プロローグ(Vorwort zum Hexenschlag)
シナリオの都合によりリライトしました
2022/03/16
加筆修正をしました
2022/11/4
視点や表現のブレを修正し、加筆しました
2023/10/21
修正しました
2023/11/04
空一面に広がる星空に、満月の明るい光がまぶしい夜だ。
私は、依頼主に銀等級、今で言うA~Bランクの冒険者の女一人の護衛を伴ったとある商人に、再起不能なほどの損害を出すという比較的簡単な仕事を受けさせたはずだった。
しかし、今目の前に広がる光景はどうだろうか。
かなり正確な情報を与え、準備もさせた盗賊団が、小さな女の子一人にあしらわれている。
月明かりに映える美しい銀髪を揺らし、水色に輝く瞳はまるで宝石のよう。
彼女は何も特別な事はしていない。
ただただ延々と初級魔法を打ち続けているだけ。
100人はいるであろう彼らが、次々と減っていくではないか。
魔法使いの誰しもが最初に習得する練習用魔法、そんな肉が吊る程度のダメージしか与えない様な魔法に昏倒させられている。
ここに来てようやく気が付いた。
ランクが高いとはいえ、女一人しか雇えないのかという見下したいが為の慢心からくる油断が、いかに大敵であり、いかにそれが深刻であるかを。
そして、戦闘開始からおおよそ10分ほど経って、盗賊団が壊滅した。
彼女は盗賊団を魔法で縛り上げると、不意にこちらに視線を向ける。
まずい、ばれてた、と冷や汗が出るのを感じた。
次の瞬間には衝撃を受けた。
全身の肉が痙攣し、いささかも体が動かない。
あの男の顔が屈辱に歪み、己の無知や楽観的な道化であるかを思い知らせる所を眺める為に、あるいはあわよくば護衛の女を楽しむ為に近くに隠れていたのは失敗だった。
倒れる私を覗き込む美しい少女に、薄れゆく意識の中でも目を奪われた。
「女の子を覗くなんて、変態さんですか?」
笑顔でそんな言葉を発したのを聞いて、私の意識は飛んでいたのだ。
それが彼女を見た最初の瞬間だった。
そしてそれが伝説の冒険者を見た唯一の瞬間だった。
魔女の一撃
それが彼女の二つ名であり、誉れ高き真実だ。
もし叶うのであれば、彼女を主として拝し、永遠の忠誠を誓いたいものである。
―――――とある元犯罪奴隷の取材記録より