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128話 許される犠牲

 次の日、ファリア軍は既に帰還する用意が整っていたが、総数が文字通り桁違いであるウィルフリード軍は大事をとって明日帰還できるよう調整することになった。


 その間にも孔明の元には多くの種族の族長らが詰めかけていた。

 しかし孔明も全てをファリアで引き受けるのではなく、相互利益の為に他の領地を紹介するなど、さながら相談窓口のように振舞った。


「歳三、少しいいか」


「ああ。どうした?」


「大雑把でいいから我々の被害規模を教えてくれ」


「……お前のその仕事中毒もなんとかならねェのか」


「誰かが働いているのを見ると、自分も働かないといけない気持ちになるんだ。……それと、動いてたら気分も紛れる」


 死者の数などいつ聞いても憂鬱な気分になる。

 ならばこれから戦後処理で忙殺される今聞いといた方が、そのうち頭の中から情報が流されていく。


「まァ帝国軍全体で言えば戦死二割、重軽傷五割だな。今まともに動ける残存戦力は三割程度だ」


「壊滅間近だったんだな」


「だがウィルフリードとファリアに限って言えば戦死一割いくかいかないかって所まで抑えられている。孔明の作戦とレオの活躍のおかげだな。……ただ重軽傷七割とあまり芳しくないが」


 今は一割だとしても、重傷の者が助からなかったら戦死者の数はまだまだ膨れ上がるだろう。

 先に戦っていた帝国軍と、後から来たウィルフリード、ファリアとの戦死者の違いはそこから生まれている。


「装備は基本的に補修すればなんとかなるレベルだ。今回主力は遠距離戦がメインだった分、剣や鎧をあまり壊さず弾薬の消費だけで何とかなった」


「戦いは確実に変わりつつあるな……」


「あー、そのことなんだが──」


 歳三は頭を掻きながら私の表情を伺う。


「実は例の手榴弾だが、周りの奴らからは『変な匂いのする魔導具』と呼ばれてその正体を問い詰められた」


「火薬の存在が露呈したか……」


 歳三は腕を組み俯く。


 歳三が生きた幕末は、刀で戦う旧来の戦争から火薬を用いた銃火器や大砲を使った戦争へと移行したことを示す時代であった。

 自ら銃を取り戦い、そして敵の砲撃に沈んだ歳三だからこそ、事の重大さは身に染みて分かっているのだろう。


「まあそれ自体は一向に構わんよ。製作法を絶対に流出させなければいいだけだ。それにこれはパフォーマンスも兼ねてる」


「……と言うと?」


「兵器の輸出だ。これだけの戦果を挙げれば他の貴族たちも私たちの武器や兵器を欲しがるだろう。どうせなら高く売りつけよう」


「意外だな」


「そうか?」


 歳三は私を訝しげに見つめる。


「レオらしくないやり口だ」


「私も死の商人などにはなりたくない。だが軍の武器をアキードという他国に頼っているのは国として非常に良くないことだ。だから私たちがその役割を奪う。……そうすればやがては帝国に流通する武器の数を調整できる──って段階までいけたら良いなという私の考えだ」


「そこまで考えていたのか。それなら納得だぜ。……だが今一級品である俺たちの兵器をそこら中にばら撒くのはリスクも大きいと思うぜ?」


 歳三の心配も当然だ。


 紛争解決の為に行った武器支援が、数が膨大となり収拾がつかなった。その結果残された武器は紛争の解決どころか新たな紛争に使われてしまう、なんてこともある。


 一番厄介なのはその武器で歯向かわれることだ。

 自分たちの作った武器で殺されることほど馬鹿らしいこともない。


「だからこその次の『英雄召喚』とドワーフらの技術力だ。他の人にくれてやる以上のものを私たちが持てばいいだけの話さ」


 国が公開する、とくに国防分野における“最新技術”とは、既にそれよりも一歩進んだ本当の最新技術が確立しているから、もはや昔のものは見せても構わないというものだ。


 技術力の最先端を往く者は、最も武力を持つ者である。そしてそのまま世界の主導権を握る者と同意だ。

 私たちがそこに立てば平和な世を作るのも現実味を帯びる。

 他人に握らせれば平和を成すことは夢物語に終わる。


「やっと一つ戦争が終わったと思ったら、もう次の戦争の事を考えなきゃいけねェとは、やるせないもんだな」


「平和とは次の戦争への準備期間である、とは誰の言葉だったかな……」


 だとしても、自ら腹を切り裂き血を流しながらでも癌を取り除かなければ、やがて癌は体中に転移しやがて死に至る。

 メスを自らの腹に突き立てる苦渋を誰かが飲み込まなければいけないのだ。

 結果として多くの命を救った偉人だと呼ばれるのは後の時代の人々に任せればいい。


「文字通り血を流しながらでも進むしかないさ」

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