要でしょう」


 ディプロマは少し申し訳なさそうな顔をしながら、そう淡々と告げた。


「なるほど。では歳三、ルーデル、ナポレオン、ハオラン。私と来い」


「いやあきまへん! 竜人はアカンわ! なんでも変身すれば武器を持たずともその恐ろしい爪と牙が武器になるんやろ? そんなのがいたら怖くて話し合いなんてできまへんわ!」


「なんだと……?」


「落ち着けハオラン」


 ハオランはいよいよヘンドラを今にも殺してしまいそうな目をしていた。

 まあ変身して危険というのならルーデルも同じようなものだが、能力はバレていないので大丈夫だ。


 だがそうなると魔銃も弓も持ち込めないならタリオは残念ながら戦力外か。


「では団長にお願いしよう」


 消去法的にそうなる。


「ハオラン、いつだかやったように上空で待機だ」


「……了解した」


 私はハオランにこっそり耳打ちして入室しようと踏み出したその時、ディプロマに肩を抑えられて止められた。


「身体検査にご協力を」


「陛下のお身体に触れるな無礼者!」


 今度は団長がブチギレている。


「私は構わないぞ。やましいことなどないからな」


 私は団長を制しつつ、大袈裟に両手を広げて見せた。

 どこにいたのか分からないが、アキードの人間と思わしき男たちが私たち五人の体をまさぐり始める。


「これはなんだ」


「それはただの勲章だ。その剣付き勲章の小さな剣すらも恐ろしいと言うなら外しても構わないが?」


「……ではこの全員が持っている金属のものはなんだ」


「それはただの装飾品だ。美しい銀色と複雑な機構が帝国の財力と技術力を良く表しているだろう?」


「ではこの魔石がはめ込まれたものはなんだ」


「それは魔導具だ。武器ではないが不安なら別の兵に預けていこうか?」


 こうして身体検査はされたものの、結局は腰に帯びていた剣と護身用の短剣を取り上げられただけだった。


「もういい! 早く入れ」


 これ以上の成果は見込めないと諦めたヘンドラが乱暴に私たちにそう促し、やっと入室することができたのだった。

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