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死神が贈る白い華

作者: 博多っ子



風がゆっくりと通り過ぎた。


青い空はその風を静かに見下ろす。


山々が重なり合う小さな町の無人駅に私はいた。


一人で誰もいないベンチに腰をかける。


蝉の声が鳴き響き、駅の外側に見える野原には無数のタンポポがこちらを見ているようだった。



気持ち良い・・・


この景色をもう少し見ていたかった。


私の目からは涙がこぼれ落ちる。太陽の光に照らされ、涙の粒には黄色いタンポポの描写が写っていた。


「みんな・・・ごめんね」


その言葉と同時に私の身体が徐々に薄れてゆく。


落ちる涙は風によって流され最後に私は深く息を吸い深呼吸をする。


「時間だ」


「ありがとう。この景色を最後に見れてよかった」


横には黒いスーツ姿の男。


そう、彼は送る者。


死んだ人の魂が迷わぬように・・・


死を受け入れさせ導く者。


「お母さん、お父さん、タケル、・・・さようなら」


私は目をつむり最後に楽しい出来事を想い出す。


昔、弟のタケルとオモチャの取り合いをした事。


お母さんと一緒に楽しくサイクリングに行った事。


お父さんと何気ない会話をしながら家で一緒にご飯を作った事。


みんなで・・・笑った事。


全てが・・・そう、全てが楽しかった。


「ねぇ、一つ頼み事をしたいの」


男は消えていく私を見ると悲しげな表情で頭を傾ける。


「絵利は幸せだったと・・・お母さん、お父さん、そしてタケルに何かしらの方法で伝えてほしい」


そのお願いを男は静かに受け入れた。


「俺は死神だ。直接本人の前では言えないが・・・・・・だが君の家族が見る夢の中でその事を伝えよう」


男は死神。いくつもの死を見送ってきた。彼が見送るこの絵利と言う少女は白血病で今日の朝に亡くなったばかりだった。



「ありがとう、死神さん 。またもし生まれ変わったら私は・・・・・・私でありたいな・・・・・・」


そう呟き絵利の姿はベンチから消えていった。


「さぁ、お逝き」


死神はスーツの懐から白い花を取り出してベンチの横にそっと置いた。


風はやみ、蝉の鳴き声もやんで辺りは静けさに包まれた。


その時、前方から来た電車が目の前でゆっくりと停車する。


死神はその電車を見上げながら乗り込んだ。すると電車は発進するのではなくそのまま静かに姿を消していった。




死とは?


命とは?


愛とは?


涙とは?


答えられそうで答えられない疑問。その疑問を俺は知っていく事になるだろう。


・・・次の死者は7歳の女の子。


親の虐待で今朝死亡・・・・・・か。


電車の中で死のファイル を見る死神。白紙だった紙に死亡の内容が書かれていく。


直接の死因は栄養不足による餓死。


「可愛そうに・・・」


死神はそう呟き電車のドアを開けた。


まばゆい光が発したと思った瞬間、幼い少女の魂は雨にうたれうずくまっていた。彼は言う、いつものように。悲しい魂を送る為に・・・


「こんにちは・・・あなたを導く者です。」



死に気付いた時、あなたは何を想うだろうか?


私?、私には分からない。


それは君自信が多分、知っているだろう。



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