僕と吉野さんと福原家。
僕は玄関のドアをバタンッと閉めながら、
「ただいまー」
家の中はとても静かで人が居る気配がない。
あれ?お母さんまだ帰ってない?
時計を確認すると、針は19時50分を指しており、いつもなら仕事が終わり、帰宅してる時間帯だ。
僕が玄関で靴を脱いで廊下に上がろうとした時、玄関のドアがガチャと開き30代中頃の女性が入ってきた。
「ただいま。
和人、今帰ったの?」
「うん、おかえりなさい。
お母さんは買い物?」
僕はお母さんが持ってるエコバッグに牛乳やじゃがいも、人参、玉ねぎが入っている。
今日はカレーかぁ。
エコバッグの中にカレー粉のパッケージを見付けて夕食を楽しみにしてると、
「もう部活もないんでしょ。
最近、帰ってくるの遅くない?」
「友達と遊んでで」
吉野さんは大切な友達だから嘘じゃない。
「友達と遊ぶのもいいけど、早めに帰ってきなさいね」
「はーい」
「すぐ夕食作るから待っててね」
お母さんはそう言うとキッチンに向かう。
僕は手洗いうがいをしてから、2階の部屋で学ランから私服へ着替えてからキッチンに向かう。
「手伝うことある?」
「そうねぇ。
サラダを作ってちょうだい」
「ん、了解」
僕は冷蔵庫の野菜室から新鮮なレタス、実がぎっしり詰まったトマト、トゲが付いた胡瓜を取り出す。
パリッパリッとレタスをちぎって、トマトのヘタをくりぬいて、おしり部分から8等分にカットし、斜めにスライスした胡瓜とバランスよく皿に盛り付ける。
母は溶き卵をじゅわっとフライパン全体に広げて、チキンライスを手前に入れて卵で綺麗にくるむ姿を見て僕は、
「カレーじゃないの?」
「今日は遅くなっちゃったからオムライスよ。
和人、ケトルでお湯を沸かしてちょうだい」
母はオムライスの上にケチャップでジグザグに模様を描く。
カレーじゃないのは残念だな。
僕はケトルでお湯を沸かしてる間にトレーにサラダとオムライスを3つ乗せてリビングに運ぶ。
「ただいまー」
玄関から声が聞こえる。父が帰って来たようだ。
「「おかえりなさい」」
母が玄関まで父を出迎えに行き、僕はテーブルの上に料理をセッティングする。
「珍しいな、お前達も今から夕食か?」
「うん。
僕とお母さんもさっき帰って来たばかりなんだ」
「和人、部活はもうないんだろう?遅くないか?」
「……友達と遊んでで」
ヤバい、お母さんと同じ事を聞かれた。
「3年前の事件もあるし、もう少し早く帰ってきなさい」
「はーい」
ん、3年前の事件?もしかして。
「お父さん、3年前の事件って?」
「確か…今頃か。
お前が小6の時に日暮中学校の卒業間近の女生徒が行方不明になったんだ」
やっぱり「日暮中学校女生徒行方不明」だ。
「お父さん、その事件って解決したの?」
「いや。まだ未解決だ。
3丁目の桜の木付近で連れ去られた噂もあったな」
「そうなんだ」
3丁目の桜の木、吉野さんが居る所。
僕は椅子に座り、母はキッチンからコンソメスープを持ってきて、スーツから私服へ着替えた父もリビングへやって来る。
母と父が椅子に座ると、
「「「いただきます!」」」
オムライスの中にチーズが入っていてスプーンで掬うと、とろ~りと伸びる。
僕はオムライスを口の中へ入れて、数回噛んでから、ごっくんと飲み込む。
「お母さん、美味しいよ!」
「あら、あら。
ゆっくり食べなさい」
父はテレビをつけると、丁度「心霊番組」が放送されていた。
深夜、アナウンスのお姉さんが心霊現場に向かってるようだけど、
「貴方、チャンネルを変えて」
「お、おう」
お母さん。
笑顔だけど鬼の角が見える。
父は静かにチャンネルを変えて、僕と目線を合わせてこうなったお母さんは恐いと頷き合った。
ーーーー
「ふぅ」
僕は頭をタオルで拭きながら部屋のベッドにギシッと座る。お風呂上がりなので髪が微かに濡れて頬が桜色に染まっている。
「この記事どうしようかな」
僕は図書室でプリントアウトした「日暮中学校女生徒行方不明」の用紙を広げながら、ベッドにうつ伏せに寝転ぶ。
「日暮中学校女生徒行方不明」はまだ吉野さんに見せていない。
アルバムだけでも、思い出せないことを気にしていたからなぁ。もう少し落ち着いたら見せよう。
あとは。
卒業アルバムの「卒業生住所一覧」のページの神谷家の住所と電話番号を見つめる。
まだ住所に住んでいて電話番号が繋がる可能性は美桜さんの事件を考えると低いけど。
僕は時計を確認すると既に22時を過ぎている。この時間に連絡しても神谷家に迷惑だし明日にしよう。
メモ用紙を取り出して神谷家の住所と電話番号を記入すると、2つ折りにして、事件の用紙と一緒に何時でも取り出せるよう黒いアディレスの財布にしまう。
明日はどうしよう。
うとうとしながらそんな事を考えてると、そのまま瞼が重くなり、視界が暗くなる。
ーーーー
「あら、あの子まだ寝てないのかしら」
もう23時を過ぎている。私は和人の部屋のドアから明かりがこぼれていることに気付くと、
コンコンと静かにノックするが、中から反応がない。
「和人、開けるわよ」
そう断りを入れてからドアを静かに開けて、部屋を覗く。
和人はベットの上で布団も掛けずに眠っている。
「もう。風邪を引くじゃない」
小声で呟くと、私は和人の上に冷えないように布団を掛ける。
あら?一昨年と3年前の卒業アルバム?
私は和人の頭の横に置かれてた2冊の卒業アルバムを持ち上げる。
こんなのどうするのかしら?
私は和人の勉強机の上に卒業アルバムを重ねて置く。
「おやすみなさい」
部屋の電気を消して、パタンと静かにドアを閉める。
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