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131話 始動

 その日の夜は久しぶりに穏やかな時間を過ごし、皆で食卓を囲みふかふかのベッドで休んだ。

 そして次の日の朝、私たちはファリア軍を引き連れウィルフリードを後にした。


 他の貴族との交渉や調整は父が代表して行ってくれることになった。確かに私より父の方が顔は利くし、政治にも思慮深い母のサポートもあるので安心できる。


 では私にできることはなにか。

 それは亜人・獣人らとの話を進めることだ。この点に関しては他の人よりも私が頭一つ出ていると自負できる。





 三日かけてファリアに帰還後、私はすぐに書状を認め使者を十名ほど出した。


 書状には、「すぐにでも移住できる者はファリア及びその周辺地域に移住する許可を与える」こと、「いずれ移住を考えている者、また他地域に移住を考えている者も準備を始めると良い」ことを記した。


 間違いなくすぐ来るのはシズネとハオランだ。人数は分からないが妖狐族と竜人族を迎え入れる用意が必要だ。

 森に人狼族が来るだろうが、それは大規模なものになるから時間がかかるだろう。

 ドワーフは皇都にいるザークとも話をしたかったが、事態に性急に取り組まなければいけない以上仕方がない。

 他の種族に関しては孔明に任せた。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 並行して内政も取り組む。私が戦争に出ている間に溜まった仕事が文字通り机の上に山のようにあるのだ。


 今はその中でも孔明には任せられない特に重要な要件を片付けるため、歳三とヘクセルの研究所を訪れていた。


「──レオ様、お久しぶりです!ご無事で何よりです!……あ!この度は帝国に勝利の栄光を与えたレオ様のご活躍に心より感謝の──」


「堅苦しい挨拶は不要だよミラ。君も元気そうでよかった」


 勢いよく飛び出してきたミラは、髪を後ろで束ね袖を捲り上げていた。


「何かの作業中だったかな?邪魔して悪いがヘクセルを呼んでくれ。報告を受けた件について、と言えば分かるかな?」


「はい!すぐにお師匠様を呼んできます!中で少々お待ちくださいっ!」


 ミラがこんなにテンションの高いタイプだったかと少し困惑する。元から明るく元気な性格だとは思っていたが。

 戦争で自分たちの発明が役に立ったことが耳に入っているのだろうか。




 程なくして半地下になっている研究所の地下室からレクセルが現れた。今日の彼女(彼?)は長い黒髪をボサボサにし、目の下にクマができた幸薄そうな顔を前髪で隠している女性の姿をしていた。


「やあレオ君よく来たね……」


「元気……そうではないなヘクセル。新しい発明品ができたと報告があったから来たのだが」


「そう!これはもはや新発明と言っても過言ではない!魔力という普遍的なエネルギーがある特定の属性に変化するこの現象の原因は何かと研究を続けた結果、その謎を解き明かすヒントは魔石にあったんだ!魔石は既に魔力が込められていて属性まで決まっている。つまり魔石を分析することで属性の本質を知ることができる!そして私は遂に突き止めた!属性は魔石の微弱な振動、周波数とでも言おうか、が異なっているんだ!それの原理を利用すればだね──」


 眠そうな先程の様子とは打って変わって、ヘクセルはその見た目からは想像できないほどの声量と勢いで話し始めた。

 私は思わず歳三と顔を見合わせる。


「あー、ヘクセル。君の研究とそこから生まれた発明品は私を大いに助けてくれる。が、残念なことに私は魔法に疎くてな。君の貴重な話も全く理解できない。勿体ないから是非ミラにメモを取ってもらっておいてくれ。いつか役に立つ」


「うぅん……。そうかい……?」


「分かりました!」


 ヘクセルはまだ話したそうに口をパクパクさせていたが、ミラがすぐに私の提案に乗ってくれたのでヘクセルがそれ以上魔法についての話をすることはなかった。


「では本題に入ろう。その興味深い原理を利用した発明品とやらを見せてくれ」


「ああ!これさ!」


 ヘクセルはずっと大切そうに右手に握りしめていた魔道具を私に手渡した。


「以前見せてくれた無線によく似ているな。随分小型化に成功したんだな」


「それだけじゃないぞ!──なんと前はせいぜい机の向こうまでしか届かなかった声が、街の端から端ぐらいなら簡単に届くようになったのさ!」


「……!」


 ヘクセルは声高らかに目を輝かせながらそう言う。


「これはさっき言った周波数が関係していて……っと、それはミラに聞かせるとしよう。と、とにかく、これは君が言っていた世界を変える発明になるのではないかい!?」


「……ああ!ヘクセル!やっぱり私の目に狂いはなかった!あんたは天才だ!」


 単純に距離が伸びただけ。それだけの事だが、それはまさに時代を変えてしまうような事実だ。


「帝国内には各地に一定間隔で伝令が休憩するようの小屋が設けられている。そこにこれを設置し伝令役を駐在させることで伝言ゲームのように遥か遠くまで瞬時に情報をやり取りすることができる……。これで各地の研究者と実験の結果などを交換し合えば今までとは比べ物にならないほどの速さで研究が進むぞ……!」


「ただ欠点もあってね、地下からや厚い壁がある家の中から外は声が届かないんだ。薄いガラス数枚なら大丈夫だけどね。だからこれを設置するなら窓際がいいね」


「これがあれば遠くに住む家族とも連絡が取れます!お師匠様はやっぱり凄いです!」


「おい!思い思い喋るんじゃねェ!──でもコイツがあれば街中の女とも簡単に喋れるってことだよな……?」


 私は思わずヘクセルの手を取る。


「これが欲しい!大量にだ!どれだけ金がかかってもいい!」


「う、うううわわわわ!──わ、わ、分かったよ!分かったからそんな近寄らないで!」


「ミラ!人手が欲しかったら孔明に伝えてくれ!そしてこれの使い方をヘクセルから聞いて分かりやすくまとめといてくれ!」


「分かりましたレオ様!」


「歳三!これを遊びに使うのは平和な世を手に入れてからだぞ?」


「あァ。コイツは危なすぎる存在だぜ……。戦争ってもんが根本から変わっちまう程にな……!」


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