僕と吉野さんの出会い。
よろしくお願いします。
僕、福原和人は母方の祖母が青森のイタコらしく、昔から幽霊が見えた。母は祖母の仕事のせいで幼少期にいじめにあっており、幽霊などの心霊現象が大嫌いなので、僕が見えることは秘密にしてる。
3年前の僕が小6の春から、近所の樹齢千年と言われている桜の木の下に中学生の少女の幽霊を見かけるようになる。
最初は無視をしていたが、切なげな少女を見ているうちに気になりはじめて、僕が中学3年の春に、
「貴女は誰なの?
どうしてここにいるの?」
とうとう声をかけてしまった。
少女は驚いた顔で僕を見つめて、少女の口が開きかけて俯いてしまった。
「君は…もう亡くなっているよね?
どうしてこんなところにいるの?」
「え?」
少女の透き通るような声が響いた。
「…亡くなっている。死んでいる誰か?」
「君だけど」
「…私が?」
「うん」
どうやら少女は自分が死んでいることも分かってないようだった。
「僕、福原和人っていうんだ。
君の名前は?」
「…名前?誰の?」
「君の」
「私の名前。……分からない、私は誰?」
自分のことも分からないのか。
「年齢は?分かる?」
「…年齢」
少女は顔を横に振る。年齢も分からないのか、僕はそう考えながら、少女を見つめる。少女は腰までの長い黒髪に黒い瞳、僕が通っている日暮中学校の黒のセーラー服を着て、胸元には赤いスカーフが結ばれている。年齢は12~15歳ぐらいかな。
「君は自分のことが知りたい?」
「……?」
少女は僕の質問の意味が分からないように首を傾げた。
「君が自分のことを知りたいと思うなら、僕が君のことを調べるよ。どうする?」
「…………。私も知りたい。
自分が誰か知りたい!」
少女は思案してから、僕を真っ直ぐ見つめて告げた。僕は少女を見つめて頷く。
「そうだ、名前がないと不便だよね。
この桜、染井吉野みたいだから、吉野さんって呼んでいい?」
少女、吉野さんはこくんと頷いた。
ーーーー
僕が吉野さんに声をかけてから3日が過ぎた。
「吉野さんは桜から動ける?」
吉野さんの下半身は消えて見えないが、歩こうとしてるようで。
「だめ、動けない」
「だめ…か」
吉野さんは頭を振りながらそう呟いた。
動けないってことは吉野さんは地縛霊になる。地縛霊は自分が死んだことを受け入れなかったり、自分が死んだことを理解出来なかったりして、死亡した時にいた土地や建物などから離れられずにいるとされる幽霊のことだ、吉野さんの状況と一致している。ん~、3年前に桜で死体が見つかったってニュースはなかったと思うけど…。
「和人くん?」
「ごめんね。考えごとしてた」
いけない、吉野さんを放置しちゃった。
「考えごと?」
「うん、吉野さんのことで。
吉野さんは3年前から桜に居るから」
「3年も居たの?」
「うん、居たよ」
「…そんなに…居たんだね」
やばい、吉野さんは年月も自覚してなかったのか。
吉野さんはしゅんと凹んでしまい、その姿を見た僕は失敗したなっと自己嫌悪に陥った。
「どうして私に声をかけたの?」
「えっ!?」
「3年も無視していたのに、どうして私に声をかけたの?」
「あー、それは、何って言っていいのか…」
やっぱりそうなるよねって思いながら僕は頭を掻いた。
「…僕の母方の祖母は青森でイタコをしているんだ」
「いたこ?」
「んと、亡くなった人の魂をあの世から呼び寄せる口寄せして、魂の代わりに魂の意思を伝える巫女だよ」
「和人くんのお婆さんは、すごい人なのね」
「…すごい人かは分からないけど、僕の母はそのせいでいじめにあっていたらしいんだ」
僕はぽつりぽつりと語り出す。幼少期の母の周りは母もだけど、祖母や僕みたいに幽霊が見える人が居なくて、祖母が目が見えにくいことも手伝って母のことを無視したり、ノートに落書きをしたりするいじめが多かったんだ。
「先生には相談したの?」
相談したらしいけど、先生は事なかれ主義だったのかな?
話は聞いてくれたらしいけど、解決にむけて何かを対策はなかったみたい。幼少期に辛い思いをした、僕の母は幽霊や心霊現象が大嫌いになった。
「心霊現象番組やってても、すごい形相でチャンネル変えるから…。
……なんというか、言いづらくなって、幽霊を見ても無視していたんだ」
「そっか」
吉野さんは優しく短く呟いた。
「でも、3年間も吉野さんを見ていたら」
「見ていたら?」
「なんか…こう、よく分からないけど。
吉野さんが気になって」
「気になる?」
「僕も説明出来ないけど、気になったんだ」
やばい。うまく説明出来なかったから、微妙な何ともいえない空気になっちゃったよ。
どうしよう?
「もし分かったら私に教えてね」
「うん!教えるよ!」
吉野さんは女神のような優しい微笑みを僕にむける、僕は両手で自分の頬に触れるとポカポカと熱かった。
「顔が真っ赤だけど大丈夫?熱じゃない?」
「だっ大丈夫!
大丈夫、熱じゃない!」
心配する吉野さんを安心させる為にも僕はすごい勢いで頭を振り続ける。
「そう。今日は念のためにもう帰ったら?」
「うん。そうする!
また明日ね」
「また明日、待ってるね」
茜色の空と朱色に染まる桜の木の下で、僕達は手を降って別れた。
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挿し絵はRiiちゃん様に描いていただきました。
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