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現実はいつも夢から  作者: aciaクキ
8/35

8 手紙

 お父さんから受け取った紙の左下には、はっきりと『K』と書かれていた。それを意味するのは、俺の能力を変えたのは、K、ということになる。

 俺や綾川さんの能力をことが書かれた手紙を書いた人間がKという時点で、Kは何らかの形で能力に関する情報を手にしているのは確実だった。でもお父さんとKが知り合いというのは予想外で、お父さんが能力に関わっているのも驚きだった。

 引き出しにしまったKからの手紙を見せるべきか悩む。いくつかの可能性が考えられる。

 

 1つ目は、本当にお父さんとKはつながっていて、どれぐらいの関係性かはわからないが、ある一定の信頼はお互いに持っている可能性。もし、これなら俺にKのもとに行かせたがるのもわからなくはない。

 2つ目は、お父さんは実はKの敵で、独自で知ったKや能力の情報を今ある程度開示して、あたかもKの味方であるかのように見せている可能性。けどこの考えは、お父さんが俺にKの住所を書いた紙を渡す理由がわからなくなる。俺の能力が目当てなら無理矢理にでも連れていけるはず。

 3つ目は、お父さんとKが協力して能力者を集めて何かをしている、もしくはしようとしている可能性。Kはファミナル製薬会社の片元とか言う人物とは接触するなと言っていた。もしその片元が俺たちの味方なのだとしたら、Kもお父さんも敵になるといこと。どれが本当かもうわからない。


「本当に、お父さんは、そのKって人と知り合いなんだよね?」


 これさえ確信できれば決断は容易いだろう。でもそれを信じるかどうかは結局自分次第だ。


「そうだ。Kとは昔から知り合いで、夢汰のことでとても助けられた。だから、なるべく彼に協力してあげたいんだ。疑いたくなる気持ちも分かる。けど、ここはお父さんを信じてくれないか?」

「………わかった。そのKって人のところに行ってみるよ」


 これが悩んだ末に出した結論だ。でも、俺一人では行かない。もちろん、綾川さんも一緒にKのもとに行く。夢で見た限り、今日は綾川さんのところに手紙が来たらしいから、もしかしたら、こっちに来てくれという内容なのかもしれない。

 それを抜きにしても、Kのところに行かないと話が進展しない可能性が高い。能力について、俺のかつての能力や、綾川さんの能力。Kなら知っているはず。


 お父さんが仕事に行ったあと、今ある情報を整理することにした。

 まずは能力のこと。俺の今の能力は未来予知。昔は完全記憶という能力だったらしい。Kによって未来予知に能力を変えられたらしい。そのKは手紙が届いていることから、綾川さんのことも知っている。

 

 綾川さんの能力は、多重人格。今は二重人格らしいが増やそうと思えばいくらでも人格を増やせるらしい。その分自分を見失うという大きな欠点も存在する。その別人格の綾川さんは俺をトラックに突き飛ばした。


  綾川さんの家庭の事情は前に聞いた。綾川さんのお父さんが殺されて、再婚した相手が俺のお父さんなのだという。さっき話しをした限りでは、全然そんな風には見えなかった。見えなかっただけという可能性もあるが。ともかく、綾川さんと俺が出会うきっかけを作ったのは、綾川さん曰く、俺のお父さんだという。

 

 そしてK。Kって人は性別も本名もはっきりしていない。お父さんの話を聞いているかぎり、おそらく男性なのだと思う。あとは、さっきもらった住所。これは重要な情報だ。けどそれ以外は全くわからない。まあ、本人に会えればKのことが詳しく分かるだろう。


  綾川さんがここで会ったという、片元美里とかいう人物。俺が起きたときに連絡してほしいって言っていたらしいが、やはり怪しく感じてしまう。俺目当てなのか、俺の能力が目当てなのか。

 Kはこの片元って人とは接触しないほうが良いって言っていたから、あのとき連絡するのを止めたけど、もし片元の方が俺たちの味方なのだとしたら………いや、可能性は低いな。

 夢で見た夜中にここに来た人物は、おそらく片元だろう。綾川さんが言っていた特徴と合致していた。普通にすれ違うだけなら二度見してしまいそうなほど美しい女性だったろうが、実際に互いに目を向け合い、話してみてみると、印象はガラッと変わる。人を品定めするような目、殺しそうな雰囲気には、夢の中だからこそ我慢できたものの、実際に会うときっと声も出せないだろう。片元が病室に入るまでに感じた恐怖が、ずっと続くのだろう。そんな人が俺の味方である可能性は低いと見た。

 俺一人ではどちらにつくかを決めることはできない。綾川さんと相談した上で、どちらが俺たちの味方かを判断する。

 

「暇だ」


 誰もいない、なにもない、あるとしたらゲーム機。そんな静かな病室は、退屈で仕方がなかった。



「竹浦くん、来たよ」


 退屈な時間は綾川さんの声を聞いたことで終わりを迎えた。ここからもまた、説明や情報の今日共有なんかで忙しくなる。けどそれもあまり苦ではない。むしろ、少し楽しみだ。


「今日の学校も楽しかったよ。早く竹浦くんが学校に来てくれることを祈ってる」


 そんな告白まがいなことを言ってくる綾川さんにはいつも勘違いしてしまうそうになる。これまで何度も綾川さんには勘違いしてもいいかななんて思ったりもしたこともあった。


「明日退院出来るみたいだよ」

「そうなの!良かったぁ」

「今日見た夢で医者が言ってたんだ。綾川さんが帰ったあとに言われた」

「そうだったんだね。予知夢は他に何を見たの?」

「そうだな、綾川さんがここに来るのを見たよ」

「話す内容も?」

「ほんの少しだけね。手紙のことでしょ?」

「正解!そう、今朝机の上ににKからの手紙が置いてたの。どうやって置いたんだろうね。内容も夢で見た?」

「いや、そこまでは見れなかった」

「それはちょっと良かったかも。じゃあ、手紙見せるね」


 かばんから取り出した手紙を受け取り、手紙に目を落とす。


『こんにちは、綾川さん。君に手紙を送るのはとても久しぶりだね。先日竹浦くんに手紙を送ったんだけど、彼と内容は共有したかな?もちろん、君に送った手紙と一緒に。彼と君の能力について、理解が深まったんじゃないかな?君たちの中ではまだまだ疑問やらなんやらが残ってると思ってるね。

 さて、この手紙を送った目的を伝えるよ。結論から言うと、君たち、つまり綾川さん竹浦くんの二人で僕のところに来てほしい。理由としては、二人が僕のところに来るときが来たと言ったところだね。まだ能力について話足りない部分があるから、今回来てもらって、全て話せたら良いと思ってるよ。だからなるべく来てほしい。

 それと、君たち二人を、あの集団、ファミナル製薬会社の裏組織、特殊能力研究機関の人間に渡すわけにはいかないってのもある。そこらへんの話も、来てくれたらいくらでも話そう。

 来る来ないかは自由だけど、二人でよく話し合って、結論を出してほしい。正直あまり時間はない。あいつらも、いつ手段を問わなくなるかわかったもんじゃない。だから、結論はなるべく早く出してくれると助かる。住所は封筒に書いてあるよ。じゃあ、会えることを祈って待っているよ  K』


 予想していたとおり、Kからの手紙は直接会おうというものだった。明らかにタイミングが良すぎる。監視されているのか、事前に示し合わせているのか、特殊能力なのか。すべての可能性も十分考えられる。

 朝のことも、綾川さんに話さなくてはならない。しかし、父さんを話に出して良いものか。良くないかもしれない。ここは、正直にすべてを話したほうが良いか。


「ありがとう。俺からも、話すことがあるんだ」

「わかった。聞くよ」


 いろいろ考えながらも、手紙を返し、全てを話す決心を固めた。綾川さんもどんな話が来ても良いように構えていた。きっとそれでも驚くだろうけど。


「今日の朝、俺の父さんがここに来たんだ」


 明らかに動揺していることがわかった。それでも止めるつもりはないようだった。


「それで父さんといろいろ話していく中で、父さんとKがつながっていることを知った。それで、Kに会うと良いって言って、Kの住所が書かれた紙をもらったんだ」


 引き出しから紙を取り出して見せる。綾川さんは、すぐに封筒の住所と見比べていた。


「一緒だ……」


 今、綾川さんは何を考えているんだろう。能力を知っていて、尚且自分の能力の解説もしてくれて、味方かもしれないと思っていた人物が、自分が敵だと思っている相手とつながってたなんて、裏切られた気持ちになるだろう。


「綾川さん…」

「大丈夫、続けて」

「……わかった。今日見た夢で不可解な点があったんだ」

「不可解な点?」

「そう。未来のほうじゃなくて、過去の方なんだけど。過去を見る夢では、おばあちゃんの葬式を見たんだ。けど、俺にはおばあちゃんの葬式に行った記憶がないんだ」

「忘れてるとかじゃなくて?」

「俺が父さんに、おばあちゃんについて聞かされた内容は、あばあちゃんは、俺が生まれるよりも前に亡くなったって事だったんだ」

「それで、お父さんに聞いたの?」

「そのとおり。聞いたよ。意外とすんなり教えてもらえてね、本当は俺も妹もおばあちゃんに会ったことがあるし、一緒に過ごした時間もあるらしい」

「覚えてないの?」

「覚えてない。けどそれは能力のせいだったんだ」

「どういうこと?」


 俺は、自分は昔は予知夢の能力じゃなくて、完全記憶能力を持っていたことや、Kと予知夢の能力を得た経緯を包み隠さず打ち明けた。全部父さんからの情報だったから、何処まで信じてくれたかはわからないが、黙って最後まで聞いてくれた。


「………」

「俺は、能力をもっと知りたい。昔のことを知りたい。だから、Kのところに行きたい」

「わ、私は……まだよくわからない。竹浦くんのお父さんとKがつながってる。それだけでKを信用できるか不安定なの。でも能力のことはもっと知りたい」

「能力について知るなら、特殊能力研究機関でも聞けると思う。でも、Kが向こうに行ってはいけないって言う」

「もし、本当に君のお父さんが私達の敵なら、機関が味方の可能性は高い」


 俺はKのところに行きたい。けど綾川さんはそう簡単に結論は出せない。綾川さんが結論を出すのを鈍らせているのは俺の父さんだ。ゆっくり考えてほしいっていうのもあるけど、今夜片山がここに来る。それが、Kの言う手段を選ばない方法の一つなのだとしたら、あまり時間はない。できれば今日中、最低でも明日には結論を出さないと、機関が俺たちに接触してくる可能性が高くなる。


「俺は、Kの方が信用できると思う。Kの方がたくさん情報を開示しているし、俺の過去だって知ってる」

「でも、それが全部本当だとは限らないわ」


 まったくもってそのとおり。それは自分でもよくわかっている。あと一つの情報を綾川さんに伝える。


「もう一つ、予知夢で今日の出来事を見たんだ」

「それは、何?」

「今日の夜中に、片元が来る」

「え、片元さんが?」

「そう。おかしいと思わないか?そんな時間に来るなんて」

「お、おかしいけど……」

「見たわけじゃないけど、俺を殺しそうな雰囲気も出していた」

「そ、そんな……」


 やはり不安は拭いきれないようだ。でも、ここで折れるわけにはいかない。


「お願いだ!俺と一緒に、Kのところに行ってくれ!頼む」


 最後の手段。必死の願いで頭を下げる。彼女の意見を尊重したかった。けど、今回ばかりは折れてもらうほかなかった。


「……わかった。Kのところに行く」

「ありがとう!」

「そのかわり、もし何かあったら私をちゃんと守ってよ」

「わかったよ」

「あ、あとそれと!」

「どうした?」


 本当にどうしたのだろう。急に顔を赤くして耳まで赤い。顔をそっぽ向けられたのでよく見れなかった。


「こ、これからは、私のこと……あ、綾川さん…ぶの……めて」

「な、なんて?」

「んーもう!だから!私のこと名字じゃなくって名前で呼んでって言ってるの!」


 突然の大声で思わずビクッてしてしまった。声の大きさに驚いたのもあるけど、それよりも聞き捨てならない言葉があった気がした。


「い、いま、自分のこと名前で呼んでって、言った?」

「い、いい、言った!」


 いつもとは少し違った綾川さんが面白くて思わず笑ってしまった。


「な、なに笑ってるの!」

「あははっ!か、顔…真っ赤!」

「なぁぁ、もう!」

「はあ、はあ、ごめんて、笑っちゃって」

「ほんとよ、もう」

「わかった。これからは喜んで下の名前で呼ぶよ。あや…玲奈さん」

「さ、さんも外して…。呼び捨てで、呼んで……」

「良いの?」

「……特別」

「わかった、ありがとう!玲奈」

「私も竹浦くんのこと夢汰って呼ぶからね!」

「良いよ、ぜひ呼んでほしい」


 前々から自分の気持には気づいてた。でも綾川さん、いや、玲奈がどう思ってるのかわからなくて、なかなか言い出せずにいたけど。なんとなく、考えてることは似てるんだなってちょっと思った。だから、俺は怖がらずに玲奈に言える。けど、それは今じゃない。きっとそれは、玲奈にもわかっているはずだ。全ては、今回のことが終わってから。


 その後、玲奈が帰っていき、再び静寂がやっきた。もうすでに医者から、明日退院だということは聞かされた。あと、待ち受けるのは、夜中の片山だけだ。

 時間はもう消灯時間をとっくに過ぎている。そろそろ、足音が聞こえる時間だ。


コツ、コツ、コツ、コツ


 とてもゆっくり、でも一定のリズムを刻むその足音は、徐々に、徐々に俺の病室に近づいてくる。下の受付の人達は何をしているのだろう。侵入者を許すなんて、警備がざるすぎやしないか。

 幸い、恐怖は夢で体験したからか、あまり感じなかった。これさえ乗り越えれば、明るい明日が待っている。

 足音は次第に大きくなり、俺のいる病室の扉の前で音がピタリと止む。扉をスライドする音と共に、カーテンに人影が映るのを見る。人影は大きくなり、入り切らなくなった部分は直接視界へと入ってくる。


「……あんた、誰だ?」

「ふふ、起きていたのね。どうしてあの子は連絡をくれなかったのかしら?」

「俺の質問に答えろ」


 夢の通り、沈黙する女性は暗闇の中こちらをじっと見つめている。


「もう一度聞く。あんたは誰だ」

「ふふ、想像はついてるんじゃないかしら?」

「ついてる。がそのうえで、だ」

「あら、威勢がよくて格好いいわね。あの子が気に入るのもうなずけるわぁ。良いわよ、教えてあげる。私の名前は──片元美里。久しぶりね、竹浦君。ああ、私のことは知らないか。じゃあ、はじめましてね。ちゃんと生きててくれてよかったわ」


 片元は、不気味な笑みを浮かべながら、ポケットからナイフを取り出した。

最後まで読んでくれてありがとうございます!次回もお楽しみください!

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